MicrosoftのロックインにGoogleが“不満爆発” 11ページの非難文の中身とはCIO Dive

米連邦取引委員会(FTC)のパブリックコメントの募集に3大ハイパースケーラーが応じた。Microsoftのロックインに対する業界の批判が高まる。

» 2023年07月17日 07時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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 Googleは2023年6月22日(現地時間)、クラウドコンピューティングビジネスに関する連邦取引委員会(FTC)のパブリックコメントの募集に対し(注1)、Microsoftの独占的な商行為を11ページにわたる回答で非難した。FTCは2023年3月、クラウド市場の競争に関する調査を開始している。

Microsoftの支配的地位を利用した顧客囲い込みにGoogleが提言

 「Microsoftが複雑なライセンス制限を敷いていることによって、顧客、特に既存のオンプレミスの顧客がクラウドに移行する際に他のクラウドプロバイダーを選べなくなり、最終的に顧客は『Microsoft Azure』(Azure)のエコシステムに閉じ込められてしまう」とGoogleは指摘している。

 Amazon Web Services(AWS)とMicrosoftもFTCに回答を提出した。AWSは「クラウドやその他のITプロバイダー間の競争は盛んだ」と強調し、Microsoftはクラウド市場を「非常にダイナミックで競争が激しい」と評している。

 GoogleはMicrosoftがエンタープライズソフトウェアにおける支配的地位を利用して顧客がマルチクラウドを導入するのを妨害していると主張し、Microsoftのライセンス契約の変更によって、他のクラウドプロバイダーへの移行が制限される可能性があるとしている。

 Googleは「これまでにオンプレミスのMicrosoftソフトウェアを購入し、広範なポートフォリオを持っている企業や公共事業の顧客がオンプレミスのワークロードをAzureの競合他社に移行しようとすると、制限や停止を受けたり、課徴金を増額させられたりする」と回答した。

 Googleの苦情の主な争点は、Microsoftが「Office 365 suite」を含む企業向け生産性ソリューションやSaaS(Software as a Service)において、顧客のAzure導入を促進するためにその優位性を公正に利用したかどうかにある。

 Gartnerのデータによると、Microsoftは2022年、電子メールとオーサリングツールの世界市場の80%近くを占め、Googleの20%を上回った。SaaSにおいては、Microsoftは世界全体の売上である1546億ドルのうち15%と控えめだったが、Googleは上位5社にも入っていなかった。

Microsoftの独占的商行為に規制機関が反対するも、大きな改善は見られず

 Microsoftの広報担当者は「ライセンスに関する懸念に対処し、クラウドプロバイダーにより多くの機会を提供するため、クラウドのライセンス条件を変更しました」と述べている。

 同社は2023年3月、顧客が特定のインフラのアウトソーシングとワークロードを実行しやすくするため(注2)、2022年に開始した「CSP partnership program」の強化を発表した。同年5月には、クラウド市場の競争力を巡ってさらなる懸念が提起されている欧州の規制当局を説得するために(注3)、新たな方針を採用した。

 同年11月、AWSも参加するコンソーシアムである「Cloud Infrastructure Service Providers in Europe」(CISPE)は、欧州委員会の競争総局に向け、Microsoftの競争に関して提訴した(注4)。MicrosoftとCISPEの交渉は2023年4月に開始されたが(注5)、和解には至っていない。

 Microsoftの商行為は、英国の電気通信や放送の規制機関であるOfcomによる精査の対象にもなっている。同機関は2022年3月、さまざまな結果を含む報告書を発表した(注6)。

 Ofcomによると、「Microsoftは既存のソフトウェアとの統合性から妥当な選択肢と広く見られているが、事実上のロックインにつながる懸念がある」とのことだ。しかし、Azureは使いやすさを理由に、多くの企業にとって合理的な選択肢であると反論している。

しのぎを削り合う3大ハイパースケーラー 鍵を握るのは既存顧客へのアプローチ

 Google Cloudの市場戦略はマルチクラウドを軸としており、このアプローチは3大ハイパースケーラーの中でも小規模な企業に有利かもしれない。「クラウドプラットフォームに関係なく、顧客の組織の進化に素早く適応できるように設計されたマルチクラウド、ハイブリッドアーキテクチャを奨励している」と、同社はFTCへの提出書類の中で述べている。

 Synergy Research Groupのデータによると、世界のクラウド市場におけるGoogleのシェアは10%で、Microsoftの23%、AWSの32%を下回っているが(注7)、市場の成長とともにGoogleのクラウド収益も伸びている。2023年3月、Googleの親会社であるAlphabetは、2008年の「Google Cloud Platform」設立以来初めて黒字で四半期を終えた(注8)。

 しかしクラウドへの支出が増え続け、オンプレミスのデータセンターから移行する企業が増える中(注9)、市場シェアを拡大するのは難しい。

 GoogleとMicrosoftは、5年前に世界のクラウド支出の半分以上を占めたAWSのシェアを奪いつつある(注10)。しかし、市場が成熟するにつれて、企業は新規ワークロードの移行から既存システムの最適化へとシフトするため、ポジショニングは固定化する可能性があるだろう(注11)。

 この傾向によって、AWS、Microsoft、Googleのクラウド収益の伸びは鈍化しているが(注12)、世界のクラウドへの支出は2023年末までに6000億ドル近くに達し、前年比で22%近く増加すると予想されている。Gartnerによると、Microsoftの立場が最も強いSaaSへの支出は、このカテゴリーのおよそ3分の1を占めるという。

 Gartnerの副社長であるシド・ナグ氏は「Microsoftはソフトウェア分野で長年優位に立っている。クラウドが登場する以前からオペレーティングシステムを所有し、Office 365が登場する以前には、フロッピーディスクで『Microsoft Word』や『Microsoft Excel』を販売することでアプリケーションビジネスを所有していた。その優位性を利用してSaaSに進出し、それをAzureのビジネスと結び付けている」と分析する。

 FTCは、調査・コンサルティング会社Omdiaの2021年のレポートを引用し、米連邦政府機関の生産性ソフトウェアにおけるMicrosoftの市場シェアが85%であることを指摘した(注13)。

 連邦政府は新技術の導入に慎重なことで知られており、Microsoftと競合するGoogleが直面するベンダーロイヤリティーの課題を象徴している。しかし、Microsoftに100億ドルのクラウド契約を結ぶという国防総省の2019年の決定に異議を唱えたのはAWSだった。

 3年間の延期の後、米国防総省は再考し、マルチクラウド戦略を選択した。2022年12月にAWS、Google、Oracle、Microsoftが90億ドルのJoint Warfighting Cloud Capability契約で競争することを承認した(注14)。

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