デロイトトーマツの「生成AI」浸透術 1万8千人に使わせる方法CFO Dive

巨大会計事務所であるデロイト トウシュ トーマツは会計監査業務に生成AIを取り入れている。同社は1万8000人の監査専門家にいかに生成AIを使わせているのか。「導入したが、使われなくなったツール」にしないための方策を見てみよう。

» 2023年12月14日 08時00分 公開
[Grace NotoCFO Dive]

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 企業の経営幹部は生成AI(人工知能)の可能性に注目し続けている。近年、財務・会計事務所は、「増え続けるデータをどう選別するか」という課題に取り組んでおり、正確かつコンプライアンスに準拠した財務情報を顧客に提供するために新しい技術を日々業務に組み込もうと試行錯誤している。

1万8千人が生成AIを活用するために何が必要か?

 世界の四大会計事務所の一つであるDeloitte Touche Tohmatsuは最近、生成AIを活用した社内チャットbot「DARTbot」を立ち上げた(注1)。生成AIがすぐに会計士に取って代わることはないだろう。しかし、これによって1万8000人の監査および会計の専門家が会計に関する複雑な質問を対話形式で行い、回答を得ることができる。

 Deloitte Touche Tohmatsuのウィル・バイブル氏(監査・保証部門 デジタルトランスフォーメーションイノベーションリーダー)は「現場の専門家が特定のトピックについて調査している最中や顧客とのやりとりの過程でこのツールを使用すると、その種の問い合わせに対応したり、監査プロセスのサポートを得たりできる」と述べた。

 バイブル氏は同社のクリス・グリフィン氏(マネージングパートナー 兼 米国監査・保証部門のトランスフォーメーションテクノロジープラクティスリーダー)との対談で、「キーワード検索を実施して会計文献を深く掘り下げるのではなく、botに直接質問すると特定の文献に基づいた自然言語による回答を得られる」と語った。

 バイブル氏によれば、監査におけるAIの導入は最近始まった話ではない。Deloitte Touche Tohmatsuでは数年前からLLM(大規模言語モデル)を活用しており、生成AIの登場に伴って、会計分野で最大限活用できる方法を迅速に検討した。

 「DARTbotでは、既存の会計調査ツールにレイヤーとして生成AIが組み込まれている。監査専門家が既に使い慣れているデータベースからより迅速な回答を得ることを可能にした」(バイブル氏)

 グリフィン氏は「当社は1万8000人の監査専門家に展開する前に、DARTbotが質問に正しく応答するかどうか、現場における専門的な知見と合致した回答を得られるかどうかを少人数のユーザーグループで試験的に運用した。構造的にパラメータを組み込んで回答内容が逸脱しないようにしているので、会計に関連した適切な質問にだけ答えるようになっている」と説明する。

 従業員がツールを効果的に活用するためには適切なトレーニングも重要だ。「従業員のスキルアップを図る場合、ツールに対する信頼性を高め、AIの回答に対して論理的な判断をする必要があることを理解してもらわなければならない。つまり、われわれ全員が日常業務で生成AIをどう活用するかを学ぶ必要がある」(グリフィン氏)

 Ernst&YoungやKPMG、PwCといった他の巨大会計事務所と同様に、Deloitte Touche Tohmatsuは新技術に数十億ドルを注ぎ込んでいる。生成AI関連の技術を含めて従業員の主要なスキル向上を目的としたトレーニングには14億ドルを投資している(注2)。

Deloitte Touche Tohmatsuが明かす「生成AI活用における人としての役割」

 一方で、グリフィン氏は「生成AIが完璧だとは思わない。セキュリティや公平性、プライバシー、責任に関する懸念がある」と指摘する。

 「生成AIを導入する際は、透明性が高く説明可能なフレームワークを用意することが重要だ。責任や公平性、プライバシーが守られるものでなければならない。計画を立てて管理や開発に考慮し、適切な情報が提供されているかどうかに対する確認方法も検討しなければならない」

 自社のシステムやプロセスに新興技術を導入するに当たって、Deloitte Touche Tohmatsuを含む四大会計事務所は「責任あるAI」の開発を最優先事項としている。KPMGは2023年9月、責任あるAIツールの開発に焦点を当てたAIデジタルイノベーショングループを設立すると発表したことは、「CFO Dive」が既に報じた(注3)。

 Ernst&Youngもまた倫理的なAIソリューションに重点を置き、自社で活用することを検討している(注4)。同社は2023年初めに、給与計算に関する質問への回答することを目的とした、社内向けのAIチャットbotを発表した。

 「責任あるAI」は、企業がデータの出所について透明性のある証跡を提供し、コンプライアンスだけでなくその他の責務を果たすのに役立つだけでない。会計・財務分野においてこれまで同様に人的な要素が重要であることを物語っている。

 「AIは人間を排除するものではなく、むしろ人間に力を貸す存在なのだ」と主張するグリフィン氏は、自社がどのように生成AIを取り入れているかを次のように語った。「生成AIによるアウトプットを評価したり、質問内容を踏まえた合理的な回答を生成AIが返すかどうかを判断したりする上で、人間は依然として非常に重要な存在となるだろう」

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