多国籍チームでビジネスを成長 D&Iに取り組むMicrosoftのトレンドを紹介 (Microsoftのビジネスアプリケーション-AI編その1)DX 365 Life(10)(1/2 ページ)

長期的なビジネス成長を考える上で、外国人人材の起用やAIの活用は重要な要素になります。この点、日本企業はどのように取り組みを推進していくべきなのでしょうか。Microsoftの製品が提供する価値と合わせて解説します。

» 2023年09月29日 08時00分 公開
[吉島良平ITmedia]

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 ついに「ラグビーワールドカップ 2023」がフランスで始まり、筆者はオープニングゲームと日本の初戦(対チリ)を観戦してきました。

 今回の日本代表メンバーも多様性に富んだ選手構成(7カ国16人の外国籍選手と17人の日本国籍選手)です。日本人はどうしてもフィジカル的に不利といわれることがあり、特にフォワードのポジションは選手起用に工夫が必要です。一方で、外国籍選手の起用に対して「外国人を起用してまで勝ちたいのか」という心ない意見もあります。

 そのような方々に向けて、『国境を越えたスクラム-ラグビー日本代表になった外国人選手たち』の著者である山川 徹氏は「バラバラのまま認め合うほうが面白い」という興味深い意見を述べています。筆者はTechnosoft Automotiveという「Microsoft Dynamics CRM」をベースに開発されたディーラーマネジメントシステムを導入する企業に所属し、世界11カ国の拠点をCOO(最高執行責任者)として統括していますが、山川氏の意見には賛同するポイントが非常に多いです。

 本連載の第5回では「労働供給制約社会」について、第8回では「持続可能な働き方」について解説しました。これからの日本の未来(労働人口の減少や社会構造変化、企業のグローバル化、消費者ニーズの多様化、働き方の変化)を考えると、外国人労働者の育成や能力に見合ったポジション配置などは不可欠です。

 どうすれば人材難の中、日本企業はグローバルな組織を作っていけるのでしょうか。そのヒントがラグビーにも関係する「ダイバーシティー&インクルージョン」(以下、D&I)にあると期待しています。連載第10回となる本稿では、Microsoftのビジネスアプリケーション領域のAI活用について解説します。

この連載について

 本連載は12回にわたって、Microsoftのビジネスアプリケーションに関する情報を発信し、製品やサービス、学習ツールだけでなく、導入ベンダーやその事例、コミュニティーの活動にも触れていきます。

筆者紹介吉島良平(Chief Operating Officer)

約20年にわたって日本を含む31カ国でMicrosoft社製ビジネスアプリケーションの導入・開発・コンサルティングに従事。2022年11月よりシンガポール企業『Technosoft (SEA) Pte. Ltd.』のCOOに着任、2023年7月よりTechnosoft Japan Co., Ltd.のPresidentを兼務。

Microsoft Regional Director

Microsoft MVP for Business Applications

Blog:DX 365 Life - マイクロソフトのBizAppsを活用し、企業のDX実現に向けて国内外を奔走する室長Blog



D&Iのメリット/デメリット

 「外国籍従業員のマネジメントは難しい」と考える人もいるでしょう。日本人のように「ルールを守りながら着実にチームで業務遂行する」というよりも、「結果にこだわって施策やタスクを柔軟にこなす」方が多いと筆者は感じます。外国籍の従業員を雇う際は「過程の評価」より「最終的な結果」にフォーカスしてKPIを策定する必要があります。

 管理者の中には「言葉的な問題からマネジメントしにくい」という方もいるでしょう。実際その通りで、筆者も同じように感じながら業務しています。ただ、外国籍の従業員の中には日本人よりも静かに仕事をする方も多くいて、一概に「日本人は」「外国人は」という風には決められません。

 昨今、IT業界は他の業界よりもハイブリッド環境で仕事に取り組んでおり、「オンラインやオフラインでどのようにチームをマネジメントするか」「各国のオフィスでどのように取り組むべきか」などに悩むケースも増えています。

 筆者の場合、日本法人ではプレジデントロールで日本のやり方で、グローバルではシンガポールのやり方(本社がシンガポールにあるため)で業務を進める必要があり、日本人のマインドや慣習で海外チームをマネジメントしようとすると、自分自身がボトルネックになる可能性があります。

