「ERP導入失敗あるある」スコープクリークを起こすプロジェクトの特徴リーダーが取るべき対策 7カ条

導入プロジェクト立ち上げ当初のスコープを越えて要件が肥大化してしまう「スコープクリープ」は、ERPの実装に深刻な問題をもたらす可能性がある。本稿ではスコープクリープが起こる理由と、具体的な防止策を紹介する。

» 2024年01月25日 08時30分 公開
[Eric St-JeanTechTarget]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 プロジェクトリーダーは、予算超過や、実装チーム主要メンバー脱退、スケジュールのリスクなど、ERPの実装時に起きる可能性のあるさまざまなリスクを防止しなくてはならない。中でも大きなリスクの一つがスコープクリープだ。スコープクリープは、チームメンバーに過剰な役割を負担させることで起き、ERPの実装に悪影響を及ぼす可能性がある。

 スコープクリープが起きると、出費がかさみ、納期に間に合わない可能性が生じる。さらには、承認済み要件を満たしていない最終製品を納品することになるかもしれない。プロジェクトリーダーは、スコープクリープによって実装の失敗を招くことがないよう、要件の検証や重要な機能の確認といった予防策を講じなければならない。

スコープクリープはなぜ起こるのか 防ぐためのプロジェクトリーダー心得7か条

 スコープクリープは、プロジェクトのスコープ(範囲)を決定、承認した後に、実装チームのメンバーが実装プロジェクトに機能を追加する時に発生する。

 ERPの実装においては、構成済み機能の概要がまとめられた「承認済み要件のリスト」があるのが一般的だ。スコープクリープが発生しがちなのは、そのリストとは関係なく、実装チームのメンバーが最終製品をブラッシュアップするアイデアを思い付く時や新機能を実装したいと考える時だ。

 スコープクリープは、出費の増加、プロジェクトのリスク拡大、スケジュールの遅れを招くことが多い。

 実装の進み具合やプロジェクト開始後に判明する情報によっては、やむを得ないスコープクリープもあるかもしれない。だが、プロジェクトリーダーは実装が確実に進むように追加のプロジェクトスコープをコントロールしなければならない。

どうすればスコープクリープを防げるのか

 実装プロジェクトのリーダーがスコープクリープを防ぐ対策はたくさんある。ここからはその例を紹介する。

1. 実装前に要件を検証する

 プロジェクトリーダーは、主要関係者に承認前の要件をレビューするよう要請する。さらに、承認済み要件のリストが全てのニーズを満たしていることを確認する。

 また、これまでの経験から何らかの抜けに気付いてくれそうな実装パートナーにも要件のレビューを依頼する。

2. 「新機能を追加するプロセス」を定める

 新機能を追加するプロセスとして、フォームを用意して関連するデータを全て取得するようにする。

 実装チームは新機能を正式にレビューする前に中間ステップを設け、詳細分析を実施して新機能の実装にかかる手間を見積もる。中間ステップには時間も労力も必要になるため、現在の実装で検討している機能に限定して実施するようにしておく。

 次に、実装チームは追加要求をレビューして、追加機能の重要性や追加コスト、スケジュールへの影響、プロジェクトに加わるリスクを評価する。

 チームメンバーは、「追加機能を実装しないリスク」と「ERP実装の途中で機能を追加するリスク」について検証する必要がある。

 さらに、チームメンバーは、他の重要性の低い機能を先送りにするなど、リスクを減らせる要素について検討することもできるだろう。

3. 明確なスケジュールを立てる

 プロジェクトリーダーは、プロジェクトの明確なスケジュールを立て、スコープを追加する問題点について実装チームメンバーに理解を促す。

 スケジュールによって今後の作業を把握しやすくなれば、新機能の追加が主要マイルストーンに悪影響を及ぼす可能性があることが分かりやすくなる。

4. オープンなコミュニケーションを確立する

 プロジェクトリーダーは、実装チームが常に連絡を取り合えるようにする。これは、チームメンバーが新機能の候補について適任者と話し合い、新機能の候補を適任のメンバーが評価するのに役立つ。

 また、プロジェクトリーダーは、プロジェクトのスケジュールと全体的な進捗(しんちょく)状況についてチーム内で定期的かつオープンなコミュニケーションを取れるようにする必要がある。そうすれば、チームメンバーが承認なしに新機能を実装するのを防ぐことができる。

5. 優先順位について頻繁に話し合う

 企業は、通常、経営幹部がERPシステムを戦略的優先事項として決めることで、ERPの実装に着手する。判断理由としては、業務プロセスの効率向上やコスト削減、レポーティング機能の強化などがある。

 実装チームのメンバーは「新しいERPシステムが自社にとって重要な理由」を頻繁に話し合うことで、実装の理由を全員の間で明確にする必要がある。そうすれば、新しい要件が出現しても優先順位を付けられ、重要な変更のみが要件リストに追加されるようになる。

6. 「新しい要件」の候補は確保しておく

 大規模なERP実装は複数のフェーズに分けて行われることが多い。そのため、プロジェクトリーダーは、実装プロジェクト開始後にメンバーから挙げられる提案を全て却下するのではなく、未承認の新しい要件を今後のフェーズのために確保しておく。そうすれば、リーダーは新しい要件を見失うことがなくなり、将来フェーズの計画を、初期段階から具体的な要件を念頭に開始できる。

 機能要件が肥大化しないようにコントロールすることは確かに重要だ。だが、プロジェクトリーダーはそればかりに気を取られず、自社の長期的なERPシステム機能を全体的に改善するために妥当な懸案事項と機能強化を見逃さないような配慮が必要だ。

7. スケジュールに余裕を持たせる

 プロジェクトチームは、要件のレビューと承認を行ったとしても、プロジェクト中に機能を実装しなければならない場合がある。プロジェクトリーダーはスケジュールに余裕を持たせておき、予期せぬニーズに対応できるようにする。

 リーダーは、プロジェクトの初期段階で時間的なバッファを使い切ってしまわないよう注意深く管理しなければならない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