スプレッドシート頼りだったサプライチェーン管理をSAP IBPへ移行した結果

Arista NetworksはスプレッドシートベースのサプライチェーンプロセスをSAP Integrated Business Planning(IBP)に移行した。その結果とは。

» 2023年10月19日 08時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 ネットワーク機器を製造するArista Networks(以下、Arista)はビジネスの急成長を受け、サプライチェーン管理プロセスに「SAP Integrated Business Planning」(以下、SAP IBP)の活用を決めた。従来のスプレッドシートベースの対応では、拡大するビジネスに対応するには不十分だったためだ。

 同社はここ数年で目覚ましい成長を遂げている。公的機関への報告書によると、売上高は2014年の5億8400万ドル(約872億円)から2022年には44億ドル(約6570億円)に大きく伸びた。

 同社の従業員数は約2600人で、北米全域やヨーロッパ、アジアにも販売センターと流通センターを構えている。製造工程のほとんどはアジア各国(マレーシア、ベトナムなど)とメキシコにある計7つの拠点で4社の委託製造業者(CM)が担っている。

急成長でスプレッドシートでのサプライチェーン管理が不可能に

 Aristaのケン・フィッシャー氏(製造プロジェクトエンジニア)によれば、同社の以前のサプライチェーン業務はスプレッドシートとメールといった連係機能のないツールに大きく依存していた。

 同社の売上高が5億ドル(約750億円)に達し始めたころはこれら2つのツールで業務を行えたが、10億ドル(約1500億円)を超える頃には対応できなくなっていた。

 フィッシャー氏は「管理業務が従業員の重荷になりつつあった」と語る。

 「スプレッドシートの数は対応不可能なレベルに達しつつあった。製造拠点ごとに独自のスプレッドシートが作成されていたため、全体を把握するためにシートを追加してまとめる必要があり、作業に多くの時間を費やす必要があった」(フィッシャー氏)

 計画に関わる各製造拠点がそれぞれ独自のデータを所有しており、これがデータの不一致を生んでいた。加えて「どの数字が本物なのか」「どれが事実なのか」について、グループ間の論争が生じていた。

 一貫性のあるデータ無くして的確な計画策定はありえない。フィッシャー氏は「この課題が、企業の成長期に資材の山を抱えるという問題に発展した」と話す。

 「Aristaはものすごい勢いで成長していたので、買えるものは何でも買った。部品や電源、チップ、ケーブルなどだ。そしてこれらの資材の情報は全てスプレッドシートに記載されていた。その結果、自分たちの現在の行動を長期的な視点で把握する方法がなかった。そして、事態が少し落ち着いてくると、一部の担当者が猛烈な勢いで買い付けを行った結果、余分な資材が大量にあると分かった」(フィッシャー氏)

 デジタルサプライチェーンプランニング用のアプリケーションを使えば、必要な資材の調達量を数カ月前から正しく予測できるようになり、余分な在庫の対処に追われることもなくなるとフィッシャー氏は話す。

信頼できる唯一の情報源(SSOT)を求めて

 Aristaは約2年前に、社内共通のデータリポジトリを確立し、将来の計画策定に十分な柔軟性を確保できるシステムを探し始めた。

 CoupaやSourceDay、Ivalua、Oracleのサプライチェーン管理用アプリケーションなども候補に挙がったが、最終的にSAP IBPを選択した。Aristaでは現在、自社のERPシステムに「Oracle NetSuite」(以下、NetSuite)を採用しているが、フィッシャー氏によると、OracleのサプライチェーンアプリケーションよりもSAP IBPの方が、Aristaの要求事項を満たしていたという。

 AristaのSAP IBP導入プロジェクトは2022年3月に開始され、2023年5月にシステムが稼働した。

 全体的にプロジェクトの進行はスムーズだったが、フィッシャー氏は「ほぼ手作業に頼っていたシステムをクラウドに移行するには『発想の転換』と『長きにわたり使われてきたプロセスの再考」』が要求された」と話す。

メリットはあるが、厄介でもある「チェンジ」

 Aristaの従業員の大多数は、それまでSAPのシステムに触れたことがなかったため、チェンジマネジメントがこのプロジェクトのネックになったとフィッシャー氏は説明する。