図1 D&Iのメリット/デメリット(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 グローバルな組織が「ダイバーシティー=多様性」について考える際は、組織を「インクルージョン=多様な人材が相互関係を持ち、それぞれ機能している状態」に持っていく必要があります。これは単に人材を増やすだけではなく、従業員が能力を生かせるようにそれぞれに見合った指導が必要です。

 想定されるリスクに対して、ダイバーシティーに関する社内教育や従業員の意識改革も不可欠です。多様な人事評価を策定すると、仕組みの複雑さから公平な評価が難しくなるため、制度変更の際は事前に効果を検証することが大切です。これは経験則ですが、特定部門や組織の負担が大きくなると、現場担当者のモチベーションにも悪影響が出ます。

 D&Iのメリットについて、Microsoftの知人(グローバルマーケティングロール)に聞いたら以下の回答を得ました。

 「D&Iは“新結合”だ。イノベーション理論を確立したヨーゼフ・シュンペーター氏が提唱する『イノベーションを起こしやすくする環境』『人の育成』『文化の創生』に効果がある。同じマインドやスキルセットを持つリソースが集まると、視野が狭くなり未来を俯瞰(ふかん)することが難しくなる」

 Microsoftの技術部門に所属する知人からは以下の回答を得ました。

 「D&Iを念頭におき、価値観や働き方の違いを意識することで『自分の価値観を押し付けていないか』ということを自然に考えられるようになる」

 世界中でビジネスを展開するMicrosoftの視点が肥えている理由はこういうところにあるのかもしれません。多様性に関しては、経済産業省の「ダイバーシティー2.0 一歩先の競争戦略へ」が参考になります。

 ここからは、FY24におけるMicrosoftの戦略について解説します。

価値を理解しやすい生成AIはDXの起爆剤になるか

 とある米国の記事に目を通していると、「クラウド化→DX(デジタルトランスフォーメーション)化→AI(人工知能)のデファクト化」という記述が目に入りました。

 Microsoftにおける今期のビジネスの中心は「クラウドとAI」です。あらゆる製品に「Copilot」(副操縦士)機能が実装されてきています。

図2 Microsoft CloudとAIがビジネスの中心に(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 生成系AIは技術の価値が理解しやすいことから、IT担当よりもビジネス側の関心が高い領域です。「GPT-4」を搭載した「Microsoft Bing」のユーザーは日本に多く、多くのユーザーがデータ活用の重要性を再認識しています。Microsoftが掲げる「Do more with less」(少ない工数でより多くのことを達成する)を実践するためにAIは必要ですが、まずはデータが適切に蓄積され、活用できる状態になっているかが企業の課題です。

 Microsoftのイベント「Microsoft Build」でも取り上げられた「Microsoft Fabric」は、クラウドストレージやオンプレミス、ローカルPCなどに分散しているデータを1カ所に統合するのではなく、仮想的にデータレイク「OneLake」に統合します。これは、AIでデータ活用するためのサービスです。

 AIでデータ活用するとなると、従来はデータ活用基盤の構築だけで数年を要しました。Microsoft FabricにはCopilot機能が搭載されており、AIを活用してデータを収集するクエリを自動生成します。また、データ、テクノロジー、ユーザーのスキルという3つのサイロを単一のSaaSに統合し、迅速かつセキュアにデータ活用を実践できます。

Microsoftのビジネスアプリケーションの今を俯瞰する

 Microsoftのビジネスアプリケーションが日本で活用されるようになって20年がたちました。本連載の第9回では各社の導入事例を取り上げましたが、世界中で毎月「Microsoft Dynamics 365」(Dynamics 365)と「Microsoft Power Platform」(Power Platform)を利用している企業は50万社以上です。これら2つのサービスのCopilot機能を利用しているユーザーは既に4万人を超えています。

