――生成AIを利用したソリューションに対するユーザーの反応をどのようにみていますか。
シェルドン氏:特にUiPath Communications Miningには高い評価をいただいています。給与計算や人事(HR)などの人的資本管理(HCM)システムを提供するPaychexという企業は、UiPath Communications Miningによって電子メールの内容から特にリスクが高い顧客を抽出して、顧客の感情分析を実施するという形で成果を上げています。
業務を自動化する上でユーザーが一番気にしているのがデータプライバシーとセキュリティだと考えています。そこで重要になるのがガバナンスやコンプライアンス、マネージアビリティです。例えば、生成AIは「幻覚」と呼ばれるうそをつくことが分かっていますが、生成される文章には「あたかも本当のことを言っているような」強い説得力がある。そこでAIを安全に、倫理的に利用するために必要になるのが「ガードレール」です。
また、イノベーションのペースがあまりにも早いために、ユーザーはどのソリューションがベストなのかが分からなくなってしまうという問題も起きています。UiPathはコネクターを用意することで、ユーザーが自由にAIモデルやその他の技術を試せるオープンプラットフォームという形を採っています。
――生成AIは自然言語で利用できるというハードルの低さとは裏腹に、実は利用するのが難しいツールであるような気がします。
シェルドン氏:現在の生成AIがまさにそうですが、ユーザーのテクノロジーに対する期待感にはサイクルが存在します。最初はワクワクしてテクノロジーに期待していたユーザーは、実際に使い始めると「データが外部に漏れてしまうかもしれない」といった懸念を抱くようになります。そうした懸念を解消するために、自社での利用に特化した生成AIを開発するケースもあります。
その後、「結局、新しいテクノロジーを導入しても期待したほどの利便性は手に入らなかった」「表面的なメリットしかなかった」という感想を抱くようになり、「どうすれば“本当に”役に立つようになるのか」を考える段階に移ります。
ご指摘のように、生成AIを役に立つように利用するのは実は難しい面もあります。ChatGPTを使って電子メールを作成しようとすると、電子メールの受信者や、その受信者と進めている案件に関する大量のコンテキストを用意し、それらをChatGPTの入力欄にコピー&ペーストする必要があります。さらに、ChatGPTが適切なメール文を作成するように指示文を最適化する「プロンプトエンジニアリング」も実施しなければなりません。
これらはとてもつらい作業です。そこで役立つのが、これらの作業を統合して実施する自動化プラットフォームです。ユーザーから「UiPathは生成AIと特化型AIを盛り込んだソリューションを提供しているが、ChatGPTがあれば十分なんじゃないの?」とよく聞かれますが、私は「それは違います」と真顔で答えています(笑)。
ChatGPTはもちろん便利なソリューションです。しかし、ユーザーは「入力したデータが学習データとして使われて外部に漏れてしまうから、ChatGPTを業務に利用できない」「ChatGPTを自社仕様に開発するのはコストが掛かりすぎる」と悩むフェーズにいます。テクノロジーが進展するペースが早過ぎて、実際の業務にどうひも付けていくかという課題を多くの企業が抱えているという印象があります。
――生成AIを利用する中で頭が痛いのが「間違いを犯す」点です。今後、生成AIを利用する中でこうしたミスを減らすことは重要だと思いますが、どうすればミスを防げるのでしょうか。
シェルドン氏:今、世界は決定的論的な世界から確率論的な世界に移行しています。確率論的な世界ではミスを完全には排除できません。ではどうするか。リスクを管理する必要があります。
具体的には、データ利用をどの範囲で許可するか、そしてLLMの精度を上げていくことが重要です。微調整はかなり必要です。
例えば、「請求書のデータをERPに入力する」という作業について、LLMを微調整することで、80%から90%に精度が上昇します。UiPathのお客さまの中には、現在は99%まで達して99.5%を目指している企業もあります。とてもハイレベルですが、いきなりそこから始まったわけではなく、アップデートを重ねていったわけです。
また、生成AIの活用に当たっては、RPAシナリオの管理や監視、セキュリティ確保のための管理プラットフォームである「UiPath Orchestrator」が役立ちます。UiPath Orchestratorでユーザーにロールを割り当てて、ユーザーグループごとにデータアクセスを制御することができます。これによって誰がどのようにデータを利用しているかを把握できます。
後編では、グローバルから見た日本企業の特徴についてシェルドン氏に聞いた。グローバル水準に比べて生産性の低さが指摘されている日本企業に対するシェルドン氏のアドバイスとは。また、そこで業務の自動化ツールはどのように活用されるのか。
UiPath 最高製品責任者 グラハム・シェルドン氏
Microsoftで「Microsoft Dynamics」「Microsoft Bing」「Bing Ads」「MSN」などの製品管理を担当した後、「Microsoft Teams」の製品担当コーポレートプレジデントを務める。UiPath入社後は最高製品責任者として、20年以上にわたる生産やデザイン、エンジニアリングの経験を生かして米国ワシントン州ベルビューやインドのバンガロール、ルーマニアのブカレストのチームを指揮している。
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