ERPベンダーにロックインされるな 企業が“最適なシステム構成”を実現する方法コストセンターをプロフィットセンターに

ERPベンダーが言うことが全て自社に最適とは限らない。自社のビジネス成長につながるシステムを見極める方法を聞いた。

» 2023年12月06日 08時00分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 企業を取り巻く環境は急速に変化しており、“正確な”将来予測を立てることは不可能といえる。常に「不測の事態」を想定して成長目標を立て、その中で収益性を保つ、あるいは向上させなければならない。このような背景から近年、企業から再注目されているのがERPだ。

 「経営資源を可視化し、効果的な意思決定を実現する」

 こんなうたい文句で導入を後押しするERPベンダー各社だが、実際にはロックイン型のサブスクリプションサービスで囲い込みを進めているのも事実だ。企業はこのようなベンダーロックインにはまらず、本当にERPのメリットを享受するために何をすべきなのだろうか。

 第三者保守を手掛けるRimini Streetのエリック・ヘルマー氏(シニアバイスプレジデント チーフテクノロジーオフィサー)に「コストセンターからプロフィットセンターにITを進化させる方法」を聞いた。

「ベンダー主導のロードマップ」に踊らされるな

Rimini Streetのエリック・ヘルマー氏

 「現状のITをプロフィットセンターに変革するには『業界の現状把握』『モジュール構造で俊敏性の向上』『全てのROIを比較し、プロジェクトの投資回収を明確化』に取り組む必要があります」

 ヘルマー氏はインタビューの冒頭、プロフィットセンターへの変革に必要な要素をこう述べた。業界の現状把握は「ベンダー主導のロードマップ」と「ビジネス主導のロードマップ」に分けて見る必要がある。それぞれの内容を示したものが図1だ。

図1 ベンダー主導のロードマップとビジネス主導のロードマップの内容(出典:Rimini Street提供資料)

 これらの内容を比較すると、まさに“正反対”なアプローチといえる。つまり「ベンダーの言いなり」になることで、自社のビジネス成長を実現するベストな道筋から遠ざかるというのがヘルマー氏の意見だ。

 Rimini Streetが2023年9月に発表した調査によると、回答者の99%のCIO(最高情報責任者)とCTO(最高技術責任者)が「ERPベンダーのサブスクリプションベースライセンスモデルの導入に懸念を感じる」とした。ヘルマー氏はこのような結果を受け「ERPベンダーはロックイン型のサブスクリプションで導入を促しています。一方、導入側の意見は『今あるものを可能な限り最適化し、ロックインすることなく必要なところでイノベーションを起こしたい』というものです」と指摘する。

 ビジネス主導のロードマップに沿ったシステム構成を実現するために、企業は以下の3つを意識する必要がある。

  • モジュラー・ビジネスアーキテクチャ: 変化し続けるエコシステムの変化に対して、組織が迅速にシフトし、適応することを可能にする事業活動のパラダイム
  • モジュール技術: 希望するソリューションと機能を実現するための、インフラストラクチャとソフトウェアアプリケーションの具体的な選択
  • モジュラー・ベンダー: 単一のベンダーが必要な機能を全て提供することを期待するのではなく、機能に応じて堅牢(けんろう)で包括的な機能を提供する特定のベンダーを選択する

 全てのROI(投資収益率)を比較し、プロジェクトの投資回収を明確化する方法として、ヘルマー氏は図2を示した。

図2 全てのROIを比較し、プロジェクトの投資回収を明確化する方法(出典:Rimini Street提供資料)

 「図2のような順番で自社理解を深めることで『本当にそのシステムが必要なのか』『ベンダーの言い分は正しいのか』を明確にできます」(ヘルマー氏)

 また同氏は「ERPの近代化にリップアンドリプレースはいりません」と述べる。リップアンドリプレースは既存のアプリケーションは利用せず、新しい環境にクラウドネイティブアプリケーションを作成し、置き換えを行う方式だ。

 「多くのCIOとCTOは、DX(デジタルトランスフォーメーション)にERPアプリケーションのリップアンドリプレースが必要とは考えていません。この傾向は特にヘルスケアや製造、金融、ITといった業界で顕著です」(ヘルマー氏)

ITシステムをイノベーションエンジンに進化させる方法

 ITシステムをイノベーションエンジンに進化させる方法として、ヘルマー氏は「システムの定義」「システムの属性理解(ビジネス視点のライフサイクル)」「コモディティへのリソースを最小化し、成長と変革に焦点を当てる」ことが重要だとする。

 システムの定義を示したものが図3だ。

図3 システムの定義(出典:Rimini Street提供資料)

 図が示すように、差別化要因にならないシステムと変化につながるシステムをそれぞれ分けることで、企業は効果的な投資先を明確化できる。それが顧客満足度の向上やイノベーションにつながる。この効果的な投資先を明確化するというのに関係するのが図4が示すシステム属性の分類だ。

図4 システム属性(出典:Rimini Street提供資料)

 「このような表でそれぞれのシステム属性を明確にすると、企業は『どのシステムに投資すべきなのか』『そのシステムがイノベーションにつながるのか』を理解でき、無駄な投資やリソースを削減できます」(ヘルマー氏)

 ヘルマー氏はコモディティへのリソースを最小化し、成長と変革に焦点を当てる方法として図5を示した。

図5 コモディティへのリソースを最小化し、成長と変革に焦点を当てる(出典:Rimini Street提供資料)

 この図はシステムイノベーション、システム差別化、システム記録という項目に対して「カスタマイズの変更」「ガバナンス」のそれぞれがどの程度意識されるかを示したものだ。システムイノベーションにつながると思われるものに関してはカスタマイズの変更が大きく割り振られているのに対し、システム記録はそうではない。このような図で自社システムを割り振ることで、どのシステムがイノベーションを起こすきっかけになるのかを把握できる。

 ヘルマー氏は「データ保管やコンプライアンス管理など、記録システムという分類に属する業務やシステムはアウトソースすることも検討すべきです。そうすれば、AI(人工知能)やブロックチェーン、RPAなど、新たな技術にリソースを割けます」と語る。

 同氏は最後に、システム導入の際に取締役会が確認すべきチェックリストとして以下の7つを示した。

  • 成長を加速させ、収益性を増やせるか
  • コスト削減と収益性向上につながるか
  • 競合他社のシェアを奪えるか
  • リスクを減らせるか
  • コンプライアンスを向上させられるか
  • より良い顧客体験を創造できるか
  • 企業のKPIに影響を与えるか

 「企業は『アップグレードのためのアップグレード』に疑問を投げかけなくてはなりません。コストベースの意思決定ではなくROIベースの意思決定を行い、チェックリストなども活用して他社との差別化やプロフィットセンターの構築を実現しましょう」(ヘルマー氏)

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