進むデジタル化でEAMに注目が集まる 企業が知るべきその重要性を解説

デジタル化の波を受けて、「EAMとERPをいかにうまく活用するか」に注目が集まっている。

» 2023年09月26日 08時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 資産管理オプションの増加を受け、EAM(Enterprise Asset Management:企業資産管理)システム(以下、EAM)の市場が拡大している。これにより、多くの企業はEAMとERPの緊密な統合を考えていると専門家は指摘する。従来、EAMはERPと同じ分野で使用されるが、この2つのシステムは別々のサイロで運用されるのが一般的だった。

 これらシステムのユーザーは効率性を高める技術的な方法を模索しており、EAMとERPの密接な連携が実を結ぶ可能性が大きい。しかし、EAMとERPを統合しても必要な調和が得られるとは限らず、顧客はそれらのサイロを解体する前に、考えられるユースケースを精査する必要があるだろう。

 EAMは、ライフサイクルを管理して物理的資産を適切に維持管理することも目的としている。主に、大規模かつ複雑で高価な資産(製造機械、車両、重機械など)を抱える業種で利用されるが、企業が支給するコンピュータやオフィス機器など、小さな機器にも適用できる。

 一部のERPはEAMの特定の機能を搭載していることもあるが、EAMの専業ベンダーも多い。

 EAMはERPと対象に、これまではエンタープライズ向きのシステム市場で小さなセグメントだったが、調査会社のGlobal Market Insightsによると、2022年に40億ドル規模だったEAM市場は今後10年間で年平均9%のペースで成長する。

 同社のレポートによると、EAMシステム市場の成長はさまざまな要因に支えられている。その中には、デジタル製造や企業のIoT資産、現場ワーカーが使用するモバイルデバイスが増加していることや、レガシーシステムからクラウドやSaaSへの移行が進んでいることなどが含まれる。

 最新のEAMの導入効果として、同社は「資産ライフサイクルの改善」「機器の効果の最適化」「エラーの削減」「予知保全の精度向上」「資産パフォーマンスの追跡の改善」「高度なセキュリティ実装」を挙げている。

“専門”から“統合”へ

 調査会社Diginomicaのジョン・リード氏(共同創設者)は、製造業界に強みを持つITベンダーの興味深い特徴として「MES(製造実行システム)やEAMのような専門的な製造ソフトウェアシステムを、容易にERPと統合できないこと」を挙げる。

 「この状況は変わらなければならない。現在、企業が望むビジネスのテーマの1つはデータのサイロを排除することだからだ。彼らが機器の稼働状況や現場の操業状況をより可視化したいのであれば、なおさらだ。AI(人工知能)も組み合わせ、生産工程やカスタム製造プロジェクトを最適化する必要がある」(リード氏)

 製造機器やソフトウェアがサイロ化されている場合、企業はビジネスに必要な情報を陣俗に取得できない。実際にリード氏は「多くの企業やベンダーが統合システムに移行している」指摘する。

 例えば、製造業向けに特化したERPベンダーであるPlex Systems(産業オートメーションの大手Rockwell Automationに2021年に買収された)は、ERPやEAM、MESなどをカバーする幾つかの統合型製造システムを提供している。

 「高価な製造機器の多くは外部と接続するためのセンサーを備えていない。そうした中、まだ実現していない興味深い取り組みが多くある。コネクテッド製造が話題になっているが、実際には多くの取り組みがまだ道半ばだ」(リード氏)

 製造関連のシステムはクラウドへの移行が遅れていたが、リード氏は「これは変わりつつあり、クラウドへの移行はシステム統合を加速させる」と述べる。

 「クラウド製造は、クラウドHR(人事)やクラウドCX(顧客体験)にはまだ遠く及ばないが、変わり始めている。クラウド製造が軌道に乗れば変化が加速する。彼らがクラウド・アーキテクチャに基づくシステムを持てば、コネクテッド製造に挑戦しやすくなる」(リード氏)

