「なぜ、わが社は『データ活用人材』を採用できないのか」 調査データの“裏側”を覗くアナリストの“ちょっと寄り道” 調査データの裏側を覗こう(1/2 ページ)

今回から矢野経済研究所の山口泰裕氏の新連載をお届けする。データドリブン経営が謳われる中で、データ分析人材を確保することは必須だが、「売り手市場」に手をこまねいている企業も多いのではないか。調査データの“裏側”に潜む実態とは。

» 2023年07月28日 08時00分 公開
[山口泰裕矢野経済研究所]

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 読者の皆さんは、各種記事を読まれる中で「〇年には△億円に拡大する」といった市場規模推移予測データを日々目にしておられることだろう。資料作成に際して当該市場規模推移予測のニュースリリース(原文)までさかのぼった経験もあるかもしれない。

 しかし、文字数が限られるニュースリリースでは、市場の背景や具体的な動きにまで言及するのは難しい。本連載では、調査データの“裏側”に回り込み、調査対象の「実際のところ」をのぞいてみよう。第1回はデータ分析関連人材の実態を取り上げる。

引っ張りだこの「人材」をどう確保する? 「採用」「育成」の実態

 多くの企業が現在、データドリブン経営の実践に向けて取り組んでいる。今回はデータドリブン経営を担う人材にフォーカスしたい。矢野経済研究所では、4人材(データサイエンティスト、データアーキテクト、データコンサルタント、プロジェクトマネジャー)を「データ分析関連人材」と定義し、各人材の人数規模推移予測を発表している。

 本稿では、データ分析関連人材規模推移予測の“裏側”をのぞいていく。まずは簡単にデータ分析関連の各人材について押さえたい。

 「データサイエンティスト」はモデルの開発からレポーティング、効果検証などを担う人材を指す。「分析アーキテクト」はデータサイエンティストの開発したモデルを実際のシステムに実装する役割を持つ。「分析コンサルタント」はデータ活用戦略の立案や戦略の実行に際して必要な各種リソースの整理などを担う人材として定義している。そしてこれらの人材をまとめるのが「プロジェクトマネジャー」だ。この4人材を「データ分析関連人材」と当社は定義している。

データ分析関連人材の定義(出典:筆者作成) データ分析関連人材の定義(出典:筆者作成)

データ分析関連人材は2023年度は12万3400人、2025年度には17万6300人に達する見込み

 こうした4人材の合計値であるデータ分析関連人材の規模(人数ベース)について、矢野経済研究所は2023年度は12万3400人に上ると見込む。ITベンダーでジョブ型採用が広がる他、高度なスキルを持った人材をつなぎとめるべくスキルや成果に応じた給与制度が徐々に浸透してきた点も規模拡大に功を奏している。

 さらに、一部のITベンダーはデータサイエンティストや分析アーキテクトといった分析に関わる専門職の育成と併せて、データを活用してより成果を出すことに長(た)けた分析コンサルタントをはじめとするビジネス寄りの人材を充実させようと力を入れ始めている。こうした施策を受けて、データ分析関連人材の規模は今後も拡大するとみている。

 ユーザー企業では前年度までと比較してデジタル領域を中心にジョブ型採用が広がり始めている。従来の総合職としての一括採用から、修士以上を中心として大学院で培った専門スキルを生かすスペシャリストとしての採用への過渡期を迎えている。加えて、データサイエンティストを支援するツールの充実によって育成のハードルが下がってきているため、データサイエンティストの内部育成に向けて従業員のリスキルに積極的に取り組み始めている点も規模拡大に影響している。

 矢野経済研究所はデータ分析関連人材規模が2024年度には14万6900人、2025年度には17万6300人に達すると予測している。データ分析関連人材が多く在籍しているのはITベンダーだが、ユーザー企業においても業界問わずデータドリブン経営を全社的に浸透させる動きが進むとみている。ユーザー企業の中では特に金融業や製造業、MI(マテリアルズインフォマティクス)(注1)を抱える化学メーカーなどがデータ分析において先進的だ。今後はさらに幅広い業界でこうした動きが興隆するはずだと筆者は考えている。

データ分析関連人材の規模の推移(出典:矢野経済研究所の提供資料) データ分析関連人材の規模の推移(出典:矢野経済研究所の提供資料)
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