Google Cloud Next Tokyo '23が開催され、Google Cloudの生成AI関連ソリューションのアップデートが複数発表された。中外製薬とZOZOでの導入事例についても解説する。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
グーグル・クラウド・ジャパンは2023年11月15日、「Google Cloud Next Tokyo '23」を開催した。基調講演には同社の日本代表を務める平手智行氏らが登壇し、昨今話題となっているML(機械学習)を含む生成AI(人工知能)関連のプロダクトアップデートやそれらの導入事例が幅広く紹介された。
本稿では、今回の発表の軸となった「Vertex AI」と「Duet AI」のアップデートや、中外製薬とZOZOでの導入事例について解説する。
冒頭、平手氏はGoogleのAIに関する基本方針である「大胆かつ責任あるAI」について触れた。後述のように、今回発表されたアップデートは責任あるAIの実現を目指したものが多く含まれるようだ。
Googleのアーワン・メナード氏(Cloud AI ディレクター プロダクト マネージメント GTM《Go to Market》)が登壇すると、「Google Cloud」でAIを使ったアプリケーションを開発するためのプラットフォームである「Vertex AI」のアップデートが次々と紹介された。主なアップデートは以下の5点だ。
この中でもGoogleが特に熱を入れてアピールしたのが、DRZの日本リージョンサポートをはじめとした、企業固有のデータへの配慮だ。メナード氏は「Your data is your data.」(あなたのデータはあなたのもの)と繰り返し述べ、企業独自のデータがその企業独自の環境で操作されることを強調した。
同氏によれば、Vertex AIを利用する顧客アカウント数は前四半期比で50%増加、アクティブなプロジェクトは同700%増加している。今回のアップデートが日本の顧客の“安心感”につながり、利用がさらに増加するかどうかに注目したい。
次にGoogle Cloudのフィリップ・ブリタン氏(Google Workspace バイス プレジデント アウトバウンド プロダクトマネージメント)が登壇し、AIアシスタントのDuet AIについて紹介した。Duet AIを利用するとGoogleの各種サービスにAIアシスタントとのチャット画面が表示され、ドキュメントやスライド、メールの下書き、スライドで使用するイメージの生成などが可能だ。
本稿執筆時点では英語でのみ利用可能だが、今回の基調講演では「Google ドキュメント」で日本語の文章を生成したり、「Google Meet」で英語の会話を同時翻訳したりする様子が映し出され、2024年中に日本語対応することが発表された。
続いてGoogle Cloudのブラッド・カルダー氏(Google Cloud プラットフォーム & テクニカル インフラストラクチャ バイス プレジデント兼ジェネラル マネージャー)が登壇し、Google Cloud上での開発やデータ分析、セキュリティ対策で利用できるDuet AIの機能が紹介された。
デモンストレーションでは、「Cloud Workstations」と呼ばれる開発環境にDuet AIとのチャット画面が表示され、自然言語で指示した内容に沿ってDuet AIがコードを書いたり、既存のコードについて説明したりしていた。このデモンストレーションでもDuet AIとのコミュニケーションは日本語でなされていた。
さらにBIツールの「Looker Studio」にもDuet AIが組み込まれ、自然言語での指示に従って分析を提供してくれるという。
同講演には、Google Cloudの生成AIソリューションの導入企業である中外製薬の志済聡子氏(上席執行役員 デジタルトランスフォーメーションユニット長)とZOZOの風間昭男氏(想像戦略室長 兼 ブランドソリューション本部長)も登壇し、その成果を紹介した。
中外製薬では“AI創薬”で医薬品の完成までにかかる膨大なコストの削減を目指す。志済氏によれば、薬1つを完成させるまでに10〜15年以上の期間と3000億円以上の費用がかかるとされ、さらにその成功確率は0.004%なのだという。
そこで同社は、Googleのグループ企業であるDeepMind Technologiesが提供する「AlphaFold2」を使って、薬の候補となるタンパク質の構造を高精度に予測できるようになったという。AlphaFold2の実行環境はGoogle Cloud上に構築し、研究プロセスを数カ月短縮したとする。
また、医療分野向けの大規模言語モデル「Med-PaLM 2」によって臨床試験計画に必要な情報の検索や文書作成を効率化し、医薬品製造にかかるコストの削減を見込んでいるという。
ZOZOは著名人やアパレル店員、一般ユーザーがファッションのコーディネートを投稿するサービス「WEAR」の運営においてVertex AIを活用している。
WEARが運営するWebメディアではコーディネートを説明文をZOZOの従業員が書いていたが、現在はPaLM 2で生成した文章を使い、制作時間が3分の1になったという。風間氏によると、今後は画像生成AIモデルの「Imagen」などを使い、画像の生成や検索への応用を目指す。
2社での活用例のように、今後は各業界で生成AIの活用が進んでいくと思われる。基調講演後に開催された記者会見にてメナード氏は「業界特化型の生成AIを作るには、オープンデータを学習させる方法、幾つかの企業からその業界のデータを提供してもらう方法、大手1社の提供データによってチューニングする方法があるが、今後は3つ目の方法が増えてくるだろう」と述べた。既にGoogleはこの方法で大手格付け機関Moody'sとの提携を発表しており、分野特化型のAIが各業界の生産性向上に寄与することを期待したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.