Microsoft Build Japanが開催 企業のAI活用を支援する新たな取り組みを紹介(1/2 ページ)

生成AIの活用を推進する企業が増えている。Microsoftはそんな企業をサポートするためにさまざまなサービスを打ち出している。本稿はMicrosoft Build Japanの基調講演で発表された2つの新サービスを紹介する。

» 2023年07月03日 08時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

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 日本マイクロソフトは2023年6月28〜29日に「Microsoft Build Japan」を開催した。同社は同イベントを「開発者による開発者のためのイベント」と位置付けており、Microsoftが2023年5月に開催した年次イベント「Microsoft Build」の内容を紹介すると同時に、最新の技術情報や日本における独自の取り組みなどを解説した。

Microsoft Build Japanのロゴ(出典:日本マイクロソフト提供資料)

Microsoft AI Co-Innovation Labを発表

日本マイクロソフトの津坂美樹氏(出典:Twitter「Microsoft Tech」)

 基調講演に登壇した日本マイクロソフトの津坂美樹氏(代表取締役社長)は冒頭で「2023年秋に『Microsoft AI Co-Innovation Lab』を日本で開設する」と明らかにした。同氏によると、「Microsoft AI Co-Innovation Labはさまざまな企業と一緒に新たなビジネスや技術の進化を作り出すための場」になる。

 Microsoft AI Co-Innovation Lab開設の背景には、MicrosoftのAI(人工知能)に対する強い思いがある。

 「生成AIはPCやインターネット、携帯電話に続くテクノロジーレボリューションだ。『ChatGPT』を利用した新たな『Microsoft Bing』のユーザーは日本が最も多く、2週間で200万件の利用があった。開発者の役割がますます重要になる時代がやってきたといえる」(津坂氏)

 Microsoftは生成AIサービスとして「Copilot」をさまざまなサービスに組み込んでおり、最初に発表された「GitHub Copilot」は既に100万人以上の開発者が利用しているという。

 「個人的には『Microsoft 365 Copilot』と『Windows Copilot』によって仕事の効率が高まると感じている。調査によれば『AIに仕事を奪われるのが不安』としている人も49%いるが、『できるだけ多くの仕事をAIに任せて自分の仕事量を減らしたい』という人は70%に達している。まずは日々の仕事でAIを活用することが大切だ」(津坂氏)

Copilot stackを発表

日本マイクロソフトの岡嵜 禎氏(出典:Twitter「Microsoft Tech」)

 日本マイクロソフトの岡嵜 禎氏(執行役員常務 クラウド&ソリューション事業本部長)は基調講演に登壇すると「世界はかつてないほど速くデジタルスペースへ移行している。この変化を支えているのがクラウドだ。また、AIの台頭で世界はさらに大きく変化するだろう」と語った。

 「生成AIは文書や画像、コードを作成するだけでなく、情報の抽出や思考の『壁打ち』に利用することも可能だ。多くの企業で生成AIを導入する動きが見られており、(今後は)あらゆる業務に適用されるだろう。AIに正しい仕事をさせ、効率的に回答を得るにはAIに対する“質問力”が重要になる。また、開発者にも『自分たちの開発スタイルを変えないと時代遅れになる』という危機感が生まれている」(岡嵜氏)

 同氏はMicrosoftが2019年からOpenAIと戦略的パートナーシップを結んでいることにも触れ、「MicrosoftのクラウドおよびAIの責任者であるスコット・ガスリーは『Microsoftは5年前から生成AIによる未来を描いていた』と明かしている。これまではクラウドによる変革が進み、その延長線上でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されてきた。今後はDXの一つとして、生成AIが中心となった『AI Transformation』が変革を推進するだろう」と述べた。

AI Transformationへの変容(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 MicrosoftはOpen AIの技術を活用できる「Azure OpenAI Service」など、さまざまなデータやサービスを活用できるプラグインも提案している。

 岡嵜氏は「Copilotにプラグインをアタッチして機能を追加すれば、より便利に生成AIを利用できる。仮に米国カリファルニア州の法律に特化した形で契約書をチェックする場合、プラグインを介して専門性が高いサービスを利用した方が効率的だ。利用者はこれらを開発なしで行える」と説明した。

 自社のアプリケーションなどに生成AIを組み込みたい場合は「Azure OpenAI Service」が有効だ。Azure OpenAI Serviceでは「GPT-4」の他、「Codex」「DALL-E2」などのモデルが用意されており、岡嵜氏は「大規模な事前学習済みモデルとユーザーデータによるファインチューニングでカスタムが可能になり、テキストの自動生成や画像などの制作を支援できる。また、自らが持つデータをセキュアに活用したり、『Microsot Azure』のさまざまなサービスを組み合わせたりもできる」と話した。

Azure OpenAI Serviceの概要(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 生成AIサービスの機能強化が進むが、外部サービスに企業内のデータを出しにくいとの意見は根強い。岡嵜氏は「企業による"自分たちのCopilotを作りたい"という動きが加速すると考えられる」と話し、「Copilot stack」を発表した。

 Copilot stackは「アプリケーション」「AIオーケストレーション」「インフラ」の3つのレイヤーで生成AIを拡張できるサービスだ。アプリケーションレイヤーで標準機能とプラグインを活用すれば、エンドユーザーは必要な機能を簡単に組み込める。これはアプリケーションを開発するのとは異なり難易度も低く、迅速に利用開始できる。

 AIオーケストレーションレイヤーは「GPT-4などの言語モデルを拡張しながら自分たちの言語モデルを構築したい」というニーズに対応する。AI基盤モデルではOpenAIや『Hugging Face』などの言語モデルを活用できる。さらに、Microsoftが提供する「Azure AI Studio」を使えば、ユーザー独自モデルの構築や学習、プロンプトフローの作成、Azure OpenAIやOSSモデルと独自データのグラウンディングを可能だ。

Copilot stack(出典:日本マイクロソフト提供資料)

 加えて、岡嵜氏はAzure OpenAI Serviceに社内データなどを読み込ませられる「on your data」機能をパブリックプレビューとして提供開始したこと、「Azure Quantum」にCopilot機能を追加し、量子コンピューティングでデータのシミュレーションなどが可能になったことも紹介した。

 AIを高度に活用するにはデータが重要になる。岡嵜氏によると、Microsoftは1日に8兆件のメッセージを処理し、33エクサバイト以上のデータを管理している。これらの環境が同社におけるAIの高度化に貢献している。

 Microsoftは企業のデータ活用を支援するために、データ分析プラットフォーム「Microsoft Fabric」を提供している。同社でCEO(最高経営責任者)を務めるサティア・ナデラ氏はMicrosoft Fabricを「SQL Server以来の最大の発表」と位置付けている。

 「統合データ基盤があっても、それが複数に存在していては結果としてサイロが発生する。Microsoft Fabricであれば、データの統合や迅速なデータの活用が可能になる。データ分析に必要なテクノロジーが全て含まれている」(岡嵜氏)

 Microsoft Fabricの特徴の一つに「One Lake」がある。岡嵜氏はOne Lakeについて「One Lakeはデータを物理的に一カ所に統合するのではなく、クラウドストレージやオンプレミス、SaaSといったさまざまなところにあるデータを仮想的に統合する。これにより、利用者は迅速にデータを活用ができる。また、Copilot機能が搭載されるため、データを集めるためのクエリを自動生成でき、時間や労力を削減できる」と解説した。

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