「Dynamics 365」に生成AI「Copilot」機能追加へ フィールドサービス分野での価値は?

MicrosoftがERP「Dynamics 365」シリーズに「Microsoft Copilot」を追加する。フィールドサービス分野においては情報の容易かつ迅速な取得などのメリットをもたらす可能性がある。

» 2024年01月17日 08時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 Microsoftは2023年11月15日(現地時間)に開催した年次カンファレンス「Microsoft Ignite」で、同社のERP「Dynamics 365」に生成AI(人工知能)機能「Microsoft Copilot」を追加すると発表した。フィールドサービス分野向けの「Dynamics 365 Field Service」では、現場のサービス担当者や作業員が業務を遂行、完了するために必要な情報に素早くアクセスできるようにする。

 Microsoftによると、現場作業員は日々の業務遂行に必要な情報を見つけるのに苦労しているという。同社の年次レポート「Work Trend Index」の最新版では、この悩みを“業務に支障を及ぼす問題”のトップ5に挙げている。

 Dynamics 365 Field Serviceでは、2023年12月にパブリックプレビュー版をリリース後に一般公開を予定している。オペレーターやサービス技術者といった現場作業員は、「Microsoft Teams」のCopilotインタフェースから簡単な英語で質問することで、Dynamics 365アプリケーションから業務の進捗についての最新情報や部品の情報、作業指示などの情報を取得できる。

 Microsoft Igniteでは製造業務にMR(複合現実)と生成AIを適用する「Dynamics 365 Guides」のCopilot機能も発表されている。同社によると、現場のサービス技術者やオペレーターが簡単な英語でCopilotに質問すれば、ドキュメントに基づいてAIが関連情報を提供する。

 AIが提供する情報はトラブルシューティングなどを担当する技術者をサポートするもので、作業完了までの手順も指示できる。MRデバイス「Microsoft HoloLens 2」とも連携し、作業指示に映像を重ね合わせてガイドすることも可能だ。

 Dynamics 365 GuidesのCopilot機能は、2023年11月時点でMicrosoft HoloLens 2でプライベートプレビューの段階にある。

フィールドサービスで生成AIを活用する意義

 「生成AIはフィールドサービス向け機能として理にかなっている」と語るのは、米IDCでリサーチ部門を担当するバイスプレジデントのアリー・ピンダー氏だ。フィールドサービス分野は従業員の退職や外部委託の増加といった傾向に悩まされている。

 「Copilotのような生成AIツールは、勤続年数や機器の操作経験が少ない人でも、現場作業の専門知識を素早く身に付けるのに役立つ。これはこの市場での差別化要因になるだろう」(ピンダー氏)

 例えば、フィールドサービス管理においては熟練技術者不足に苦しんでおり、企業は外部委託やギグワーカーに頼らざるを得なくなっていると同氏は語る。技術者がこれまでに見たこともない機器で作業する際に、生成AIで生成した知識や技能の情報を取得できることは企業にとって有益だろう。

 「現場の最前線では必要に応じて、修理する対象や自身の能力などに合わせてカスタマイズされたすぐに使える知識が必要だ」とピンダー氏は述べる。

 ピンダー氏は、複数のベンダーが製品に生成AIを導入しようとしている中で、CopilotをDynamics 365に導入するというMicrosoft の挑戦はアドバンテージになるとしている。ただし、同社はすでに既存のアプリケーションスイートとDynamics 365プラットフォームの統合性も利点として持っている。

 「Microsoftは、単に個々のユースケースを解決するのではなく、企業のデータフロー全体でユーザーの課題を解決することで、生成AI機能をより大きな視点から位置付ける必要がある」(ピンダー氏)

 今後、Copilot機能の適用が進むことを考えれば、Dynamics 365ユーザーにとってDynamics 365 Field Serviceの機能はさらに魅力的になるだろうと同氏は語る。

 「Copilotが適用されればDynamics 365の導入は加速するだろう。そして、既にDynamics 365を使用しているユーザーも、自身のMicrosoft環境におけるユースケースにぴったりはまると実感するだろう」(ピンダー氏)

 一方、Dynamics 365のCopilotは、他のベンダーが現在導入している機能とそれほど変わらないように見えると話すのは、カナダのTechnology Evaluation Centers(TEC)のアナリストであるプレドラグ・ヤコブリェビッチ氏だ。例えば、Salesforceも同社の全アプリケーションに生成AIアシスタントを適用している。

 だがフィールドサービス管理の分野も、営業やカスタマーサポートなどの分野と同様、生成AIのユースケースとして優れているという。

 「生成AIは特に、現場技術者が作業完了時や出勤前にレポートを作成するのに役立つ。例えば、自然言語を使って大規模言語モデル(LLM)に問い合わせれば、顧客履歴や機材の修理履歴を取得できる」(ヤコブリェビッチ氏)

 フィールドサービス分野では、将来の機材修理に関するドキュメントを作成するのにも生成AIが役立つだろうと同氏は補足する。

 現在、Dynamics 365の他にもIFSやSalesforceなどのフィールドサービス向け機能を持つアプリケーションの多くは生成AI機能を搭載している。ヤコブリェビッチ氏は「これらのアプリケーションの多くにMicrosoftの技術が広く利用されていることから特に優位性がある」と話している。

 「今はまだMicrosoftと同等ではないとしても、間もなく全ての企業が追い付いてくるだろう」(ヤコブリェビッチ氏)

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