 「私たちにとって、これは発見の旅だ。私はかつてHPにいたが、そのとき『SAP APO』(Advanced Planning and Optimization)からSAP IBPへの移行を経験した。あるSAPシステムから別のSAPシステムへ移行するのは簡単だ。スタッフが同社の製品の専門用語になじんでいるからだ」(フィッシャー氏)

 AristaのSAP IBP導入プロジェクトにおける組織的なチェンジマネジメントには、動画やオンライン、対面セッションなど、さまざまなトレーニングメソッドとトレーニングパスが取り入れられた。

 「これ自体が大きな組織改革だ。従業員にSAP IBPの基礎を教えているのだから。経験豊富なSAPユーザーのグループがいれば、これはわざわざ教わらなくてもいいことだ」(フィッシャー氏)

 また、Aristaの既存プロセスはカスタマイズされた独自仕様が多く、この点はSAP IBPへの移行に関して別の課題だった。

 Aristaのサプライチェーンプロセスの多くは、同社の創業メンバーによって作られ、会社の成長に伴って場当たり的に拡大してきた。その結果、標準的な設計にはなっておらず、フィッシャー氏によれば、会社の規模が小さいときにはこれでも問題なかったが、売上高が数十億ドル規模に達するとこのやり方は不適切だ。

 「われわれには拡張性と堅牢(けんろう)性を高めることが求められている。Aristaの従業員はいまだにスプレッドシートを手動で操作するといった手作業を多くこなしている。このような作業は、大企業ではシステムが行っている。従業員をこうした仕事から解放し、彼らの頭脳を長期計画を立案するために使える体制を整えたい」(フィッシャー氏)

カスタマイズ過多の独自仕様を捨て、標準化を重視

 Aristaは、かねてよりツールを「カスタマイズしすぎる」傾向があったとフィッシャー氏は話す。その一例が、同社が活用していたOracleのシステムだ。あまりにも大幅にカスタマイズされているため、メンテナンスが困難になっていた。一方、新たに導入されるSAP IBPでは、プロセスの大幅な「カスタマイズ」は推奨されておらず、代わりに「標準化」が推奨されている。

 「このプロジェクトの合言葉は『カスタマイズの数を最小限に抑えた堅牢なチェンジリクエストプロセス』だった。Aristaが目指したのは、今後のプロジェクトで既存製品をそのまま使える企業になることだ。自社のプロセスをチェックする際に、われわれが決まって言うのは『これは組織を挙げたプロセスの一大改革であり、せっかくならAristaで組織的に拡大してきたプロセスから抜け出そう』ということだ」(フィッシャー氏)

 SAP IBPのデジタルサプライチェーンシステムがもたらすメリットが現実のものになるまでに時間はかかるが、これが社内のさまざまなプロセスに加え、サプライヤーやパートナーとの関係の改善にもつながるはずだとフィッシャー氏は期待を寄せる。

 Aristaはもはや小さな会社ではない。しかし、CMとの関係においては、Aristaはいまだに小さな企業のような考え方をしている部分があったかもしれない。

 「Aristaは本当に恵まれていると感じる。FlexやSanmina、JabilのようなCMがAristaの仕事を担い、Aristaの製品を製造してくれるからだ。これがHPのような巨大企業なら、CMに対して強い態度に出て『これをやれ、さもないと契約解除だ』と命じているだろう。CMやサプライヤーとの関係は対等なものになる必要がある。SAP IBPを用いることで、こうした取引相手との対等な関係構築に必要なデータが入手できるようになるのではないかと考えている」(フィッシャー氏)

 Aristaにとって最大のチップサプライヤーであるBroadcomとの関係も、SAP IBPを活用することでより相互の協力を重んじたものになる可能性がある。BroadcomもSAP IBPを利用しているため、計画やデータ共有が可能になるからだ。

 「SAP IBPへの移行について、ベンダーやサプライヤー、CM、パートナーに明かすと彼らの反応は『そろそろ導入すべきタイミングだ』というものだった。Aristaのビジネス規模がこれだけ大きくなったにもかかわらず、いまだにエンタープライズ級のツールを持たない取引に彼らはうんざりしていたのだ」(フィッシャー氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