わずか5年で時価総額3.5倍の秘密 日本企業でもGAFAから学べること(1/2 ページ)

「DXを成功させるために何から着手すべきか?」――の悩みに目的の設定や人材育成、データ活用などのさまざまな観点から答える本連載。第4回となる本稿はデジタル時代に成功し成長している企業の共通点を探る。

» 2023年08月02日 10時00分 公開
[村上和彰豆蔵]

この連載について

 現代の全てのITリーダーや経営者の悩みは、おそらく「デジタル時代にビジネスを成功、成長させるためにいま我が社が挑戦すべきことは?」ということだろう。言葉を変えると、「デジタル変革(DX)を成功させるために何から着手すべきか?」ということになる。

 本連載では上記の悩みに答えることを目的に、DXのコンサルタントを務める筆者陣がDXの目的と戦略の策定から、人材育成、システム構築と運用まで、DX成功の下地となる知識を体系的に解説する。「ITツールを入れてみたけれど、なぜか使われない」「そもそもDXの定義がよく分からない」「従業員にどのようなスキルを身に付けさせるべきか」など、ITリーダーや経営者が変革の現場でよく抱く疑問にも事例を交えながら答える予定だ。なお、ここではDX を「デジタル時代に有効な事業経営、企業経営に変革し、かつ変革し続けること」と定義する。

筆者紹介:村上和彰 豆蔵デジタルホールディングス 社外取締役 DXパートナーズ シニアパートナー & 代表取締役 国立大学法人九州大学 名誉教授 事業構想大学院大学 客員教授 長崎県デジタル戦略補佐監 京都大学博士 (工学)

1987年より九州大学にてコンピュータシステムアーキテクチャの教育研究に従事、2015年末に早期退職。その間、情報基盤研究開発センター長、情報統括本部長、公益財団法人九州先端科学技術研究所副所長を歴任。2016年2月に株式会社チームAIBODを創業、多くの企業のAI導入、データ利活用、DXを支援。2020年4月に株式会社DXパートナーズを創業。2022年6月に豆蔵デジタルホールディングス社外取締役、2022年11月に長崎県デジタル戦略補佐監に就任。

 GAFA各社の株式時価総額は、2017年から2022年にかけて圧倒的な伸びを示している。Google(Alphabet)は、6800億ドルから1万8215億ドル(2.7倍)、Amazonは4760億ドルから1万6353億ドル(3.4倍)、Facebook(Meta Platforms)は4410億ドルから9267億ドル(2.1倍)、そしてAppleは 8010億ドルから2万8282億ドル(3.5倍)にまで成長した(注1)。

注1:総務省『総務省情報通信白書令和4年版』(2023年7月23日アクセス)

 このような「スカイロケッティング」や「ホッケースティック曲線」と表現されるノンリニア(非線形)な成長はどのようにしてもたらされるのだろうか。シリーズ第4回となる本稿では、これら「デジタル時代に成功し成長している企業」、言い換えると「デジタル破壊者」「デジタルネイティブ企業」がどのようにして「ビジネスを成長させているのか」を見てみよう。

時価総額を数倍に成長させている企業から学べること

 ここからは、デジタル時代に適した「ビジネスの成長のさせ方への変革」について解説する。図1の左側に示したのは典型的な『アナログ時代のビジネス成長方程式』だ。デジタル時代に入って皆さんはどのようなビジネス成長方程式を描くだろうか――。本連載第1回の末尾に、筆者は読者の皆さんにこのような問いを発した。

図1 第1回の最後に筆者が読者に対して発した質問

 この答えに関する解説の前に、まずは「アナログ時代のビジネス成長ループ」と「デジタル時代のビジネス成長ループ」の違いを見てみよう(図2)。

図2 デジタル時代に適した “ビジネスの成長のさせ方” への変革 (成長ループ)

 アナログ時代のビジネス成長の要点は、ビジネスプロセス(コマーシャルプロセス、オペレーショナルプロセス、バックオフィスプロセス)の強化や改善を目的に、経営資源をアナログリソースに投資する傾向にあった。これはあらかじめ存在している製品やサービスのマーケットに対して、他社に比べて高品質、高機能ないし低価格という顧客価値を訴求することでビジネスを成長させる戦略に基づいている。

 つまり、新たな顧客価値創造よりも、「高品質、高機能ないし低価格」という既定路線の顧客価値に磨きをかけるために、ビジネスプロセスの強化や改善に努め、そのために経営資源に投資するという流れがあった。

 一方、本連載第1回でDXに着手しなければならない理由(DXのWHY)として述べたように、デジタル時代の今日、顧客価値体系が変化し、エコノミーが変遷した。顧客が価値と感じるものが「高品質、高機能」に代表される使用価値や「低価格」といった交換価値だけではなくなった。従前から存在はしていたが、認知したり操作したりすることが不可能だった体験価値や共感価値が、デジタル技術の登場により認知、操作できるようになった。

 事業者は新たに顕在化したこれらの顧客価値とどう向き合うか、さらには使用価値や交換価値、知覚価値、体験価値、そして共感価値の5種類の顧客価値をどう創造していくかが問われている。

 第2回第3回ではDXを実施するための方針(DXのHOW)としてデジタル時代に適した 「ビジネスの像への変革」「ビジネスの創り方への変革」「ビジネスの回し方への変革」について解説してきた。そこで繰り返し述べた通り、使用価値や交換価値、知覚価値、体験価値、そして共感価値といった顧客価値を「デジタル技術とデータを前提に高速、高頻度、高成功率で創造する」ことがデジタル時代におけるビジネス成長の要だ。

 この「デジタル技術とデータを前提に高速、高頻度、高成功率で顧客価値創造」を確実に実行するには、図3の上部にある2つのループが必要となる。1つは「データ駆動型意思決定力向上からアジャイル問題解決力向上に至る」プロセス変革ループ、もう1つは「DX人材育成から“進化する組織” への変革に至る」のヒトと組織の変革ループである。これら2つのループは、先に述べた「デジタル時代に適したビジネスの回し方への変革」そのものである。

図3 デジタル時代のビジネス成長ループ
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