生成AIは業務自動化の可能性を押し広げるものだが、ビジネス活用を考えた際にリスクをはらんでいる。業務自動化の領域からみた生成AIのベストな活用方法やユースケースについて、UiPathの最高製品責任者を務めるグラハム・シェルドン氏が語った。
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生成AIを使ったソリューションが次々とリリースされている。RPAをはじめとする自動化技術を内包した自動化プラットフォームを提供するUiPathは、生成AIが「業務の自動化」にもたらす影響についてどのように考えているのか。
同社で最高製品責任者を務めるグラハム・シェルドン(Graham Sheldon)氏がインタビューに答えた。前編の本稿では、生成AIを活用したUiPathの機能とそれらが業務自動化に与えるインパクトについて、後編では日本企業における自動化の特徴と、企業の自動化プロジェクトをより深化させる方法について、同氏が語った内容を紹介する。
――今、多くの人々がAI(人工知能)と業務自動化の融合に注目しています。
シェルドン氏: AIと業務自動化が融合することによって“魔法”が生まれます。ほとんどの企業にとって業務自動化は戦略的な必須事項になり始めています。
UiPathは生成AIを含めたAIにずっと注力してきました。入力フォームなどの画像を読み取って、読み取った要素に対して文字を入力したり、クリックしたりする「AI Computer Vision」、電子メールや契約文書などの「非構造化データ」を読み取って理解する「Document Understanding」、メッセージの内容を読み取って適切なデータに変換する「UiPath Communications Mining」の3製品がここ数年で新しく登場しました。
当社は包括的な自動化プラットフォームを用意していますから、生成AIの活用についてユーザーに高い関心を持っていただいているのは意外ではありません。
――これまでUiPathの製品には特化型AIが多く使われてきました。生成AIが加わることによって何が変わるのでしょうか。
シェルドン氏:生成AIの活用によって大きく2つのことが可能になります。1点目は自動化の改善です。これまでは、作業の「最初」と「最後」が欠けているために人の手が欠かせない状況でした。
例えば、情報システム部門のヘルプデスク業務を思い浮かべてください。ヘルプデスク業務では、ユーザーから送られてきた電子メールに書かれている要望に対応した後、返信メールでその内容をユーザーに報告するという一連の業務が日々、繰り返されています。自動化を適用する場合、従来は電子メールの内容を人が読み取ってどのような対応をすべきか考える必要がありました。生成AIを活用したDocument UnderstandingやUiPath Communications Miningは、顧客から届いた電子メールなどの非構造化データを理解して必要な対応につなげられます。また、対応が完了した後に、ユーザーに送信する電子メールの文面を生成することも可能です。
もう一つは、全く新しい自動化のシナリオを作ることです。今開発している「Wingman」プロジェクトが完了すれば、自然言語で自動化シナリオを作成できるようになります。電子メールに添付されているファイルをクラウドストレージに格納したい場合に、その旨を自然言語で指示するだけで、電子メールを受信したことをきっかけに、ファイルをダウンロードして、クラウドストレージにアップロードするというようなシナリオを自動で生成できるのです。プロの開発者はより簡単に、開発経験のない方はこのツールを使うことですぐにシナリオを作成できるようになるでしょう。
例えば、医療機関が実施している医療保険の請求作業で生成AIをどのように利用しているかをご説明しましょう。医療保険の請求業務では、保険でカバーされる範囲がどこまでかを特定する作業が発生します。
これまでは患者が契約している保険サービスの内容に基づいて、大量の書類を照らし合わせる必要がありました(注1)。生成AIと自動化を組み合わせて活用することで、保険でカバーされる範囲が瞬間的に特定できるようになりました。
――UiPathが自社ソリューションに使っているAIには最近よく話題になっている生成AIの他に特化型AIもあるそうですね。いまご紹介いただいた保険請求作業の中で特化型AIと生成AIはどのように使い分けられているのでしょうか。
シェルドン氏:非構造化ドキュメントである電子メールや契約書の内容を理解して分類するには生成AIであるUiPath Communications Miningが使われます。電子メールに添付されているインボイス(請求書や納品書など)は、生成AIによって「これは請求書だ」と分類されます。インボイスから情報を抽出して転記するのは特化型AIが担当します。特化型AIとは、特定のタスクや機能に特化したAIを指します。従来の画像認識や音声認識、類推システムなどがそれに当たります。
例えば、請求書がたまっていたら、誰かが目を通さなければなりません。少なくとも、100万ドルの請求書にはきちんと人間が目を通さなければいけませんよね。特化型AIはこうした振り分け作業が得意です。
対話型の生成AIは先ほど述べたように「これは請求書」「これは領収書」と分類するのは得意です。しかし、対話型生成AIの「ChatGPT」を利用されたことがある方はお分かりになるでしょうが、生成AIが生成した意思決定について「なぜこういう意思決定をしたのですか」と尋ねても、十分な回答は得られません。LLM(大規模言語モデル)の確度が高くなければ、意思決定を自動化することはできません。
それに対して、特化型AIは自身が実施した処理の「確度」を出してくれます。
ただし、ユーザーは生成AIと特化型AIの違いを理解しなくてもUiPathのソリューションを利用できます。ほとんどのユーザーは「このソリューションには生成AIが使われているのか、それとも特化型AIが使われているのか」なんて考えたくないでしょう(笑)。ユーザーには課題を解決したいという目的があり、必要な作業が精度高く実行されることが重要です。
――最近、生成AIを利用したソリューションの発表が相次いでいます。貴社がこうした早いタイミングで生成AIを利用したソリューションを複数発表した理由を教えていただけますか。
シェルドン氏:実はUiPathはこれまでもレコメンデーションの領域で生成AIを長く使ってきています。ワークフローを構築するための開発環境である「Studio」では、GPT-2と連携させることで、次に使用すべきコマンドをユーザーにレコメンドしてきました。最近、生成AIが優秀になってきたので、他のシナリオにも生成AIを当てはめられるようになりました。
UiPathはPC画面の操作を自動化する「UI(User Interface)自動化」と、自動化プロセスと外部のシステムやサービスをAPI連携させる「API自動化」を統合して、さまざまなシステムやアプリケーションの間でデータとプロセスを連携する「Integration Service」を提供してきました。
特にAPI連携サービスを提供し、自然言語処理に強みを持つCloud Elementsを2021年に買収してから、UiPathは生成AIやその他のシステムを自動化シナリオの中で活用できるように、コネクターを作ってきました。コネクターとは、特定のアプリケーションやサービス間でのデータのやりとりや機能の利用をサポートするモジュールを指します。コネクターがあることで、エンドユーザーや開発者は、そのアプリケーションやサービスの具体的な実装やAPIの複雑な知識がなくても、簡単にデータや情報を連携させられるようになります。
先ほど申し上げた通り、当社は数年にわたって社内で生成AIを使ってきており、生成AIの利用は当然という感覚です。ですから、現在、皆さんが生成AIに夢中になっているのを見ると、「ようやく世界が目を覚ました」という感じがします(笑)。
(注1)米国では日本をはじめとする国々で提供されている国民皆保険制度が整備されておらず、65歳以上の高齢者と障害者を対象とするメディケア、低所得者を対象とするメディケイドの加入者以外は民間の保険サービス加入を検討する必要がある。保険に加入していない無保険者も少なくない。保険会社、あるいは提供メニューによって保険でカバーされる範囲は異なるため、医療機関では医療サービスを提供するたびに保険でカバーされる範囲を特定する作業が必要となる。
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