KDDIがデータクリーンルーム整備を本格化 外部連携も視野に(1/2 ページ)

KDDIがグループ全体で「データクリーンルーム」の整備を進めている。企業間でのデータ流通を視野に入れた構想の詳細は。

» 2023年10月17日 09時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]

 クラウドデータウェアハウスで急激に市場での認知度を向上しているSnowflakeが、2023年6月に米国ラスベガスで開催した「Snowflake Summit」の内容をグローバルに伝えるワールドツアーイベントを日本で開催した。イベントのタイミングに合わせて同社の会長 兼 最高経営責任者(CEO)のフランク・スルートマン氏らが来日し、記者向けにクラウドデータウェアハウスからデータクラウドへと拡大する同社の戦略を説明。さらにSnowflakeのデータシェアリング機能を活用したKDDIのデータコラボレーション機能も紹介された。

Snowflakeのデータクリーンルームで目指すKDDIのデータコラボレーション構想

 Snowflakeの顧客には、データシェアリングの機能を使って外部データや企業間でデータを共有し、活用するケースが増えている。特に金融業界においてはファクトセットやQUICKなどの外部データを活用するユースケースが多い。こういったデータは既にSnowflakeのマーケットプレイスにあり、自社データと合わせて分析し得られた結果を新たな金融商品やサービスに反映させている。

 KDDIもデータコラボレーション構想を掲げ、Snowflakeを基に企業間でデータを共有し活用することを考えている。KDDIで企業間のデータコラボレーションを考えるきっかけになったのは、米国などと比べると日本のデータ利活用が3分の1以下の水準になっていることだった。

企業の顧客データ活用における課題(出典:「SNOWFLAKE DATA CLOUD WORLD TOUR」資料)

 「規制が多いなどの事情があるにしても、あまりにも低い」と語るのは、KDDI 執行役員常務 マーケティング統括本部長の竹澤 浩氏だ。「データの利活用が大きく遅れているのは、データを自社に閉じているせい」との仮説が立つとも言う。この状況を変革したいと考え、共創するパートナーとデータコラボレーションを推進する構想をKDDIでは描いている。

KDDI 執行役員常務 マーケティング統括本部長の竹澤 浩氏

 KDDIのデータコラボレーション構想においては「データをつなぐ」「データを巡らせる」「データで生み出す」の3つを進めて新たな価値の提供を目指す。

 業界を横断して柔軟なデータの利活用ができれば、日本の企業の競争力が上がってくるはずだ。そのために「企業間の異種データソースを安全、セキュアに統合します。その一つの手法に『データクリールーム』があり、KDDIではその整備をSnowflakeと一緒に進めています」と竹澤氏は説明した。既に2023年6月には、KDDIとAbemaTVが協業を発表し、スポーツコンテンツの視聴機会を創出、拡大するためのデータ連携の仕組みとして、Snowflakeのデータクリーンルームを導入することを明らかにしている。

KDDIが考えるデータコラボレーション構想(出典:「SNOWFLAKE DATA CLOUD WORLD TOUR」資料)

 KDDIの執行役員で、グループのDX専業の技術系企業5社をまとめるKDDI Digital Divergence Holdingsの代表取締役社長の藤井彰人氏は、「企業間の異種のデータソースをまとめるのは、言うは易く行うは難しで、実際にやると極めて難しいものがあります」と言う。まずはデータをつなぐところで、各社にあるばらばらのデータを1つずつつなぐのは大変な作業になる。そのため「Snowflakeのようなクラウドに上げて、つなぎやすいところで安心、安全、秘匿性も確保した上でつなぎます。また、効果的につなげるようなAIなどのツール類も含め用意する必要があります」と藤井氏は説明する。

KDDI Digital Divergence Holdingsの代表取締役社長の藤井彰人氏

 その上でデータを企業間で連携するには、単に技術的なポイントだけでなく、個人情報保護法などの法規制にも対応する必要がある。異業種となれば、データのフォーマットも異なるので、それも合わせなければならない。つまり、データを巡らせるための前準備をしっかりやる必要があると指摘する。これはデータ分析の際に前処理が重要なのと同様だ。

 「実際にデータを連携させたところから、ビジネス上の価値を生まなければ意味がありません。バーチャルなクラウド上でデジタルツインを生み出し、そこでシミュレーションをして効果のある施策をリアルな世界で打ち、施策の結果をデジタルにフィードバックするループを回す。まさに海外のデータを先進的に活用しているところがやっていることを業種の垣根を越えて実現します」(藤井氏)

 藤井氏の構想を実現するには、クラウド上でアジリティを持ってこのサイクルを回せる仕組みが必要であり、そのためのさまざまなテクノロジーが必要だ。

 KDDI Digital Divergence Holdingsには、クラウドとアジャイル、データ活用の事業会社がそろっている。それらでKDDIのデータコラボレーション構想の実装をサポートしながら、ノウハウを他企業におけるデータコラボレーションの活動もサポートする。

 「傘下にはKDDI Agile Development Centerがあり、クラウドに強いアイレットもあります。さらに3月にはデータ連携に強いFLYWHEELも加わりました。それらにSnowflakeのケーパビリティを生かし、KDDIの1stパーティーデータを安全に連携させ、日本の新たな競争力の向上に貢献します」(藤井氏)

 単に企業間でデータをコピーし、共有する仕組みはこれまでもあった。しかし複数企業間で安全、安心にデータを共有し、さらにそこから継続的に価値を生み出せるようにするには、Snowflakeのようにクラウド上の1つのデータクリーンルームで、安心、安全にデータを管理し共有する仕組みが必要になる。多くの企業がSnowflakeのデータシェアリングの技術を評価し、それを活用するKDDIのデータコラボレーション構想に賛同すれば、確かに日本企業の競争力の向上が期待できそうだ。

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