図3 CRMとERPにおけるCopilot(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 社内の基幹系、情報系システムを選定する際に「内製化」がキーワードであることは、これまで幾度か記述してきましたが、これを実現するには導入するシステムが「柔軟性」「操作性」「拡張性」に富んでいる必要があります。また、実業務とシステムの間をつなぐローコードソリューションの有無や可視性、監視、セキュリティ、容易な管理なども欠かせません。Microsoftはこれらを高いレベルで満たしており、特にMicrosoft Officeの製品を利用中のユーザーにとって、Dynamics 365やPower Platformは最善の選択肢です。

 「Do more with less」を実践するには組織をまたいだシステムが必要です。しかし、関わる組織が多くなればシステム導入に必要なコミュニケーションは増え、難易度も上がります。何を実現したいのかを具体的に定義することが大切です。

図4 ビジネスアプリケーション一覧(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 AIやCopilotを活用するには、ビジネスデータとプロセスを明確に定義することが不可欠です。既存のIT資産をリプレースする機会に恵まれたら、Dynamics 365で自社のビジネスITインフラを再構築しましょう。その結果、新たなビジネスモデルを創り上げることもできるかもしれません。また、導入時に図4の製品群を活用すれば、組織間のスムーズなコミュニケーションを図ることも可能です。この内容に関しては過去にセミナーを行いましたので、興味のある方はリンク(「YouTube」に遷移)からご確認ください。

社内の取り組みを製品開発へ生かす

 ここで、Microsoftの社内における取り組み、特に「グローバル・デマンド・センター」に少し触れます。

図5 Microsoftの社内の取り組み(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 グローバル・デマンド・センターは、ファーストデータやサードパーティーデータ、グローバルイベント、ローカルイベント、製品情報、トライアル情報、AI/ML(機械学習)のインサイトなど、常時数百万ものシグナルを扱っています。これらのシグナルがプライオリティカスタマープログラムに使われています。これにより、ユーザーの関心や組織規模、インダストリー、役割に基づいて、適切なサービスを提供します。

 その後、MLモデルを活用して職種や頻度、エンゲージメントのタイプなどの要素を考慮しながら「セールスがどのアカウントに注力すべきか」を予測します。MLが予測したアカウンタビリティは、コールドコールや単一のリード・チェイシングに比べ、4〜7倍の機会を生み出します。

 これらのシグナルは適切タイミングで表示されるため、ユーザーは見込顧客と生産的な会話ができます。営業担当者は全ての連絡先とコンテキストが集約されたレコメンデーションを受け取れます。ユーザーのプライバシーを尊重し、エンジンには基本レベルでプライバシーが組み込まれています。

AIで収益創出を加速させるCRM

 ここからは「AIを活用して売上を伸ばす」ことを考えます。

図6 シームレスな購買体験を提供するために(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 CRM機能群は、ユーザーに一貫した購買体験を提供するのに有効です。自社の各部門でユーザーとのタッチポイントを適切に収集し、あらゆる組織でこれらの情報を活用できれば、図6のような効果を得られます。

 各部門の担当者がユーザーとのインタラクションを理解し、AIを活用してパーソナライズした顧客体験をタイムリーに提供するには、シングルプラットフォームが適しています。従業員にとっても、同一アプリケーションの方が作業効率などの面からもメリットがあります。

図7 Microsoft Sales Copilotの概要(Microsoftの資料を基に筆者作成)
図8 Dynamics 365 MarketingはDynamics 365 Customer Insightに統合(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 マーケティングやセールス、サービスにわたってシームレスでパーソナライズされたカスタマーエクスペリエンスを実現し、生産性とコラボレーションをエンパワーすることが、顧客との関係性を深め、長期的な顧客ロイヤルティーの構築につながります。「Dynamics 365のCRM領域」にはその実現に必要な機能がそろっています。

図9 シームレスな購買体験を提供するために(Microsoftの資料を基に筆者作成)

 MicrosoftのAIに対するアプローチは、セキュリティやコンプライアンス、プライバシーなどをカバーしながら顧客体験全体で次世代のAI機能を提供します。また、Power Platformのローコードによる拡張性を利用し、ビジネスアプリケーションの構築や顧客ニーズに合わせたカスタマイズもできます。

 結果として、マーケティング担当はより多くの顧客を獲得し、営業担当はより多くの取引を成立させ、サポート担当がより効果的に問題を解決できるようになります。

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