地方と中小企業を救う「尖った」施策とは? ポストコロナ時代に再始動する地方創生Salesforce LIVE Japanレポート1(2/2 ページ)

» 2022年12月29日 10時00分 公開
[指田昌夫ITmedia]
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IT企業に学ぶべき「性差のない職場環境づくり」

 民間の中小企業が地方創生の主役として活躍するために、官(行政)はどのような支援、あるいは中小企業と連携する必要があるだろうか。

 毛塚氏は、地方創生の最大の成果は、地場の企業が成長して雇用を生み出すことだと話す。「がんばっている企業が行政と連携していないという場合は、行政が企業のニーズを汲み取れていないということだ。独りよがりの政策になっていないかどうかを考えるべきだ」

 地方創生というと企業誘致が連想されるが、行政は地元企業に対する理解を深める必要があるという。「全国の自治体は企業誘致に躍起になっているが、今地元にある企業を大切にすることも重要だ。現状をヒアリングし、それを県の幹部に共有できているかどうかを点検してほしい」

 つくば市は2022年3月、岸田文雄首相を議長とする国家戦略特別区域諮問会議から「スーパーシティ型国家戦略特別区域」に大阪市と共に選定された(注4)。「ただし、地域外の企業とだけ組めば、地域で浮いてしまう。そうならないように協議会には地場の企業や商店、スーパーなどに参加してもらった」(毛塚氏)。

 名称にもこだわった。「スーパーシティ」という名称がまだ浸透していないため、イベントは『ものづくりのお祭り』として開催し、地場の製造業と研究者が接点を持つ仕掛けにした。毛塚氏は「分かりやすい言葉で伝えていくことが大事だ」と強調する。

 東国原氏は「中小企業が地方創生にモチベーションを持つように政治や行政が努力しなければいけない」とコメントした。

 続けて東国原氏が重要なポイントとして挙げたのが「伝統的な事業」と「少し時代遅れの事業」の境界線の引き方だった。「(少し時代遅れの事業は)成長分野にシフトして生産性を上げて企業が成長し、賃金が上がって若年層にも魅力ある企業になってもらう。その結果、地域経済が良い循環に入る。理想論かもしれないが、行政がその支援をすることが重要だ」(東国原氏)

 もう一つのポイントが、女性に選ばれることだという。「女性に選ばれる県、自治体をつくることが重要だ。そのためには労働環境を良くしなければいけない。性差のない職場環境について、IT企業に学ぶべきことは多い」(東国原氏)

 毛塚氏は「行政は、地域経済をもっと知った上で政策を考えるべきだ。地場の中小企業で市役所職員がインターンを実施すれば、現場の理解が深まるだろう」と話す。東国原氏も同意しメモを取っていた。

「デジタル」が中小企業にチャンスを与える

 ここまでの話で、行政と中小企業のより良い関係を築く方向性が見えてきた。中小企業が成長するためにデジタルが果たす役割とは何だろうか。

 毛塚氏は、地方創生の鍵を握るのは「関係性のアップデート」だと話す。他地域から移住するわけでも観光客として訪れるわけでもなく、通勤・通学や地域内にルーツがあることを理由に当該地域と関わる人々を指す「関係人口」の重要性を指摘し、「地方の行政は住民以外との関係性を重視してこなかった」と分析した。

 「さまざまな理由によって、いったん地域から外に出てしまった人は地域との関係が一切なくなってしまうのが普通だ。しかし、私はむしろその人々を大事にすべきだと思う。中小企業も同じだ。地場のマーケットだけでなく、地域から出た人、一瞬だけ関係を持った人なども含めて考えていかなければ、マーケットはどんどん小さくなっていく」

 行政自体のDX(デジタルトランスフォーメーション)も必須だ。役所は部署ごとにさまざまな情報を持っているはずだが、紙でバラバラに管理しているケースが多い。「子どもの貧困を例に挙げると、家庭に関わる福祉分野の機関が保有するデータと学校で実施する健康診断のデータなどはつながっていない。つくば市では庁内のデータを福祉分野の機関と共有している。そのデータを基に、長い間むし歯の治療を受けていない子どもは、貧困状態にあったり家庭内で暴力を受けていたりする可能性があるとして介入することにした」(毛塚氏)

 情報の共有が進んでいないのは中小企業も同様だ。毛塚氏は「企業単独でデジタル化を進めるのは難しい場合もある」として、行政や社外の人材の力を活用するなど、さまざまな関係性を生かす方法を勧める。

 「コロナ禍でワークスタイルが劇的に変化した。フルタイムでなくても、週に数時間、都市部の人材にオンラインで働いてもらうなど柔軟な働き方ができるようになっている。東京の企業に勤める人が地方に移住し、オンラインで仕事を継続することも可能だ。さまざまなオプションを提示することが行政の重要な役割になる」(毛塚氏)

 東国原氏は「その地域に住んでいる人だけでなく、広く関係している人も合わせて地域の在り方を考えるべきだという意見には同感だ。例えばふるさと納税と同じような発想で、税金を2カ所に納めるような政策も考えられる。地方を活性化するためには人口や地域住民といった従来の考え方を変える必要がある」と話した。

 今後、小規模な市町村はフルセットの行政機能を単独で維持することが難しくなると言われている。こうした中、複数の自治体間で情報共有したり、都道府県による区市町村などへの事務業務の支援が必要になったりする。これらはデジタルによる効率化が期待される分野でもある。

これからの中小企業は、変化し続けることが必要だ

 中小企業を含めた地域社会が目指すべき姿とはどのようなものだろうか。

 毛塚氏は従来型の「地方創生」を超えた取り組みの必要性を語る。「果敢に変化を続けることを目指すべきだ。『地方創生』というかけ声の下で実施された取り組みは、まだ余裕がある時期だから可能だったものだ。これから状況はどんどん厳しくなっていく。地域をこれまでと同じ形で残そうとするのでなく、まだ力が残っているうちに自ら積極的に変わっていく“攻めの姿勢”で課題と向き合うことが必要だ」(毛塚氏)

 東国原氏は「中小企業は地域にはなくてはならないものだ。建設業や土木業は災害時には地域を支える役割を担う。製造業や農林水産業は地域に密着し、地域のことを最もよく知っているかけがえのない存在だ。しかし、毛塚氏が話すように、中小企業も変わっていかなければいけないことは確かだ」と語った上で、以下のエールを送った。

 「変化に臆病になる人も一部いる。ここが地方創生の最大の関門だ。ぜひ頭を柔軟、フレッシュにして、これからの時代に合った企業の在り方を模索してほしい。そうすれば自治体や教育機関などと知恵を出し合って、連携しながら乗り越えていけるはずだ」

(注1)「2022年版中小企業白書」(経済産業省)

(注2)「地域経済報告―さくらレポート―」(2022年7月)(日本銀行)

(注3)1次産業である農業従事者が2次産業である製造や加工、3次産業である販売にも取り組むこと。名称は「1次産業、2次産業、3次産業を掛け合わせた産業」であることから。

(注4)「国家戦略特別区域諮問会議(第53回)について」(内閣府)

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