多くの企業が企業競争力強化などを目的にERP刷新を急ぐが、ベンダーが「恐怖戦術を使ってクラウドERP移行を無理やり促しているだけだ」という指摘がある。われわれはどちらを信じれば良いのだろうか。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
過去数年にわたり、レガシーなERPシステムを使う大企業は、システムの最新化とクラウド移行という課題に直面してきた。
ERPベンダーからすればクラウド移行は売り上げを立てやすくSaaSライセンス収入の流れを作る魅力的な仕組みだ。ベンダーは「クラウドERPによって顧客がビジネスモデルを変え、新たな収益源を生み出すことができる最新テクノロジーを実装できる」と言い立てる。とはいえクラウドへの移行は複雑でコストがかかり、約束されたROI(費用対効果)が常に得られるわけではない。
ラスベガスに拠点を置くRimini StreetのCEO(最高経営責任者)であるセス・ラビン氏は別の見解を持っている。同氏は、「破壊的で潜在的にリスクの高いERPのクラウド移行を行わずにITイノベーションを実現できる可能性がある」と述べた。
ラビン氏はこのインタビューにおいて「ミッションクリティカルなシステム」と「戦略的なシステム」の混同について整理し、厳密なROI調査を行わないERPのクラウド移行によるモダナイゼーションプロジェクトを避けるべき理由を説明した。また、頻繁にアップデートされる「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)の話題と同様にSAPによるサポート終了の最後通告の圧力についても警告した。
「ERPはミッションクリティカルだが、ほとんどの企業にとって戦略的ではない」とラビン氏は語る。
ラビン氏 ERPはミッションクリティカルですが、ほとんどの企業にとって戦略的ではない。人々は常にそれを混同しており、ミッションクリティカルなことと戦略的ことを同一視するため、誤った決定を下してしまう。
ミッションクリティカルとはシステムの生命線であって、請求書発行や総勘定元帳の作成といったビジネスが動いているため稼働させなければならないという意味だ。しかし、ほとんどの顧客はそのシステムがMicrosoft、SAP、Oracleのどれを使用しているを気にすることはない。このシステムは競争上の優位性をもたらすだろうか。これらのシステムが競争優位性をもたらしているといえる企業はまずない。
ミッションクリティカルなものを戦略的なものから分離すると、受発注などのトランザクション系のERPシステムは単なるインフラとみなせる。単なる業務推進のインフラであればアウトソーシングを検討可能だ。そうすれば競争優位性をもたらす、より重要で戦略的なことに時間を費やせるのに、なぜERPシステムにこれほど多くの時間を費やすのかを考え始められるようになる。
――ERPシステムに投資しない判断をした企業は、何ができるようになるのでしょうか。
ラビン氏 多くの企業がその節約分を分析に活用している。顧客が1年後に何をするか、つまり1年間のサプライチェーンで1年後に何を買うのかが分かれば、(それを見越した販売戦略を組み立てて)収益を大きく伸ばすことも可能だ。自社がデータを持っていて競合他社が持っていないなら、それは優位性をもたらすものになる。
――これにより、組織におけるITの性質はどのように変化するのでしょうか。
ラビン氏: IT部門はもはや外部のコストセンターではなく、企業の事業運営と一体となって、サーバスペースの提供、電子メール、セキュリティの提供などによってビジネスをサポートするようになった。さらに顧客向けアプリケーションにも関わるようになればビジネスそのものにも参加するようになる。
しかし、多くのCIO(最高情報責任者)は金融資産指向の考え方を持つCFO(最高財務責任者)の配下で活動する。全てはコスト管理に関わるため、多くの企業はITを「3年間使用できる(物理的な)輸送トラックなどの資産と同等」かのように扱っている。
しかし、エンタープライズシステムは20〜30年稼働するため、ベンダーがやって来ては「リリースが廃止される」と宣言するなどの偽のイベントを作り出す。例えばSAPは、既存の2万5000のレガシーシステムを2027年以降サポートしないと宣言した。これは全てSAPのビジネス上の都合であり、テクノロジーに基づいたものではない。業界は偽の危機を生み出すことで成り立っている。
――SAPの顧客はECC 6.0などのレガシーシステムのサポート終了へのアプローチとして何を考慮する必要があるのでしょうか。
ラビン氏: (多くのSAPユーザーは)サポート終了の日程が発表されているため移行を検討しているだけだ。本当のところを言えば、自分たちのシステムが安定動作していることに満足しているので何もする必要はない。
SAPは必死になっており、今後のあらゆるイノベーションはクラウド版でのみ提供すると発表したばかりだ。これは全て恐怖戦術の一部であり、十分な数の顧客が移行しないためです。顧客は S/4HANAに注目していますが、それがどのようにビジネスを改善するのか分かりません。
このソフトウェアは常にROIに対して脆弱(ぜいじゃく)です。
「サポート終了日を順守しなければならない」という考えから脱却すれば、今度は所有資産と企業としての耐用年数の分析を始めることだろう。
彼らはこうしたノイズに耳を傾けるのをやめ、ROI分析を行ってから決断を下し、それに真剣に取り組む必要がある。最新版の方が優れているという意見にただ従うのはやめてるべきだ。
厳密なROI分析があれば正しい決定を下せるはずだ。厳密な分析を行わない場合、彼らは言われたこと、つまり「選択の余地がない」という情報に頼ってしまう。ベンダーから離れられない唯一の理由は恐怖だけだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.