ビックカメラ「AWS移行、内製化宣言」を裏付けた「ITXプログラム」が新体系に

アマゾン ウェブサービス ジャパン(AWSジャパン)は2023年6月26日、「AWS ITトランスフォーメーションパッケージ」の新たなラインアップを発表。会場ではITXプログラムで内製化を進めるビックカメラのデジタル戦略部長がシステムモダナイゼーションの現状、今後の構想も紹介した。

» 2023年07月04日 09時50分 公開
[原田美穂ITmedia]

 アマゾン ウェブサービス ジャパン(AWSジャパン)は2023年6月26日、「AWS ITトランスフォーメーションパッケージ」(ITX) の進捗と新たなパッケージ提供を発表した。

AWSジャパン 執行役員 事業開発統括本部長 佐藤 有希子氏

 ITXはAWSジャパンが2021年4月に日本独自のクラウド移行支援施策としてスタートしたプログラムだ。クラウドリソースを提供するだけでなく、人材育成やアプリケーション見直しを含む企業全体のITモダナイゼーションも支援する。2022年には「ITX 2.0」を、2023年4月には2023年版「ITXパッケージ2023」を発表し、毎年サービス内容やパッケージ構成をアップデートしている。新しいITXパッケージはクラウドネイティブへの移行に向けた検討支援やGX対応支援が盛り込まれている。

 「ITXはすでに170超の企業が採用している。不確実で将来見通しが難しい昨今の状況からクラウドインフラの存在価値はますます高まっているが、クラウド移行には技術的、非技術的な課題がある。技術的課題は共通化しやすいが非技術的な課題は各社に寄り添った対応が必要だ。刷新したITXパッケージを通じてきめ細かなサポートが可能だ」(アマゾン ウェブ サービス ジャパン 執行役員 事業開発統括本部長 佐藤 有希子氏)

検討段階からクラウド移行計画を支援、人材育成やGXレポートも

  ITXパッケージ2023はクラウド移行の段階や組織の規模に応じてラインアップを用意する。従来提供してきたクラウドリフト段階の企業向けのパッケージ「ITX for Cloud First」に加えて、2023年版では新たに3つのパッケージを提供する。

 クラウドリフト後のクラウド最適化を支援する「ITX for Cloud Native」、パートナーソリューションを生かした各種プログラムを提供する「ITX for MCP Partner」、より小規模な事業者向けに小さなリソースで利用したいというニーズに応える「ITX for Lite」だ。

ITXパッケージ2023のラインアップ(出典:AWSジャパン提供資料)

 「ITX for Cloud First」についても新たにサステナビリティに関するプログラムを追加した。クラウド財務管理レポートとCO2削減効果の可視化ツールも提供する。併せてIT機器買い取りプログラムやサステナビリティに関する評価などのメニューも追加する。

ITX for Cloud Firstのアップデート(出典:AWSジャパン提供資料)

 ITX for Cloud Nativeでは、システムモダナイズに向けた戦略策定やアーキテクチャ検討支援の段階からAWSの専門チームが個別の業務システムを分析、評価してモダナイズの進め方を提案する。

 「このプログラムにおいて『Cloud Native』は『既存の組織やシステムを段階的に変革するもの』として定義している。クラウドネイティブ化のステップとしては、リロケート、リホストを経て段階的にクラウドネイティブ化するステップだけでなく、オンプレミスから一気にクラウドネイティブに切り替えることも考えられる。ITXパッケージはどちらの方法も支援できる」(佐藤氏)。

ITX for Cloud Native(出典:AWSジャパン提供資料)
ITX for Cloud Nativeではアーキテクチャ検討支援(MODA)が含まれる(出典:AWSジャパン提供資料)

ビックカメラ内製化を宣言を裏付けたITXプログラム

ビックカメラ 執行役員 デジタル戦略部長 野原昌崇氏

 2022年6月、家電量販店大手が相次いでDX推進の方針を発表したことが話題になった。ある企業はITプロとタッグを組む体制をとり、ある企業は自社のIT人材育成とあわせて内製化を進める道を選択したことで大きな注目を集めた。この話題の一端を担っているのがビックカメラだ。

 ビックカメラが選択したのはシステムの内製化強化だ。ITXパッケージの会見にゲストとして登壇したビックカメラ 執行役員 デジタル戦略部長の野原昌崇氏は「家電量販店のビジネスモデルを前提に必要なデータは何かを考える必要がある。これからは多数の仮説検証を素早く進めていかなければならない。これにはクラウドと内製化は必須になると考えた」と内製化を選択した理由を語った。

 野原氏は、ITXプログラムがなくてもAWSを選択するつもりだったというが、クラウドを「未知のもの」と感じやすい経営層に対して説得材料を用意するにあたっては「ITXプログラムの支援は大きかった」とクラウド移行や内製化決断までのプロセスを振り返った。

 「ITXプログラムがなくてもクラウド移行を推進する考えだったが、ITXプログラムを適用したメリットは大きかった。未知のクラウドに対して、経営メンバーの多くが疑問に思うことの大半の解決ができた。評価プログラム、運用の問題、人材育成プロセス(CCoE)チーム構築の支援、投資コストのいくつかが回収できるプログラムがある点はとても経営に説明しやすかった」(野原氏)

 ビックカメラは今秋にも基幹業務システムのクラウドリフトを完了させる予定だ。今後、顧客行動分析のメーカーへのフィードバックや工事受付や人員の調整などのアフターサポート部分の顧客体験改善などを進めていくという。

ビックカメラが推進する基幹システムのモダナイゼーション(出典:AWSジャパン提供資料)

 「顧客サービス体験の質を継続的に改善するには、基幹システムとは切り離した運用をしやすいほうが良い。いままでの大きな基幹システムを(クラウドリフト以降をきっかけに)小さくしていく考えだ。ゆくゆくはクラウドネイティブなアーキテクチャに移行し、仮説検証を迅速に進められる環境を整える」(野原氏)

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