「Dynamics 365と肩を並べる」 アナリストが指摘するNetSuiteのAI機能の魅力

Oracle NetSuiteに追加された複数の生成AI機能。これらの機能によって、NetSuiteは中堅向けERP市場で注目を集めている。機能の魅力を紹介する。

» 2023年11月13日 08時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 Oracleが2023年10月に開催した「Oracle SuiteWorld 2023」(以下、SuiteWorld)では、クラウドERP「Oracle NetSuite」(以下、NetSuite)の追加機能が複数発表された。多くがユーザー体験の向上や効率的な業務遂行を実現するものだ。

 具体的には生成AIアシスタントの「NetSuite Text Enhance」や、NetSuite全体にわたるAI機能「NetSuite Enterprise Performance Management」(EPM)の新しい財務機能などだ。また、Oracleがフィールドサービス管理企業のNext Technikを買収することも発表された。

 多くのアナリストは「これらの新機能によって、NetSuiteは中堅企業にとって最も魅力的なERPの一つになる」と予想している。

 本稿はこれらの新機能がどのような価値を企業に提供するのか紹介する。

中堅向けERPの勝者になるか NetSuiteの生成AIの魅力

 NetSuite Text EnhanceはERPシステムに次々と統合されている生成AIアシスタントの最新版だ。

 「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)の生成AIサービス上に構築されており、AIベンダーであるCohereの大規模言語モデル(LLM)を使用している。発表によれば、ユーザーが自分の意図を自然言語で数語入力するだけでやりとりを支援できる。

 財務や顧客サポートに加えて、Text Enhanceは会計や人事、サプライチェーン、営業、マーケティングのアプリケーションにも組み込まれる予定だ。

 NetSuiteの創業者兼エグゼクティブバイスプレジデントであるエバン・ゴールドバーグ氏はSuiteWorldの基調講演で「NetSuiteでは今後、より少ない労力でより多くのテキストを扱えるようになる」と述べた。

 より一般的なAIも今後、「NetSuite Planning and Budgeting」「NetSuite Bill Capture」「NetSuite Analytics Warehouse」などのアプリケーションに組み込まれる予定で、過去データに基づくインテリジェンスの提供や手作業で行われていた業務の自動化などを目指すという。

 ゴールドバーグ氏は財務計画や予算管理の一例として、AIによる計画の監視やトレンド予測、財務データの異常発見などが可能になると説明している。

 同氏は「EPMは『Oracle Fusion Cloud Enterprise Performance Management』に構築された財務一元管理スイートで、財務計画と決算支援を目的にしている」と語った。財務計画や予算管理、勘定照合といった既存のモジュールに加えて、ナラティブレポーティングや収益性およびコスト管理、決算管理、法人税報告なども含まれる。

 OracleによるNext Technik買収を受け、NetSuiteにはフィールドサービス管理(FSM)機能も統合されるだろう。

柔軟なライセンスと比較可能なベンチマーク

 ゴールドバーグ氏はまた、NetSuiteユーザーが他のユーザーとパフォーマンスを比較できるアプリケーション「Benchmark 360」と、柔軟なライセンスモデルを発表した。新しいライセンスモデルは、必要な機能の分だけライセンス料が発生するものだ。

 ゴールドバーグ氏は「新たなライセンスモデルに関しては、『NetSuite Warehouse Management System』(WMS)に導入する。倉庫のスタッフは入荷や出荷、ピッキング、発送などが日常業務で、WMSの機能のみを必要としているからだ。必要なものに料金を支払い、必要のないものには支払わないという仕組みだ」と説明した。このモデルは今後、他のモジュールにも拡大される。

 NetSuiteによれば、顧客はBenchmark 360で業界や地域の類似企業と指標を比較できる。最初は財務モジュールに導入され、他のモジュールにも追加される予定だ。

 「Benchmark 360は自社が『どういう点で後れを取っているか』を教えるだけでなく、『どこを改善すべきか』も示す。近いうちにNetSuiteユーザーは、他のユーザーがベンチマーク改善のためどのようにNetSuiteを利用しているかが分かるようになる」(ゴールドバーグ氏)

 ゴールドバーグ氏によれば、Benchmark 360にオプトインしたユーザーデータはセキュリティとプライバシーを確保するために匿名化される。

ERPにおける生成AIの正しいアプローチ

 Constellation Researchのホルガー・ミュラー氏(アナリスト)は、「NetSuiteにも生成AIが導入され、OCIを通じてプラットフォーム側でサービスを実行できるのは正しい判断だ」と評価している。

 「Text Enhanceへの注力は良いことだ。ユーザーはERP全体でテキストの生成に多くの時間を費やしており、生成AIはこれに真価を発揮する」(ミュラー氏)

 さらに、OracleはFusion ERPでも同じ生成AIサービスを発表しており、Fusion ERPがさまざまな場面で使われることを考えると、これらサービスの質は向上するはずだ。

 Technology Evaluation Centersのプレドラグ・ヤコヴリエヴィッチ氏(アナリスト)は、Oracle NetSuiteについて「買収によってもたらされた素晴らしい成長の物語だ」と述べている。

 2022年はVereniaの買収でCPQ機能を、2023年にはNext Technikの買収でFSM機能を強化した。

 「NetSuiteが『Microsoft Dynamics 365』を超えたとは言わないが、肩を並べようとしているのは間違いない。国際的な財務に関して、今や中堅企業向け市場の勝者といえる」(ヤコヴリエヴィッチ氏)

 新たな生成AI機能はプラスに働くとヤコヴリエヴィッチ氏は考えている。

 「Cohereの技術をベースにしたText Enhanceは、ユーザーごとの文脈や独自用語から学習できる。この生成AIはまた、データやプロンプトの蓄積とともに学習し、調整されていく」(ヤコヴリエヴィッチ氏)

 また、NetSuiteの柔軟なライセンスは一部の機能だけを必要とするユーザーにとって魅力的だとヤコヴリエヴィッチ氏は話す。

 「彼らはWMSからこのライセンス提供を始める。例えばモバイル機器で入出荷管理機能を利用するユーザーは、NetSuiteの全機能を必要としていない。それなのになぜ全機能のライセンス料を支払う必要があるのだろうか」(ヤコヴリエヴィッチ氏)

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