脱サイロ化におけるIT部門の仕事は何か 「テッパン」3ステップ部門ごとの無駄を排除する時の注意点

IT部門のリソースを効果的に生かすには、ITサービスの全社的な一元化が重要だ。だが、その過程は複雑であり、それぞれのステップで重視すべきポイントが異なる。各ポイントでIT部門は何に留意すべきだろうか。アナリストに聞いた。

» 2023年08月18日 08時30分 公開
[George LawtonTechTarget]

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 今日の経済情勢やハイブリッドワークの浸透、あるいはクラウドでのサービスプロビジョニングが簡易に実現するようになったことを受けて、幾つかの要因がビジネス機能の集中とシェアリングサービスのトレンドを押し上げている。

 IT部門は、業務を合理化し、冗長性と重複を削減してコストを削減するために全てのビジネス機能を一元的なサービスポイントに統合する戦略を策定している。

 PwCのクラウドおよびデジタル戦略プラクティスのリーダーであるヴェンキー・ジャヤラマン氏は、「大規模な組織ではITサービス、特にアプリケーションサポート、サイバーセキュリティおよびネットワーク、コンピューティングとエッジ、ヘルプデスク、サービス管理などのインフラストラクチャサービスを一元化することが一般的だ」と述べた。

 だがこの工程は慎重にステップを踏まなければ失敗してしまうリスクも大きい。

サイロ化したITサービスは3ステップで統合せよ それぞれのポイント

 ジャヤラマン氏によると、ビジネス機能を一元化し、サービスを共有することで、20〜40%ものコスト削減を実現した企業もある。

 一元化によって、企業はアーキテクチャとプラットフォームを標準化できる。また、IT環境の断片化が少なくなれば、企業はプロセスの自動化や拡張、インフラストラクチャのサポートに必要な技術的専門知識をより容易にの統合できる。

 例えば各ビジネスユニットがそれぞれ独自の標準とプロセスを持つネットワークチームを持つ場合、そのチームは担当ビジネスユニットのルーター監視やパッチ適用しかできない。だが単一のテクノロジーでITインフラを運用する単一の集中ネットワークチームに移行すれば、ごく少人数で組織全体のネットワーク環境を監視しつつ自動化のテクノロジーを最大化して更新やパッチ適用を一元的に展開できる。

第1ステップ:ビジネス機能を集中させる

 ビジネス機能の集中化は複数の段階から成るプロセスだ。サービスを一元化することは、スイッチを切り替えるように簡単にはいかない。「ビジネス機能をシェアードサービス組織構造に統合することは、複数の段階からなるプロセスであり、技術スタックが上がるごとに複雑さが増していく」とジャヤラマン氏は説明した。

  • プロセスは多くの場合、ITインフラの統合、データセンターの合理化、共通のネットワークおよびセキュリティツールの確保から始まる。このステップは比較的簡単で、ビジネス運営に大きな影響を与えることなく、IT部門だけで完結させられる
  • 次のステップではアプリケーションのサポートと開発を一元化する。この手順によって、通常はローカルグループを扱うビジネスユニットの応答時間が遅れる可能性があるが、この結果、システムがより安定し、全体的なコストを削減できる
  • より重要な課題は、事業部門間のサービスとアプリケーションの完全な統合と一元化だ。IT部門はビジネスチームと協力してアプリケーションのフットプリントを合理化し、ビジネスプロセスとユーザーを共通のプラットフォームに移行することに重点を置く

第2ステップ:シェアードサービス組織構造への移行

 経営コンサルタント会社エベレスト・グループのパートナー、ジミット・アローラ氏によれば、ビジネス機能の集中化と全社的なサービスの共有を計画する際は次の5つの基本的な質問をする必要がある。

  1. なぜこれを行うのか
  2. 何が範囲内であり、何が一元化されていないのか
  3. これらのサービスはどこにあるか
  4. 誰がこれらのサービスを提供すべきか
  5. これらのサービスをどのように管理すればよいか

 残念ながら、多くの組織は、「シェアードサービスモデルを使用して解決しようとしている問題」が何かを明確にせずに、「なぜ」を飛び越えて「何を」「どこで」「誰が」に直接取り組んでいる。

 「企業は、何を、どこで、誰が理解しようとしているのか、多くのベストプラクティスを学ぶことができる」とアローラ氏は説明する。だが同時に「ただし『なぜ』への答えは組織の文脈に応じて変動するものだ。共有サービスの取り組みを成功させるには、理由を伝え、調整することが重要だ」とも語った。

