SAP、Oracle、Salesforceの生成AIは何が違うのか? 関連ニュースをまとめ読み

ベンダー各社が生成AIサービスを相次いで打ち出している。一方で「何が違うのか」を明確に理解するのは困難だ。本稿ではOracle、Salesforce、SAPの情報をまとめて紹介する。

» 2023年11月15日 08時00分 公開
[David EssexTechTarget]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 2023年9月は生成AI(人工知能)による“ERP変革”の節目になったかもしれない。Oracleは年次カンファレンス「CloudWorld」で生成AIを大々的に発表し、ライバルのSalesforceとSAPも同様の発表を行った。

 Oracleは数年前から着実に、他のERPベンダーが当初支持していた汎用(汎用)AIプラットフォームを避け、目的を絞った機械学習(ML)や自然言語処理のアプリを「Oracle Fusion Cloud ERP」に追加してきた。

 同社は主に、請求書の照合や勤務時間と経費の入力、勘定照合といった面倒な作業のために、実用的なAI機能を構築することに集中してきた。

 そして2023年9月の年次カンファレンスで、人事や顧客体験(CX)、サプライチェーン管理などを含む「Fusion Cloud Applications Suite」全体に組み込まれる約50の生成AI機能を発表した。

Oracle、Salesforce、SAPの動向は

 Oracleが発表した顧客体験(CX)アプリケーションやヘルスケアアプリケーションの生成AI機能は特に注目を集めた。

 CXの生成AIツールには、顧客サービス担当者が問題に対処する際にその助けとなるコンテンツを生成する「Assisted Knowledge Articles」(アシステッド・ナレッジ情報)や、フィールドサービス担当者が問題の解決策を探すことを支援する生成AIなどがある。

 新しいヘルスケアツールには、患者の医療記録を処理する生成AIアシスタントや、医療従事者の手作業を代行する音声操作の「Oracle Clinical Digital Assistant」などがある。

 Oracleはまた、「Fusion SaaS」のスイートを支えるインフラの下層にも生成AIを追加するとしている。

 さらに、同社は開発ツールメーカーのCohereと共同開発したマネージドサービス「OCI Generative AI」も発表した。これにより、ユーザーはAPIを通じて生成AIの大規模言語モデル(LLM)をアプリケーションに追加できる。

 さらに、Oracleは「Oracle Cloud Infrastructure」(以下、OCI)をNVIDIAのGPU「Graphics Processing Unit」で強化しているとした。「Oracle Database」と「Autonomous Database」にも新たな生成AI機能が追加され、「Fusion Data Intelligence Platform」のレポーティングウェアハウスには、サードパーティーのデータに機械学習などのAIを適用する機能や、次のアクションを提案する生成AIが追加された。

SalesforceとSAPも生成AI製品を発表

 CRM(顧客関係管理)市場のリーダーであるSalesforceは2023年9月、米国サンフランシスコで年次カンファレンス「Dreamforce」を開催し、AIプラットフォーム「Einstein」の生成AIバージョンを発表した。

 「Einstein 1」と名付けられたこの製品は、全てのSalesforceアプリケーションで生成AIアシスタント「Copilot」を利用できるようにする。新しい「Einstein Copilot Studio」では、ユーザーがAIモデルをカスタマイズし、精度の向上や企業のポリシーへの適合などが可能になる。

 SAPも同年9月、ライバル2社に主役の座を奪われないよう生成AIアシスタント「Joule」を発表した。こちらは、SAPのクラウドアプリケーションとアプリケーション開発、インフラプラットフォームである「SAP Business Technology Platform」(BTP)に組み込まれる予定だ。

 Jouleは2023年内に人事システム「SAP SuccessFactors」で、2024年にマルチテナント型SaaS ERP「S/4HANA Cloud, public edition」で利用可能になる予定だ。同社の発表によれば、その後は「Customer Experience」「Ariba」「SAP Business Technology Platform」(BTP)などにも順次対応していく。

ERPのためのより会話に近いUX

 Oracleの生成AI機能のほとんどは、ユーザーインタフェース(UI)をより“自然に”することを目指している。それも当然で、何しろ生成AIの最大の強みは言語能力だからだ。

 コンサルタントやアナリスト、そして一部のベンダーでさえ、コアERP(会計、財務管理、人事、在庫管理、調達など)を単なる「記録システム」と軽視してきた。

 AIやCX、アナリティクス、オムニチャネルコマースなど、通常はSaaS型のより高度なアプリケーションこそがデジタルトランスフォーメーション(DX)の起きる場所だと考えてきたのだ。

 議論の余地はあるかもしれないが、エンタープライズアプリケーションの3大メーカーが生成AIツールを一斉に発表したことで、ユーザーをERPの“コア”から遠ざける「ユーザーフレンドリーなユーザーエクスペリエンス」(UX)が実現し、コアERPからのシフトは加速するとみられる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