セキュリティベンダーはなぜいつも同じような話ばかりするのか?Cybersecurity Dive

セキュリティ研究者は、組織がセキュリティ対策に向けて行動するためにはもう一度スノーデン事件のような出来事が必要なのではないかと疑問を呈した。

» 2023年06月17日 07時00分 公開
[Matt KapkoCybersecurity Dive]

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Cybersecurity Dive

 企業は毎年デジタルリスクに直面しており、無防備な企業は被害を受けるか、把握していないところで脅威にさらされていたりする。だが多くの企業は依然としてサイバーセキュリティに真剣に取り組むために必要な基本的な対策すら実行していない。

 サイバー攻撃における最初の侵入経路としてはフィッシングやパッチ未適用の脆弱(ぜいじゃく)性、リスク対策をしていない業務プロセスなどがあり、これらを悪用した攻撃は度々話題になっている。

変革のためにはスノーデン事件が再び起こる必要があるのか?

 業界を行動に駆り立てるためには大規模な出来事が必要かもしれない。

 セキュリティ企業Sophosで応用研究のフィールドCTO(最高技術責任者)を務めるチェスター・ヴィシニェフスキ氏は、「Cybersecurity Dive」に「もしかしたら私たちにはもう一度『スノーデン事件』のような出来事が必要かもしれない」と語る。

 2013年に元情報コンサルタントで告発者でもあるエドワード・スノーデン氏が、国家安全保障局(以下、NSA)から高度な機密情報をリークした事件は、テクノロジー業界に啓示的な瞬間を作り出した。

 「そのとき、私たちは『そうか、インターネット(の通信)を暗号化しなければならないのだ』と気づいた。10年かかったが今ではインターネット全体が暗号化されている」(ヴィシニェフスキ氏)

 ヴィシニェフスキ氏を含む多くのサイバーセキュリティの専門家は20年前からインターネットを完全に暗号化するよう業界に説いていた。スノーデン氏による暴露の後、その警告はついに実ったのである。

 脅威インテリジェンスのコミュニティーからの持続的な刺激が影響を与えている。より多くの組織がセキュリティについてより真剣に取り組むようになっている。

 「2023年の今、暗号化されていないWebサイトを見つけることは難しい。そうなったのは、スノーデン氏の一件によって誰もが暗号化するようになったためだ」とヴィシニェフスキ氏は言う。

結局のところ、反復が行動を促す

 恐怖は強力な動機付けになるが、サプライチェーン攻撃や悪用された脆弱性、ランサムウェアに関する研究者やアナリストからの脅威情報の発信の繰り返しが、より多くの組織を行動に駆り立てるために必要なことなのかもしれない。

 Sophosの商業分野におけるフィールドCTOであるジョン・シアー氏は「世の中にはギャンブラーが多くいる」と話す。

 サイバーセキュリティの専門家にとって繰り返しは重要な役割を果たす。なぜなら、彼らのメッセージを最も聞くべきビジネスリーダーに対して、予防可能な危険性を強く印象付けられるためだ。

 IBM X-Forceの研究責任者であるジョン・ドワイヤー氏は、15年のキャリアの中でベストプラクティスが無視される様子を目の当たりにしてきた。

 ドワイヤー氏はCybersecurity Diveに対して「特権や接続、アクセスの過剰な拡張は長くまん延している。私がキャリアをスタートさせたときから、人々はローカルの管理者権限を取り上げるべきだと言っていた。それは今日でもよくある問題だ」と語る。

 同氏は加えて「外部から見ると、実際には誰もこれらのことを真剣に受け止めていないように見えるかもしれない。人々は常に同じことを話しており、同じようなベンダーが同じことを言っている。変化したのは脅威の状況であり、地球上のほぼ全ての組織が実際に標的とされるようになったことだ」とも話す。

 ドワイヤー氏によると、より多くの組織がセキュリティコントロールやより良いアーキテクチャ、特権とアクセスを制限するゼロトラストモデルを通じてリスクを削減する方法を評価している。しかし一部の企業にとって、これらの目標を達成するために必要な投資の獲得は今もハードルとなっている。

古い同じ問題は代替案に勝る

 サイバーセキュリティの専門家にとって、毎年同じような脅威を耳にして共有することは、ある意味では疲労につながるかもしれないが、攻撃を受けている組織にとっては別の選択肢よりも価値があるだろう。

 企業は、サイバー攻撃者がそれらを悪用する前にハードウェアやソフトウェアの脆弱性を修正し、サプライチェーンを厳しく監視し、フィッシング攻撃の影響を制限できる。

 「フィッシングは依然として企業が直面する脅威のトップに位置付けられる(注1)。私たちはどのくらいの期間、フィッシングについて話してきたのだろうか。誰かがフィッシング攻撃を受けたからといって必ずしも組織が壊滅するわけではない。その間に起こることは山ほどある。フィッシング攻撃を受けること、情報を悪用されることを前提として行動すべきだと私は考えている。それでも危機を防ぐための多くの機会がある」とドワイヤー氏は述べた。

 暗号化が標準になり、普及するまでの長い道のりと同様に、防御の実践とインフラストラクチャの強化はトップダウンで企業に浸透していくかもしれない。「この問題を最初から理解していたのは資金に富む巨大な企業だけだった」とヴィシニェフスキ氏は言った。

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