AIとMLでメンテナンスが向上

 Panorama Consultingのアラン・ソルトン氏(マネージングディレクター)は、「EAMは企業にとってより重要になっており、自動車製造のような資本集約型産業では特にそうだ」と話す。

 企業は多くのデータを自由に使えるようになっており、EAMは「予防的」「予測的」「規範的」な資産管理を可能にするAIや機械学習(ML)のアプリケーションが増える分野だ。

 「企業はデータとAIを、変更や障害、ダウンタイムを減らす判断に活用しなければならない」(ソルトン氏)

 IFSのジョン・モーテンセン氏(EAM担当 グローバルCTO《最高技術責任者》)は「ERPの機能に関連する全てのデータを、1つのプラットフォームに置くことが重要だ」と語る。

 「全てのモジュールを同じプラットフォームに置き、そこで情報を共有できるようになる。このような動きは、特に資産集約型産業では極めて重要で、製造業でも同様だ。全ての製造データと製造設備に関連するデータを集約できる」(モーテンセン氏)

 複数システムを1つのプラットフォームに統合すれば、企業はリアルタイムな判断や行動が可能になる。タイムラグを気にせず、意思決定の衝突をなくせる。「メンテナンスのために、最適な機械や生産ラインを停止する時刻を判断できるようになる」とモーテンセン氏は話す。

 「EAMとERPが1つのプラットフォームにあれば、機械がダウンしてもそれが自動的に認識され、生産スケジュールが再調整される。メンテナンスをする場合も、製造スケジュールの中で調整してくれる」(モーテンセン)

 Technology Evaluation Centersのプレドラグ・ヤコヴリエヴィッチ氏(アナリスト)は「EAMとERPと緊密に統合しなければならない。品質や財務、生産現場、そして業務全体に直接影響するからだ」と語る。

EAMとERPの統合はニーズ次第

 ヤコヴリエヴィッチ氏は「ユーザーは、ERPに入っているEAM機能が自社にとって必要なものかどうかを検討しなければならない。システムは網羅的であったり、ERPとの統合が必要だったりするからだ」と話す。当然、この判断は社内のスキルやEAMの必要性に応じて異なる。

 「定番の答えはない。自社に合った判断をする際は、質問をまとめたリストを作り、その回答結果に基づいてERPベンダーとベストオブブリードのEAMのどちらを選ぶという方法もある」(ヤコヴリエヴィッチ氏)

 同氏は「EAM機能を備える製造業向けERPは、製造資産や機械の予防保全に効果的かもしれないが、他の組織における資産管理には向かない可能性がある」と説明する。

 「学校や病院、鉄道会社、道路などを管理する地方自治体では、製造業向けERPは必要ない。ERPは財務管理に必要なだけであり、場合によっては購買管理だけに必要なのかもしれない。だが『IBM Maximo』や『HxGN EAM』(旧:Infor EAM)といった専業ベンダーのEAMは不可欠だろう。ただし、この2つはERPと統合する必要がある。EAMは資産と製造工程に焦点を当てているが、買掛金勘定や総勘定元帳は守備範囲外だからだ」(ヤコヴリエヴィッチ氏)

 EAMベンダーであるEZOのサイード・アリCEO(最高経営責任者)は「EAMは製造業や大規模システムのメンテナンスのためだけではない」と語る。

 「企業は資産管理機能により、管理下の機械がどこにあるか、どんな状態にあるか、最新のソフトウェアが使われているかを追跡できる。テレワークに関しては、完全にリモートのチームや機器の管理に対する懸念が高まっている。EAMであれば、誰が何を持っているか、それがいつ割り当てられたか、良好な状態にあるか、チケットを持っているかを把握できる」(アリ氏)

 アリ氏によると、「EZO」はSaaSアプリケーションとして単体で使用できるが、APIを用いてERPと統合することもできる。EZOの主な価値は、機器に関する意思決定の改善に役立つデータに容易にアクセスできることだ。

 「データへのアクセスの在り方が変わってきている。今後は、データの活用によって意思決定が改善されるだろう」(アリ氏)

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