ERPには生産性や効率化工場に加えて、“価値創造”が求められています。今後、AIは「仕事の進め方」や「従来プロセスの再構築」「競争力を維持する方法」などを再定義すると期待されます。
McKinsey & Companyによると、エンタープライズソフトウェアが自動化される可能性が相当高まっています。近年、ユーザーとソフトウェアの関係が大きく変化しています。生成AIによって対話可能になったERPは、ユーザーにプロアクティブに対応します。ERP領域のCopilotはいわゆる「守りのDX」の援軍です。
ここから、ERPがCopilotによって業務変革を支援するケーススタディーを紹介します。
プロジェクトマネジャーがリソース情報や進捗、リスク、予算などを把握するには工数を要します。自然言語でプロジェクト管理資料を作成するCopilotであれば、管理工数を大幅に削減できます。Microsoft Igniteでもプロジェクトタスクを自動生成するデモが行われ、とても有益な機能です。
MicrosoftのERP開発チームが使っているブループリント(図31)では、Copilotがベースにあり、難易度の高い需要計画が一番上にあります。全ての領域にAIが使えるように今後も開発を継続することが示されています。
プロジェクト管理領域では、現場ニーズに合わせてカスタマイズできるレポート機能も提供する予定です。予算計画と実績管理を行う機能もあります。
Dynamics 365には対話可能なCopilotが搭載されています。例えば「請求伝票の登録方法を教えて」と入力すると、その方法を丁寧かつ迅速に説明します(「Dynamics 365 Finance and SCM」だけではなく、「Dynamics 365 Business Central」も同じ)。新たなユーザー教育の工数を大幅に削減できます。
在庫補充もCopilotが支援します。在庫が足りない場合は発注作業を行う必要がありますが、この場合にCopilotが複数の調達先を提案します。購買部門はデータに基づいた意思決定を迅速に行えます。これらの作業をCopilotが対応することも可能です。AIと共存することで発注漏れを防ぎ、適正な在庫確保が可能になります。
需要計画機能は「俊敏性」「柔軟性」「結果重視」に基づいて開発されています。中長期で在庫予測を立てる際は、マーケティングや営業、R&D、製造、財務会計など、多くの部門が関係します。この在庫予測を各部門の仕組みで対応しようとするとミスが発生し、購買計画担当(以下、プランナー)の業務が非効率になります。
「If分析」とシナリオベースの比較機能を活用すれば、在庫の基本計画と上振れ/下振れを比較でき、実情報に基づいた意思決定が可能になります。ドミノ・ピザは同機能を活用し、不要な配達を回避しています。
すぐに利用できるコネクタをDynamics 365 SalesやFinance、Operationsのアプリ側に提供しており、Power Platform上に構築されているため、あらゆるデータソースから外部データを取り込めます。Power Platformのコネクタは現在1000以上あるので、それらがすべてが利用可能になります。
データ収集が終わったら、ML(機械学習)を活用しましょう。MLの従来の予測モデルや新たな予測モデルを調査し、エラー値を減らす最適なモデルを考えます。さらに、購買計画や物流計画、生産計画を複数の利害関係者間で再計画し、在庫管理と事業計画のプロセスを統合管理できる仕組みも構築できます。
図36の「Consensus Plan」(合意計画)では、「計画立案の仮定」を確認できます。同図によれば、マーケティング部門は新製品発売に向けて第1四半期にプロモーションを行うとしていましたが、インフレの影響を受け、第2四半期の予想を下方修正しました。売上に関して、北米で大きな影響がでていると簡単に分かりました。
ここまで分かれば、関係者間で将来に向けた効果的なミーティングができます。デモではこのような情報に基づいて新たなシミュレーションを行い、今後3カ月の計画を変更しました。従来の予測と新たな予測を比較し、最適な需要計画に基づいて計画を作ることはとても重要です。計画と実行を同じアプリケーションで実行できれば、明確な需要供給計画や適切な在庫管理の実現が可能になります。さらに、データの一貫性を担保してサプライチェーンを最適化し、稼働率を向上します。
BPA(Business Performance Analysis)は、複数システム間のデータ統合を合理化し、分析モデルとレポートを提供します。決算データの洞察をタイムリーに得ることは経営者に欠かせません。
管理部門は多くのデータを集計し、経営判断に生かせる分析モデルを定義する必要があります。これらは工数のかかる作業で、多くの財務担当やプランナーはExcelを使っているのが現状です。
ExcelとPower BIでこれらの機能群を利用すれば、エンドユーザーに対するモデル導入が加速するだけではなく、データモデルのセキュリティを高めながら内部や外部を問わず複数の利害関係者と共同作業できます。クラウドのセキュリティも活用し、バッチ処理だけでなくリアルタイム分析ができるのも強みです。
さまざまなデータソースの統合を合理化できれば、MLやAIを活用したデータクレンジングはもちろん、精度の高いエンリッチメントも実現できます。多岐にわたるビジネスプロセスに対して、すぐに適用できる分析モデルがあるのも強力な武器です。
Microsoft 365で生産性向上とコラボレーションを、Dynamics 365でビジネスプロセスの再構築を、Power Platformでローコード機能を拡張することで、さまざまなビジネスニーズに対応できます。また「Microsoft Azure」はセキュリティ機能も重厚です。
Copilotはユーザーの主体性を大きく前進させますが、意思決定そのものは人間が中心です。「ビジョンの実現」の完全自動化は不可能です。しかし「AIと共存して企業独自のCopilotを育てる」というステージに来ていることは間違いありません。
Microsoftのビジネスアプリケーションが初めて日本で展開されてから20年以上がたちました。
製品は当時と比較できないレベルに成長し、多くの方に利用されるようになりました。ビジネスアプリケーションの導入を検討する際は、機能だけでなく「時代に合った働き方ができるのか」という視点が大切です。特に、Microsoft製品は複数を組み合わせて使うことで、有機的に連動し多くのメリットを享受できます。
クラウドインフラ基盤やコミュニケーション基盤、ビジネスアプリケーション、ローコード製品、セキュリティ、開発基盤、ハードウェアなど、全てにおいて高品質のサービスを提供しています。
企業が独自のサービスを展開し、DXに挑戦するためにはITの内製化や継続的なIT教育が不可欠です。「操作性」「柔軟性」「拡張性」に優れるMicrosoft製品はその助けになるはずです。
DX 365 Lifeは1年間にわたり、Microsoftの最新情報を解説してきました。読者の方々、ありがとうございました。皆さまがMicrosoftのビジネスアプリケーションで、クライアントやビジネスパートナー、同僚、そしてご家族とともに素晴らしいDX 365 Lifeをお過ごしになられることを期待しています。
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