 「なぜ」を尋ねることは、シェアードサービスのインフラにどの機能を組み込むかを決定するのに役立つ。そうすれば「サービスをどこに配置するか」「誰がサービスを提供すべきか」を決定できる。企業は、目的を達成するためにIT部門を自社で所有するか、アウトソーシングや請負業者に依存するかを検討する必要もある。

 最後のステップは、目標を確実に達成するためにモデルの継続的な管理と最適化をどのように実現するかだ。

第3ステップ:一元化の実現〜共有サービスの主な利点は何か

 一元化されたシェアードサービス構造により、無駄を削減でき購買力が向上する。一元化されたプロセスの導入には会社全体が関与するため、各部門が成功と失敗を共有する。その結果、学習曲線がより速く、より鮮明になる。アローラ氏によれば、ほとんどの企業はシェアードサービスモデルによって次のような利点を実感している。

規模と範囲の経済性の向上 ビジネス機能を統合すると、同様のリソースの重複がなくなり、より効率的でコスト効率の高いIT資産が実現する

重複のないイノベーション 製品、プロセス、システムを革新する際、ビジネスユニットがサイロ化した環境で作業することが一般的だ。各部門がどのDevOps関連技術を使い、どのサプライヤーや指標を使用するかを決定するため、個別の学習曲線が必要になる。これを標準化したプレイブックによって一元化するアプローチに変えることで、コラボレーションが向上し、全てのビジネスユニットで成果を出せるようになる

従業員の継続性とエンゲージメント 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックがもたらした大規模な重量員の離職は、熟練労働者の採用や雇用、維持に大きな影響を与えた。ビジネスサービスの統合と一元化は、従業員エンゲージメントと人材管理の取り組みの品質を向上させ、従業員にとってよりつながりのあるキャリアパスを構築し、競争の激しい雇用市場で従業員を維持するのに役立つ

全社的な規制順守 規制された業界では、標準化された戦略に従うことが不可欠だ。一元化により、全ての事業部門がさまざまな規制要件を確実に順守できるようになる

サイバーレジリエンス ハイブリッドワークやテレワーク環境の広がりにより、多くの組織にとって脅威の表面が増大しているが、各部門が異なるサービスプロトコルやエンドユーザーデバイス、セキュリティツールに依存している場合、事態はさらに悪化する。機能を一元化し、サービスを共有することで、セキュリティの問題を最小限に抑えるのに役立つ一貫した標準とツールのセットが得られる。

報酬には潜在的なリスクも伴う

 シェアードサービスの組織構造を検討する際には幾つかの課題に遭遇する可能性がある。

 ジャヤラマン氏は、「シェアードサービス化の過程でビジネス部門は一元管理されたITチームは制御性や即応性を失っていると感じるかもしれない」と述べた。例えば、集中管理されたITチームがピーク時のワークロードではなく平均的なワークロードに合わせて最適化する決定を下す可能性があるため、競合する目標が優先され、特定のリクエストに対するIT部門の応答が遅くなる可能性があるからだ。

 この問題には「IT部門とビジネス部門の間に強力なパートナーシップを形成することが役立つ」とジャヤラマン氏は提案した。さらに、リスクと優先順位を正確に反映する明確なSLA(サービス水準合意:Service Level Agreement)を確立し、IT 部門がミッション クリティカルな要求と優先順位の低い要求を区別できるようにする。

 シェアードサービスのアプローチは過度に複雑になるリスクがあるとアローラ氏は警告した。例えば、「Microsoft Teams」を介した単純なサービス リクエストでは、より複雑なサービス管理システムに準拠することが必要になる場合がある。アローラ氏によると、最良の共有サービス モデルは、多くの場合、集中型アーキテクチャとフェデレーテッド アーキテクチャを組み合わせて、事業部門間の相互運用性と情報共有を可能にする。

 技術スタックがシェアードサービスの下に統合されると、従業員のモチベーションが低下する可能性がある。アローラ氏は「もし事業部門が縮小されるようなことがあれば、シェアードサービスを“野心の墓場”のように感じてしまうかもしれない。そのため、リーダーシップは、人材がモチベーションを維持できるよう、成長への足掛かりを確保する必要がある」と述べた。

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