Amazonの「王手」を阻止できるか 業界大手が繰り出した起死回生の一手Supply Chain Dive

「輸送会社化」を進めるAmazon。ついに最大手企業との首位争いが現実味を帯びてきた。デジタルを駆使して商品受注から配送、返品対応までの業務を最適化してきたAmazonに対抗するためのデジタル戦略とは。

» 2024年03月08日 08時00分 公開
[Max GarlandSupply Chain Dive]

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Supply Chain Dive

 近年、Amazonは消費者からの受注から出荷、配送、返品対応までの業務をこなすフルフィルメントセンターの拡大をはじめとする、自社配送の拡充を進めてきた。同社のECサイトに出店する企業のフルフィルメント業務代行を手がけ、各工程における自動化施策に取り組むAmazonの「輸送会社化」は進むばかりだ。

 その結果、運送業界の勢力図が揺さぶられている。「王者」は、現状打開のために新たなデジタル戦略に乗り出した。

「最大の顧客」から「最悪のライバル」へ? 打開のためのデジタル戦略

 運送会社大手United Parcel Service(以下UPS)のキャロル・トメ氏(CEO)が2024年1月30日(現地時間)に開催した決算説明会で発表したところによると、さまざまな要因が重なったことで2023年末に主要顧客の取引量が減少し、2023年第4四半期は厳しい結果になったという(注1)。

 取引量が減少した上位5社には、UPSの最大顧客であるAmazonも含まれている。

 AmazonはUPSと合意した配送量削減の方針に沿って、UPSの配送サービスの利用を減らし続けている(注2)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック以降、Amazonが独自のロジスティクス能力を拡大する一方で、UPSはeコマース以外のより収益性の高い分野での成長を優先している。

 UPSの別の大口顧客は、より多くの荷物の配送をUPS以外の運送会社に依頼するようになった。「残り3社は、顧客がオンライン注文した商品を店舗で受け取れる取り組みを強化したか、単なる業績不振によって配送量が減少した」(トメ氏)

 こうしたUPSの大口顧客の配送量減少は、2024年まで続く恐れがある。

 Amazonは十分な配送能力を有しており、UPSと競合する可能性もある(注3)。トメ氏は「ある匿名の事業者は、UPSと他の配送業者を同時に利用する『デュアルソーシング』を続けるだろう」と推測する。また、ディスカウント小売チェーンのTargetや家電量販店のBest Buyのような低価格販売を売りにしている小売業者は、配送コストを削減するためにオンラインで販売し、ユーザーが店舗で受け取るという取り組みを拡大し続けている(注4)(注5)。

 UPSは中小企業やヘルスケアメーカーの取り引きを増やすことで、大口顧客の取扱量の減少分を補うことができる。同社は中小企業やヘルスケアメーカーを長期にわたって優先してきた(注6)。

 2023年のUPSの米国における総輸送量に占める中小企業の割合は、前年の28%から28.6%に増加した。UPSはこの数字を30%以上に伸ばしたいとブライアン・ニューマン氏(エクゼクティブバイスプレジデント兼CFO《最高財務責任者》)は語った。

 トメ氏は、UPSが小口荷主からの取扱量のシェアを拡大しようとしている理由を幾つか指摘した。

 UPSは最近、同社が提供する契約プラットフォーム「Deal Manager」で、軽量で緊急性の低い一般消費者向けの配送サービス「SurePost」を選べるようにしたとトメ氏は述べた。DealManagerは、ML(機械学習)を含むAI(人工知能)による価格提示によって、中小企業との輸送取引を迅速に成立させることを目的としている(注7)。

 「Deal ManagerにSurePostを導入したことで、当社は一定の利益を得られるようになった。これは特に中小企業の顧客にとって魅力的なものだ」(トメ氏)

 UPSはまた「The UPS Digital Access Program」(DAP)から前年比22%増の収益を上げた。DAPを通じてUPSは大手eコマース企業と提携し、注文管理や配送、商品の追跡などをワンストップで提供する他、配送料の割引サービスも実施している(注8)。「このプラットフォームは小規模企業がUPSとビジネスを行う方法を変革した」(トメ氏)

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