大企業ほど高額の身代金を支払う? 支払い禁止を巡る「本音と建前」Cybersecurity Dive

身代金の支払いを禁止する措置の有効性について議論が再燃している。これは、ランサムウェアが世界の組織にもたらすコストと関連している。

» 2023年06月18日 08時00分 公開
[Matt KapkoCybersecurity Dive]

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Cybersecurity Dive

 ホワイトハウスが身代金の支払いを禁止する可能性に言及する中(注1)、ランサムウェア被害を受けたとき、最終的に身代金を支払う組織の数は依然として高い水準にある。

 セキュリティベンダーのSophosが2023年5月11日(現地時間)に発表した調査結果によると(注2)、過去1年間にランサムウェアに感染した組織のうち約半数である46%がデータ復旧のために身代金を支払った。

身代金支払い禁止を巡る“本音”と“建前”

 ランサムウェアに関連する支払いの平均値や数値は、研究会社や調査によって異なる場合がある。

 Sophosが14カ国のITおよびサイバーセキュリティのリーダー3000人を対象に実施した調査では、過去1年間の身代金支払い額の中央値は40万ドルだった。

 Palo Alto Networksのグローバル脅威インテリジェンスチーム「Unit 42」は2023年3月に発表したランサムウェアに関するレポート(注3)で、身代金支払い額の中央値は35万ドルであると報告した。2023年5月のはじめにBakerHostetlerが発表した調査では(注4)、身代金の平均支払額は60万ドルで、前年から15%増加した。

 データに相違はあるものの、ランサムウェアに関連する活動の持続性および規模、最終的に犯罪者の手に渡る金額は、ランサムウェアとの戦いにおいて大きなマイナス要因となっている。これはサイバー当局が経済的な動機を持つ攻撃者に対抗するために他の手段を考える原動力となっている可能性がある。

 2023年5月5日に開催されたセキュリティとテクノロジーに関連するランサムウェアのタスクフォースイベントにおいて、サイバーと新興技術を担当する国家安全保障担当補佐官のアン・ノイバーガー氏は「2020〜2022年にかけて世界で6516件のランサムウェア攻撃があった」と述べている。

収益が大きい組織ほど高い身代金を支払う

 ただし、これは政府が把握している攻撃の数にすぎない。

 2023年5月1日の週に発表されたContiランサムウェアグループの活動に関する詳細なピアレビューでは(注5)、多くの身代金支払いが報告されないまま実施されていることを強調された。

 米国土安全保障省サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)の上級技術顧問であるジャック・ケーブル氏を含む研究者たちは、Contiとその前身である組織に支払われた8000万ドル以上の身代金を追跡し、これまで知られていた数字から5倍も増加したことを明らかにした。

 Sophosの調査によると、収益が大きい組織ほど高い身代金を支払う可能性が高く、年間売上高が10億ドル以上の組織における身代金支払い額の中央値は100万ドルだった。年間売上高が50億ドル以上の組織の場合、この数字は300万ドルにまで上昇する。

 Sophosによると、7桁の身代金を支払う組織の割合は、2022年は11%だったのが2023年には40%にまで急増した。

 この調査では、組織が身代金を支払う可能性に、サイバーセキュリティ保険が直接関連していることも判明した。単独でサイバー保険に加入している組織の約5社に3社が身代金を支払ったのに対し、保険に加入していない組織のうち身代金の支払いに応じたのは15%だった。

 ランサムウェアに関連する支払い禁止の実現可能性を巡る議論が再燃しているのは、ランサムウェアが世界の組織に与えているコストと痛みに起因している。

 Unit 42の研究者は、身代金の支払いが3000ドルという低額から700万ドルという高額に及ぶことを確認している。

 Sophosの応用研究のフィールドCTOであるチェスター・ウィスニエフスキ氏は「私は必ずしも身代金の支払い禁止に賛成しているわけではない。なぜならば、それが適切に機能すると思えないためだ」と述べた。

 「副次的な被害が甚大であるため、そのような禁止措置を講じる場合は全ての国からの支持と参加が必要だが、それは難しいだろう。もし、それが完璧に行われればランサムウェアに終止符を打つことができるだろうが、それが現実的だとは思えない」(ウィスニエフスキ氏)

(注1)White House considers ban on ransom payments, with caveats(Cybersecurity Dive)
(注2)The State of Ransomware 2023(Sophos)
(注3)RANSOMWARE AND EXTORTION REPORT(Palo Alto Networks)
(注4)Reassess&Recalibrate(BakerHostetler)
(注5)Money Over Morals: A Business Analysis of Conti Ransomware(arXiv)

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