「エッジコンピュータって何」という疑問に明確に答えられる人はあまり多くないかもしれない。本稿ではエッジとクラウドの違いやエッジの特徴、ユースケースを紹介する。
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結局、エッジコンピューティング(以下、エッジ)って何だ――。このような疑問を持っているのは筆者だけではないはず。最近は「クラウド移行にもエッジが活躍する」という話も聞いているが、筆者自身「エッジコンピュータとは何か」になかなか明確に答えられない。そこで本稿は、デル・テクノロジーズ(以下、デル)が2023年6月9日に開催した「エッジコンピューティングの基本」という勉強会を基に、「エッジコンピューティングとは」「クラウドとの違いは」「どのような場面で活躍するのか」を解説する。ちなみにDellは2023年5月に運用プラットフォーム「Dell NativeEdge」を発表し、エッジ向け製品ポートフォリオを拡充している。
エッジを解説するに当たり、デルの羽鳥正明氏(ストレージプラットオームソリューション事業部 販売推進部長)は「Microsoft Bing」(以下、Bing)のAI(人工知能)機能を利用して、回答を図1のように示した。
図2はBingが示したクラウドコンピューティングの定義だ。
羽鳥氏はこれらの回答に対して「まさしくこの通りです」としながら、強調すべき違いに「中央集権型か分散型か」を挙げた。クラウドを利用する場合、データの発生源であるIoTデバイスやユーザー端末などのエッジデバイスからデータセンターまでは物理的な距離があり、通信技術の制約上、ある程度の伝送遅延は考慮しなければならない。加えて通信経路には複数のサーバや通信機器が介在する。その結果、レイテンシが大きくなりやすい。データの発生源近くにエッジサーバを置いてデータ処理ができれば遅延なく応答できる。
レイテンシを含むその他の具体的な違いを示したのが図3だ。
「中央集権的なクラウドと比較すると、まさにエッジは“真逆”です。今後の新たな流れになるかもしれません」(羽鳥氏)
実際に国内のエッジインフラ市場は年々その規模を拡大している。
羽鳥氏は図4を見せながら、「国内のエッジインフラ市場は2021〜2024年で2桁成長すると見込まれています。他のIT市場の成長が鈍化する中、この成長率はかなりすごいものです」と見解を述べた。
デルはエッジを「データが作成された時点で瞬時に本質的な価値を生み出すもの」と定義している。実際に同社の工場「スマートファクトリー」における製造工程にエッジを導入しており、スマートファクトリーにおける受け入れから組み立て、テスト、梱包、出荷の各フェーズでそれぞれでエッジを活用した取り組みを推進している。
「エッジの活用は『エネルギー』『小売業』『製造業』『デジタルシティー』の4つの業界で特に進んでいます。とあるデータでは市場規模の6割をこれらの業界が占めているとされます。あまりエッジに親しみがなくても、実が私たちの生活の多くの場面でエッジは活躍しています」(羽鳥氏)
リテール業界におけるエッジ活用が図6だ。在庫切れの緩和やデジタルアシスト、バーチャルミラーなど、エッジによってさまざまな取り組みが推進されていることが分かる。
エッジ活用のよくある例に「メンテナンスや故障の通知」「セルフレジ」「スマートビルディング」「カーナビの抜け道案内」などがある。これらはまさにレイテンシが少ないエッジだから実現できるといえる。実際に羽鳥氏は「仮にレイテンシが長いことで顧客を待たせることがあれば、それは機会損失につながります。つまり、スピードが求められる現場やネットワーク環境が不安定な場面でエッジは活躍します」と述べた。
エッジ導入を考えるべき指標には「データ強度」「データを洞察するタイミング」「制御作動」「データセキュリティ」「自立性」の5つがある。特にこの自律性はエッジの強みだといえる。仮にネットワークが不安定でも、ローカルのデバイスのみで作動を継続できる。羽鳥氏はこれについて「(ネットワーク環境によって)人間の生命に影響を与える可能性がある場面ではエッジが良いでしょう」と話した。
ここまで聞くと「クラウドよりもエッジが良いのでは」という気がしてくるが、一概にそうは言えない。これは羽鳥氏も述べたことだが、やはりクラウドの「ITリソースの調達が容易」「スケーラビリティ」といった特徴はエッジでは実現できない。重要なことは「クラウドしかない」「エッジしかない」と決めつけるのではなく、「自社のビジネスモデルにどちらが合っているか」を見極めることだ。
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