コラム
» 2023年12月07日 08時30分 公開

日立はなぜ組織再編でクラウドネイティブコミュニティーに肩入れをするのか編集部コラム

日立が組織再編を発表してから1カ月。社会インフラを担う同社が日本におけるクラウドネイティブコミュニティー立ち上げの中核メンバーに人材を送り込んでいます。

[荒 民雄ITmedia]

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記事訂正のお知らせ

当初記事で「そのVantaraは日立の組織再編によって、傘下にITプロダクツ事業を抱え、データインフラ全般を扱う組織を実現しています」との記述がありましたが、正しくは、組織改編によってHitachi Vantaraおよび日立ヴァンタラの2社がともに日立の子会社として連結経営を進める体制です。現在記事本文はその点を修正しています。訂正して関係各社さまにお詫び申し上げます。(訂正日時:12 Dec 2023 20:06:32 +0900)



 2023年12月1日、日立製作所(日立)が「Cloud Native Community Japan」設立に参画したと発表しました。非営利団体「Cloud Native Computing Foundation」(CNCF)の日本初の「公式」コミュニティーとされます(コミュニティーの設立そのものは2023年11月8日付け)。

 もともと日立は「OSSソリューションセンタ」を組織しており、国内外のオープンソースソフトウェア(OSS)プロダクトの開発にコミットしたり、開発コミュニティーに協力したりと、独自の研究開発に取り組む一方で組織的にOSSとのつながりを継続的に持っていました。

 今回の公式コミュニティーには、こうした日立におけるOSSコミュニティー活動をリードしてきた中村雄一氏(OSSソリューションセンタ担当部長)が発起人の一人として参加しています。他にも大規模なクラウドネイティブコミュニティーやイベントをリードしてきたサイバーエージェントの青山真也氏やAppleの太田航平氏、NECソリューションイノベータの武藤 周氏が発起人に名を連ねています。発起人の一人である中村氏はSELinux開発コミュニティーに長く貢献してきた人物として知られており、現在はThe Linux Foundationのボードメンバーも務めています。

Cloud Native Community Japan発起人の中村雄一氏(中央)とCNCFアンバサダーを務める研究開発グループ 主任研究員 西島 直氏(左)、OSSソリューションセンタ シニアOSSコンサルタント 田畑義之(右)
Cloud Native Community JapanのWebページ。直近のコミュニティ活動などが示されている

 ここからは推測になりますが、日立がコミュニティーにコミットしていることを大々的に発表したのには、日立がクラウドネイティブな技術に強いインフラ企業としての立ち位置を明確化する狙いがあるのではないでしょうか。

IT×OTの融合とビジネス変革を支える基盤

 2023年11月、日立はOT領域の組織再編を発表しています。日立は米国にHitachi Vantara(Vantara)という子会社を持っています。同社はもともとHitachi Data Systems(HDS)と同社が2015年に買収したBIツールベンダーPentahoを統合した組織でした。Vantaraは2018年にパグリッククラウドサービス事業会社REAN Cloudも買収しています。

組織改編によってHitachi Vantaraおよび日立ヴァンタラ(ITプロダクツ事業)の2社がともに日立の子会社としてデータインフラ全般を扱う組織を実現しています。OTシステムインテグレーションについては「Hitachi Digital Services」が担う形です。サービス開発支援などを手掛けるGlobal Logicの買収と合わせ、次の成長に手を打った形です。

 日立自体はDXを支援する「デジタルシステム&サービス」、脱炭素社会の実現を目指す「グリーンエナジー&モビリティ」と「コネクティブインダストリーズ」を事業の核と位置付けており、これらを包括的に提供するものとして「Lumada」を置いています。クラウドネイティブへの取り組みやOTとITを横断するデータ基盤の提供はこうした事業構想の一端を担うものでしょう。

 AI(人工知能)が爆発的に発展すると、企業が持つ固有のデータ資源は学習データとしての価値が高まることでしょう。企業の競争力は固定的なルーチンワークからではなく、新たなデータの獲得やその活用からもたらされるようになります。OT領域のデータを扱うインフラやそのインテグレーションをミッションクリティカル領域で実績のある企業が担うことは、今までにないソリューションを開発し、今までにないデータを扱うことを目指す企業にとって大きな助けになるでしょう。

 多くのIoT機器を運用管理する必要がある社会インフラにおいては「Kubernetes」のような分散型コンテナアプリケーションの仕組みは、ハードウェアのメンテナンスとソフトウェアの管理を分離でき、ソフトウェアは集中型で運用が可能になるため、親和性が高いものです。機器を運用し続けるという意味では分散型の設計は可用性を高めることにもつながります。通信事業者においても基地局の運用にこうしたコンテナ基盤が利用され始めています。

 これらの機器(エッジ)から得られたデータをクラウドにつなぎ、クラウドのエコシステムを生かして新たなビジネスアプリケーションを展開することこそが「DX」(デジタルトランスフォーメーション)といえます。

 ミッションクリティカルなデータを扱う事業であっても、重厚長大なシステム開発や運用のために市場ニーズや社会課題に迅速に対応できないようでは、新たなサービスに市場を奪われかねません。

 むしろ、多くの人が利用する社会インフラに近い領域こそアジリティが求められます。このとき、重要データを守りながらも軽快に新しいチャレンジが可能な環境を用意するには、クラウドネイティブなIT技術は不可欠になります。OSSの成果がデファクトスタンダードとなることが多いクラウドネイティブな技術をキャッチアップし続けるには、OSS開発コミュニティーに貢献しながら知見を自社に取り込むエコシステムを正しく機能させる企業側の体制も重要です。

 新しいコミュニティーCloud Native Community Japanが、日本におけるクラウドネイティブ技術のハブとして機能し、より多くの企業が賛同してエンターテインメントから社会インフラまで、垣根のない技術交流の場として発展することを祈ります。

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