「微動だにしない財務経理部門」では立ち行かない IBM調査

IBMは、サステナビリティーに対する経理財務部門の役割と実際の取り組みに関する調査の結果を発表した。世界のほかの地域と比べて変革型リーダーの割合が最も少ない日本企業では特に、経理財務部門リーダーに抜本的な意識改革と行動変容が求められている。

» 2023年08月14日 12時24分 公開
[山口哲弘ITmedia]

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 日本IBMは2023年8月8日、IBM Institute for Business Value(IBV)が33カ国18業界の経理財務部門リーダー1085人を対象に実施した調査の結果「SX推進でビジネスを変える」を公開した。調査はサステナビリティーに対する経理財務部門の役割と実際の取り組みを調べたものだ。

変化の時代なのに財務経理部門の意識改革は進んでいない

 同調査によれば、日本には「変革型」のリーダーが非常に少なく、世界全体の動向と比べて財務経理部門の変革が進んでいない状況が明らかになった。

 世界的な動きとして環境経営に優れた企業は投資対象として評価が高く、企業の財務状況を強化する意味でもこうした取り組みは欠かせない。財務経理部門は前者の取引状況の把握や社内ルール整備などで重要な役割を担うはずだが、その意識がない企業がまだ多い状況だ。

 同調査では、日本は「変革型」リーダーの割合が世界の約半分と、非常に少ないことが分かった。IBMは、経理財務部門リーダーの抜本的な意識改革と行動変容が特に必要だとしている。

 「変革型」の経理財務部門リーダーとは、経営基盤を再構築するためにサステナビリティー投資を実施するリーダーを指す。今回の調査では、世界では10%、日本では5%の経理財務部門リーダーが「変革型」に分類された。IBMは今回の調査で、企業のサステナビリティー推進に当たり、経理財務部門リーダーに求められる責務について、実際の取り組みの状況が分かったとしている。各責務について、変革型経理財務部門リーダーの間で最も取り組み割合が高かった項目は次の5つだ。

 1つ目は、「サステナビリティー活動の定量化の主導」。変革型経理財務部門リーダーが取り組んでいる割合は、事業の投資価値や正当性を示す説明文書といった「サステナビリティー活動にかかるビジネス・ケースの構築への貢献」が53%、「さまざまなサステナビリティー目標の優先順位を決定する業務の支援」が43%、「サステナビリティー活動のビジネス・ケースを評価する基準の設定」が40%だった。

 2つ目は、「各組織が持続可能な方法で資金を調達し、サステナビリティー活動へ投資資金を配分できるようサポート」。同様に、「サステナビリティー活動の進捗(しんちょく)状況について投資家への情報提供」は49%、「サステナビリティー活動向けに新たな資金調達源を見いだす」は47%、ブランドへの影響など「サステナビリティー活動の非経理財務的なメリットの明示化」は42%だった。

 3つ目は、「サステナビリティーを重視する組織文化の醸成の支援」。「全社的なサステナビリティー戦略を実施する上で、従業員の足並みがそろうようにインセンティブを設定する」は44%、「エコシステム・パートナー全体でインセンティブの方向性を一致させる」は38%だった。

 4つ目は、「サステナビリティー・レポート作成を業務に組み込む」。この項目では、「サステナビリティー目標を反映した、新しい報告基準を明確にする」と「物理・業務・財務・環境上の各リスクを定量化する」にはそれぞれ42%、「社外向けのサステナビリティー報告に関してナラティブ・ディスクロージャー(財務諸表を補完する定性的な情報開示)を支援する」には39%の変革型経理財務部門リーダーが取り組んでいた。

 そして5つ目は、同部門のオフィス環境やテクノロジー選択の意思決定など「経理財務部門の業務にサステナビリティーの視点を取り入れる」。変革型経理財務部門リーダーが取り組んでいる割合は、「経理財務部門に所属する従業員の自宅・職場間の通勤に伴う温室効果ガス排出量を削減する」が58%、「従業員が出張に伴う各種予約を行う際に、排出量を相殺する手段、もしくは同等の手段を選択できるようにする」が56%、「出張予約システムに排出に関するデータを加え、従業員が出張手段を決める際の判断材料にする」と「経理財務部門に所属する従業員が勤務する社屋の排出量を削減する」がどちらも52%だった。

 IBMは、世界の他の地域と比べて変革型リーダーの割合が最も少ない日本企業では特に、経理財務部門リーダーに抜本的な意識改革と行動変容が求められていると指摘している。

 具体的には次の3つを提言した。

 1つ目は、サステナビリティー活動の定量化やKPI設定を検討する段階で経理財務部門が関与し、最終化の段階でチェックする仕組みを整えること。2つ目は、サステナビリティー活動の社内外への影響を推定し、金額的影響や金額換算の重要性を率先して社内に発信していくこと。3つ目は、サステナビリティー・レポートを作成するに当たって、全社的な協力体制を整えること。今後、日本企業にとっても、サステナブル経営を推進するためには経理財務部門の戦略的アドバイザーとしての機能が不可欠だとしている。

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