中国電力と富士通がGX推進で協力 再エネ導入拡大に向けた実証試験を実施「再エネ出力制御」問題緩和につながるか?

中国電力ネットワークと富士通は次世代電力ネットワーク技術として期待されるダイナミックレーティングをはじめとする3つの実証実験を実施した。ダイナミックレーティングが実現すれば、これまで固定値で運用していた送電容量を弾力的に運用することによって送電容量の増加が見込めるため、再エネの導入拡大に寄与するとしている。

» 2022年10月17日 07時00分 公開
[山口哲弘ITmedia]

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 中国電力グループの送配電事業者である中国電力ネットワークと富士通は2022年10月12日、中国電力ネットワークの送電設備を活用して取得、変換した風況などの環境データの実用性について、2021年9月1日〜2022年9月30日の間、中国電力ネットワークが所有する中国地方(島根県、広島県、山口県)の送電線計3線路で実証試験を実施したと発表した。

 菅政権時代に政府が宣言した「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、送配電事業者は太陽光発電や風力発電をはじめとする再生可能エネルギー(再エネ)導入拡大のため、電力系統(注1)の増強や系統制御技術の開発などによる電力ネットワークの次世代化を目指している。

 今回の実証試験は、次世代電力ネットワーク技術として期待されるダイナミックレーティングの実現と、送電設備の保全業務高度化に向けたドローンの活用が目的だ。再エネなど環境に配慮したエネルギーへの転換を経済成長に結び付けるGX(グリーントランスフォーメーション)推進で両社が協力するかたちとなった。

なぜダイナミックレーティングの実現が再エネ拡大につながるのか?

 太陽光発電による発電量が多い時期は、中国電力を含む大手電力会社は送電線の容量を理由に太陽光発電業者への「出力制御要請」を実施してきた。供給量が需要量を上回る中で実施される出力制御は電力の安定供給を維持するために必要な措置だが、再エネ導入量が拡大する中、出力制御要請が発生する可能性の高まりが懸念されている(注2)。

 両社は、ダイナミックレーティングが実現すれば送電容量の増加が見込めるため「さらなる再エネの導入拡大に寄与する」としている。その理由を具体的にみていこう。

 今回の実証実験は、中国電力ネットワークの変電所などにおいてOPGW(光ファイバー複合架空地線)振動測定用の光ファイバーの測定装置や計算用コンピュータなど機器一式を設置し、ミリ秒単位の振動データを長さ70キロに渡り、数メートル間隔で取得した。

 取得した振動データを基に富士通独自のデータ変換技術を活用して環境データ(風況)や送電線温度を推定し、これらのデータをドローンの運航支援やダイナミックレーティングに活用するため検証した。

実証試験の概要イメージ(出典:富士通のプレスリリース) 実証試験の概要イメージ(出典:富士通のプレスリリース)

 ダイナミックレーティングへの適用検証は、送電線の温度を推定するため、データ変換技術の検証(後述)で推定した風況データと、鉄塔に設置した各種センサーで実測した日射量や外気温、実際に送電線に流れる電流値をパラメーターとして温度データに変換し、送電線の温度を推定した。赤外線サーモグラフィカメラを設置して送電線の温度を実測したところ、推定値と精度がおおむね一致していることが確認できたという。

推定した送電線温度と実測した送電線温度の比較(出典:富士通のプレスリリース) 推定した送電線温度と実測した送電線温度の比較(出典:富士通のプレスリリース)

 送電線は送電電圧や電線の太さに加え、気象条件を例えば風速0.5m/秒、日射量1000W/平方メートル、外気温40℃といった固定値として定め、電気を流せる容量の上限(送電容量)を決定して運用している。

 再エネを拡大するためには、刻々と変化する気象条件から送電線の温度を正確に推定し、送電容量を弾力的に運用するダイナミックレーティングの活用が有効だ。今回利用した技術がダイナミックレーティングに適用可能であることが検証できたため、これまで固定値で運用していた送電容量を弾力的に運用することによって送電容量の増加が見込める。両社はこれらの理由から「再エネの導入拡大に寄与する」としている。

「スマート保安」をさらに推進するための2つの実証実験

 今回実施したダイナミックレーティング以外の実証試験は次の2つだ。

ドローンの飛行可否の判断に向けたデータ変換技術の検証

 データ変換技術の検証では、OPGWの振動データを変換して取得した環境データ(風況)と現地に設置した風速計の実測データとの比較を行ったところ、おおむね一致していることが確認できた。起伏によって風況が複雑に変化する山間部でも正確で効率的にデータを取得でき、ドローンの飛行可否の判断や風況を考慮した飛行ルートの選定に適用可能であることが検証できた。

 同技術を活用することで、中国電力ネットワークでのドローンによる巡視点検時の安全性向上と保全業務高度化が図れるとしている。

業務実装に向けたプロトタイプシステムの作成と運用検証

 富士通は今回の実証試験によって得られた風況データや送電線の温度など各種の推定データを、送電設備に合わせて地図上に可視化する送電網高度運用支援のプロトタイプシステムを作成した。中国電力ネットワークは同システムでの広範囲にわたるデータの把握や実運用を見据えた操作感、利便性について検証した。

 同システムを活用することで、可視化されたデータに基づいたダイナミックレーティングの実施やドローン飛行の可否判断による業務高度化が図れるとしている。

 電気事業を支える保安業務のうち、特に送電設備の巡視点検業務には大きな労力と時間が必要だ。ドローンなどのICTを活用した保安レベルの維持、向上や保全業務の高度化といった「スマート保安」が求められている。

 中国電力ネットワークはすでに保全業務にドローンを活用してきたが、ドローンの飛行は風に大きく左右されるため、さらなる活用には広範囲に設置した送電線近傍の風況といった環境データをリアルタイムに把握する必要がある。

(注1)発電所から需要家まで電気を届けるための「送電」「変電」「配電」からなる一連の電力設備、システム。

(注2)再エネ出力制御の提言に向けた取組について(資源エネルギー庁)

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