花王グループがSAP ConcurからSAPPHIREに移行した。採用企業の多いSAP Concurだが、その先行きは怪しいかもしれない。
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AI(人工知能)経費精算ソリューション「SAPPHIRE」を提供するMiletosは2023年12月20日、同ソリューションを花王グループが利用開始したと発表した。Miletosは明治安田生命が「SAPPHIRE for Enterprise」を導入したことも同日に発表している。
花王グループはSAPPHIREによって約3万2000時間、明治安田生命はSAPPHIRE for Enterpriseで5300時間の業務時間削減を実現した。本稿では「導入企業も多いSAP ConcurからなぜSAPPHIREに移行したのか」という視点で、花王ビジネスアソシエの上野 篤氏(ビジネスサービスセンター 会計サービスグループ部長)と、Miletosの高橋康文氏(代表取締役社長兼CEO)に取材した。
花王グループは従来、スクラッチで実現した“いたせりつくせり”のシステムを利用していたが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の流れもあり、2018年にSAP Concurの導入を決めた。約1年半という時間と多くの人員をシステム導入に費やしたが、思ったような効果を得られなかった。上野氏は当時について以下のように語る。
「2018〜2022年までSAP Concurを使いました。SAP Concurは、営業担当者が社内に戻らずに経費精算できたり、グローバルスタンダードであったりなど、革新的だったと思います。ただ『サービスの進化』『業務の効率化』なども期待していましたが、そのような変化はありませんでした。一方で課金を求められるケースは多くありました。AIなどの機能を利用できますが、常に課金を求められるので予算に合いません。SAPPHIREであれば、SAP Concurの利用料金と同じ程度でより多くのことを実現できます。また、SAP Concurと違いユーザー課金制なのもメリットです」
SAPPHIREは、クレジットカードの決済情報や移動情報からAIが自動で経費申請を行う。領収書などもスマートフォンなどで撮影すれば即座に経費申請が行われる。統一性のないデータでも正確に情報を読み取り経費精算データを作成するため、花王グループは年間約3万2000時間の経理業務を削減した。
花王グループは業務の中で国外、海外を問わず移動が多く、出張申請が経理申請の約9割を占めていた。近郊の交通費については、シフト情報や入退館データからAIが自動で申請を作成し、出張費についても出張管理システム手配データと実績データを組み合わせることで、AIが自動で経費申請を作成することが可能になった。
SAPPHIREは「入力レス」だけでなく、「承認レス」や「チェックレス」も実現する。これについて高橋氏は以下のように話す。
「SAPPHIREは各種データを基にAIが経費申請を作成します。その際、個社ごとの規定や出張予定データなどの各種データを活用することで、経費の正当性をAIが確保し、二重申請や規定違反の恐れのある申請についてアラートを表示します。AIがデータを基に経費の実在性や正当性をチェックするため、承認やチェックの廃止、簡略化を実現します」
SAP Concurでは導入までに約1年半かかったが、SAPPHIREでは半年で済んだ。花王グループは全社一括で導入したが、従業員83%がチャットbotのみの利用で経費精算プロセスを完了した。高橋氏によれば、チャットbotを導入せずに問い合わせに対応すると、その時間は年間約6000時間に達していたという。
上野氏はSAPPHIREの導入効果を確かなものだとしながらも「進化が無くなれば変える可能性はあります」と話す。このような発言の裏には「ユーザー側がサービスを作り出す未来が近い」という考えがある。
「時代の変化が激しくなっています。SAP Concurから乗り換えたのは、このような変化に同サービスが追い付いてこなかったためです。SAPPHIREだって5年後にどうなっているかは分かりません。というのも、今後はユーザー企業がAIなどを利用して、新たなソリューションを作れる時代になると思うからです。当然ですが、自社に詳しいのはベンダーではありません。ベンダーはこのような未来に備え、かなり努力する必要があるでしょう」(上野氏)
このような意見に対し、高橋氏は以下のように話す。
「このような意見は以前から頂いております。これは決して“脅し”ではなく、ありがたい“資産”です。経理システムなどは全社的に多くの従業員が日常的に使うシステムです。このようなシステムでAIを活用した効率化を実現し、その価値を広げていきたいと思っています」
上野氏は最後に「今後の経理部門の仕事は大きく変わります。AIを使えるようになるのはもちろん、自社の新たなシステムを外部に広げられるような取り組みをしなければなりません。時に『そんなことは花王だからできる』と指摘されることもありますが、そうではありません。自社でシステムを構築する未来が迫っています。ただ海外ベンダーに合わせて業務している日本企業はけなげだなと思います。システムに自社を合わせることは大切ですが、自分たちで新たな取り組みを推進し、それを発信する時代が来ています」と話し、取材を締めくくった。
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