ERP導入のよくある失敗を防ぐために 企業が知るべき事前準備とは

Unit4でCTOを務めるクラウス・ジェプセン氏が、「ERPプロジェクトが失敗する原因」「失敗を避ける方法」を語った。

» 2023年09月25日 08時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 ERP導入は複雑なプロジェクトだ。多くの企業は問題に直面し、時には失敗に終わることもある。

 こうなると、導入プロジェクトの関係者間で責任の押し付け合いが起こる。関係者には導入組織やERPベンダー、導入パートナー(起用されている場合)などが含まれ、高額な費用がかかる訴訟に発展することもある。

 では、ERP導入がうまくいかない原因はどこにあるのだろうか。Unit4のCTO(最高技術責任者)を務めるクラウス・ジェプセン氏は「ERP導入のプロジェクトに着手する前に、企業は万全の準備を整えるためにさまざまな原因を理解する必要がある」と指摘する。本稿はその“原因”と“回避策”を紹介する。

ERP導入のよくある失敗を防ぐために 企業が知るべき事前準備とは

 オランダに本社を置くUnit4は、人的依存度が高い4つの業種(プロフェッショナルサービス、公共セクター、高等教育、非営利)に向けて、クラウドERPプラットフォームを提供している。ジェプセン氏は「結局のところ、ERP導入が失敗する主な原因が、ERPの技術にあることはめったにない」と主張している。

――クラウドERPが主流になり、ERP導入の在り方が大きく変わっている。企業が直面する課題にはどのようなものがあるのか。

ジェプセン氏 ERPは変化しているが、以前から続いている“考え方”は変化していない。ERP導入によって働き方が変化することを嫌うユーザーもいる。彼らは仕事のやり方を変えようとしないので、ソフトウェアを彼らの仕事に合わせなければならない。しかし、これはERP導入を確実に失敗させる方法だ。

――ユーザーにソフトウェアを合わせることは重要ではないのか。

ジェプセン氏 多くのERPシステムは、組織プロセスに適合するように作られている。柔軟性が高いということだ。企業は構成やカスタマイズなどの手段を使えば、自社に合ったERPの姿にある程度は変えられる。企業のセールスポイントは社内プロセスではない。社内プロセスによって競争力が向上したり、顧客により興味を持ってもらえたりするわけではない。タイムシートや請求書を改善する方法が何通りもあっても基本的に同じことだ。

――ERPを自社に合わせることで、どのようにERP導入が複雑になるのか。

ジェプセン氏 同じERPでも、導入企業によってERPのサブシステムが異なるのは普通なことだ。中小企業は標準機能のみを求め、大企業はより複雑な機能を必要とするかもしれない。その中で、教育機関や公共セクターといった組織は「自分たちの特殊なやり方」にこだわる傾向がある。「どうすればもっと使いやすくできるか」「どうすれば他の組織のベストプラクティスを取り入れられるか」という建設的な議論をするつもりがない。彼らは皆、自分たちは特別な仕事をしていると考えており、それにERPを合わせようとする。これはプロジェクトが失敗する典型的なパターンだ。

――ERP導入は時代遅れのシステムをモダンなシステムに移行するために行われる。組織はクラウドERP導入の失敗を回避したり、軽減したりするために何をすべきか。

ジェプセン氏 ERPを導入する場合は「新たなシステムを導入すれば、後は全てうまくいく」と考えてはならない。自社のビジネスプロセスをどのように機能させたいかを考える必要がある。その中で、まずはビジネスプロセスを定義するのが最善だ。ビジネスプロセスの詳細を書き出し、それがどのように機能するかを理解する。それを踏まえてIT環境全体を見渡すことだ。

 このプロセスはERP導入に限ったことではない。他の全てのITシステムにも関わっている。プロセスがどう機能するかを理解したら、ERPを取り巻くサブシステムにも目を向け、新しいシステムにそれらが適合するかどうかも検討しなければならない。さもないと、これまでと代わり映えしない結果になる可能性もある。ERP自体を変えるだけでなく、ERPを取り巻く全ての要素も変えることを覚悟する必要がある。

――これらのプロセスは組織にとって大変なことか。

ジェプセン氏 大変だが、このアプローチは企業に新たな発見ももたらす。ある程度歴史のある企業は、応急的に付け足したシステムなどで今ではあまり役目を果たしていないものも多くあるだろう。これはシステム導入前に、そのシステムが組織の中でどのように機能していくかをきちんと理解していないからだ。

――既存システムを使用してきた従業員が新たなシステムに移行する場合、チェンジマネジメントはどのくらい重要なのか。

ジェプセン氏 企業は「人の問題」にも対処しなければならない。従業員が新システムを利用するように促す方法を考える必要がある。新システムに移行する中で、従業員は「自分が行っていた仕事の中には意味のない非生産的なものもあった」と認識する。企業はこうした人の問題も解決しなければならない。

 一方、新たなタイプのユーザーもいる。新世代の従業員は仕事がやりやすくなるのであれば、変化をいとわない傾向がある。従来は「仕事のやり方が変わる=仕事が増える」という認識もあったが、現在は「プロセスに含まれる一部のステップが省けるならやり方が変わるのを歓迎する」という風潮がある。

――組織に合ったERPシステムを見つけることは、導入失敗を避ける上で重要か。

ジェプセン氏 適したベンダーを見つける上で、自社理解を深めることは大前提だ。ベンダーを探す際は同業他社と取引した経験があるベンダーを候補にするとよい。実際に、Unit4はサービスを提供する組織に向けて、事業に力を入れている。高等教育や公共セクターのような業種と長年取引があり、多くの顧客を抱えている。「こうした組織がどのように運営されているか」「こうした組織が求める特徴的な機能の標準構成をどのように設定すればよいか」を理解している。これは、われわれの顧客がROI(投資対効果)を迅速に実現できることを意味する。一方、製造業向けのERPベンダーからプロジェクトベースのアプリケーションを購入したり、Unit4から製造業向けERPを購入したりするのは禁物だ。うまくいくはずがないからだ。

――ERP導入の失敗事例のうち、ERP技術自体が原因である割合はどの程度か。

ジェプセン氏 人々は技術が問題に直結すると考えがちだが、ERPの失敗は通常、技術が引き起こしているわけではない。予期せぬ問題が発生すると技術のせいにする傾向が常にあるが、それは危険だ。

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