わずか5年で時価総額3.5倍の秘密 日本企業でもGAFAから学べること(2/2 ページ)

» 2023年08月02日 10時00分 公開
[村上和彰豆蔵]
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デジタル時代のビジネス成長方程式はなぜホッケースティック曲線を描けるのか

 さて、以上述べたビジネス成長ループを実装、実行した結果が、図4に示したビジネス成長方程式として現れる。左が「アナログ時代のビジネス成長方程式」、右が「デジタル時代のビジネス成長方程式」である(図4)。

図4 デジタル時代に適した “ビジネスの成長のさせ方” への変革 (成長方程式)

 まず、アナログ時代のビジネス成長方程式から見てみよう(図4左)。実際には右肩上がりで成長させること自体が至難の業であり、これはこれで素晴らしいのだが、図4右のデジタル時代のビジネス成長方程式と比べると以下の点で見劣りする。まず、(後から述べるようにパラメータの設定次第で変わるが、原理的に)成長の傾き(成長率g)が小さいので成長速度が遅い。デジタル時代の成長が掛け算の世界、非線形であるのに対して、アナログ時代の成長は足し算の世界、線形である。一方で、アナログ時代は、事業開始の初期段階からある程度の成果yが期待できた。横軸に時間tをとっているが、デジタル時代の成長曲線は初期段階では緩やかであり、一般的に支出が収益を上回る(いわゆる「コールドスタート問題」)。

 なぜデジタル時代の成長方程式は非線形の成長曲線、いわゆる「ホッケースティック曲線」を描くことができるのか。これにはいろいろな要因が絡んでいるが、一番大きな要因は「ネットワーク効果」である。(ここでのネットワーク効果はネットワーク全体の価値をネットワークに接続する通信機器の数の2乗に比例することを表す「メトカーフの法則」とは同義ではないのでご注意いただきたい)。

 詳細は割愛するが、ネットワーク効果は単にネットワークに参加するユーザーや顧客を増やすだけでは得られない。そこにはさまざまなパラメータの調整、最適化が必要となる。筆者はその中でも次の3つのパラメータが重要だと考える。まずは本連載第1回で述べた「事業前提」で決まる値p、次に本連載第2回で述べた「顧客価値創造の成功率」s、そして「顧客価値創造の速度と頻度」fである。これら3つのパラメータだけで成長方程式を描いたのが図5となる。

図5 デジタル時代のビジネス成長方程式

ホッケースティック曲線の描き方 5つの仮説

 アナログ時代とは異なり、デジタル時代は業界や業種業態を問わず事業経営者は誰でもこの「ネットワーク効果」や「デジタル時代のビジネス成長方程式」を獲得できる。それには、単に経営資源の一部をアナログリソースからデジタルリソースに置換したり、製品やサービス、ビジネスプロセスにデジタル技術やデータを活用したりするだけでは十分ではない。すなわち、デジタル技術とデータに基づく新たな事業前提を設定して、顧客価値の創造や事業の創出や変革が必要になる。

 これは多くの経営者にとっては未体験のことで、恐れもあるかもしれない。しかし、そこには幸いなことに有効な先行事例や方法論が存在する。その方法論の幾つかを「変革のために何を行うのか?」(DXのWHAT)として、次回以降で紹介する予定だ。本稿は最後に、「どうやってデジタル破壊者はデジタル破壊を起こしたのか」という問いに関する仮説を紹介する。

  • 仮説1 デジタル時代のビジネスの"5つの困難"を脅威ではなく、"機会"と捉えた。5つの困難とは「顧客価値体系の変化とエコノミーの変遷」「顧客価値を実現するための選択肢の多様化」「事業環境の変動、変化の激しさ」「デジタル破壊者の出現の可能性」「事業前提が水面下で大変化」である
  • 仮説2 デジタル時代に適したビジネスへの"変革"を断行した。変革とはすなわち、デジタル時代に適した 「ビジネスの像への変革」「ビジネスとデジタル&データの関わり方への変革」「ビジネスの創り方への変革」「ビジネスの回し方への変革」と「ビジネスの成長のさせ方への変革」を含む
  • 仮説3 デジタル技術とデータを軸に自ら事業前提を確立した
  • 仮説4 高速、高頻度、高成功率で顧客価値を創造する能力を獲得した
  • 仮説5 自ら価値交換、共創の場を創った
  • 仮説6 その“場”を急いで大きくした

 ここまで、4回の記事を読了された読者の皆さまは、「具体的には何をすればいいのか」「自分たちは何から手をつければいいのか」と、DXによる変革のスイッチが入っていることでしょう。次回以降は、企業のDX推進を支援している豆蔵の現役コンサルタントがDX推進施策の実行に向けた知見を紹介します。第5回は、今回記事で「ヒトと組織の変革ループ」として言及した、喫緊の課題であるビジネスで活躍できるDX人材の育成について具体事例を交えて紹介します。

企業紹介:豆蔵

情報化業務の最適化とソフトウェア開発スタイルの革新を推進するコンサルティングファーム。デジタルトランスフォーメーション関連ソリューションでは、ビジネスのデジタル化による事業の効率化、競合優位への判断、新製品や新サービスの創出に求められる高度なデータ解析、AI/機械学習に関するコンサルティングや人材育成を提供する。

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