ヤマザキ マリ氏が語る、帝政ローマの皇帝から学ぶ優れたリーダーの条件(1/2 ページ)

漫画家のヤマザキ マリ氏が自身の漫画に登場する歴史上の人物の行動や考え方から、現代の企業経営やリーダーに必要な思考力や物の見方/捉え方のヒントを提示した。

» 2023年08月24日 07時00分 公開
[吉田育代ITmedia]

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 ガートナー ジャパン(以下、ガートナー)が主催する「ガートナー セキュリティ&リスク・マネジメント サミット」(2023年7月26日〜28日)に漫画家・文筆家・画家・東京造形大学客員教授であるヤマザキ マリ氏が登壇し「不確実な時代の企業リーダーシップ:古代ローマと現代日本の文化比較に学ぶ」と題した講演を実施した。

 『テルマエ・ロマエ』をはじめとした、ヤマザキ氏の漫画に登場する古代ローマの指導者の姿勢や考え方が、現代のリーダーに示唆するものは何か。同氏が独自の考察を繰り広げながら、企業経営やリーダーに必要な思考力や物の見方/捉え方のヒントを提示した。

帝政ローマの皇帝から学ぶ 指導者に必要な“2つのファクター”とは?

 ヤマザキ氏は17歳のときからイタリアを拠点に生活し、配偶者が古代ローマ好きのイタリア人ということもあり、この時代に詳しい。だからこそ「テルマエ・ロマエ」のようなヒット作を生み出せた。

 ヤマザキ氏によると、古代ローマはもともと王政であった。のちに共和制になり、これがうまく機能しなかったために、ガイウス・ユリウス・カエサルによる帝政ローマが始まった。そこから200年間続いた帝政ローマ時代は、非常に安定しており成功した時代だったという。『テルマエ・ロマエ』にも登場する第14代ローマ皇帝のハドリアヌスは建築家としても資質の高い統治者で、芸術的センスを持っている人間が皇帝として統治もできる、非常に文化的で人々の精神性が高い時代だった。

漫画家・文筆家・画家・東京造形大学客員教授のヤマザキ マリ氏(写真:ノザワヒロミチ)

 「皇帝は英語で“エンペラー”、ラテン語では“インペラートル”といいますが、その語源は“命令をする人”“命令権がある人”です。最初から皇帝としてまつりあげられている人ではありません。そういう人たちがリーダーとしての役割を果たすこともあれば、後ろで元老院が動くこともありました。この時代は政治が非常に安定していたため、領土をどんどん拡大して、今でいえばロシアや米国、むしろそれよりも大きくなりました。全世界を認識するのが難しい時代の中で、あれだけ大きな領土を持つということは前代未聞でした」(ヤマザキ氏)

 ヤマザキ氏はこのように領土が拡大できた理由の一つとして統治の寛大性・寛容性があったと話す。ローマはブリタンニアに侵攻し、属州として組みこむというときに、ケルト的な文化や言葉、宗教などを廃止しなかった。むしろ「素晴らしい文明なので私たちも取り入れます。その代わりにローマの文化も取り入れてください。ケルトの神様がいてもいいし、ローマの神様も受け入れてください」と訴えたのだ。

 「属州として組みこまれる側にとっても、ローマに対して『怖い』といった気持ちはなかったと思います」(ヤマザキ氏)

 なおヤマザキ氏によると、この状況は歴代の米国大統領選とシンクロするという。ブッシュ政権後にオバマ大統領が選出されたとき、周囲の研究者の間で「古代ローマのようだ」という声が上がったそうだ。

 その他、帝政ローマ時代、皇帝にはリーダーとして2つのファクターが求められた。それが“グラビタス”(強さ・重さ)と“レビタス”(軽快さ)だ。この2つをバランスよく操れる人が皇帝としてふさわしいとされていた。戦争を指揮する一方で、コロセウムのような劇場や浴場を数多く建設して、人々が「生きていてよかった」と人生を肯定できるようなファクターを提示する能力がそれらに当たる。

 しかしテリトリーが大きくなればなるほど、このようなリーダー制では隅々まで声が届きにくくなる。その結果、それぞれの地域におけるリーダーが出現し、これが帝政ローマ衰退の一因となった。

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