ERPのアップグレードを成功させるための8つのヒント

ERPのアップグレードは、コア業務を中断させ、ビジネスの継続に影響を与えるリスクがある。ERPのアップグレードを成功させるたの8つのヒントを紹介する。

» 2024年04月12日 07時00分 公開
[TechTarget]

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 ERPは、新たなビジネスを実現し、従業員体験を大幅に向上させ、事業の効率を高める手段の一つだ。しかし、ERPのアップグレードは、コア業務を中断させ、ビジネスの継続に影響を与えるリスクがある。

 ERPのアップグレードでは、十分な情報に基づいた意思決定と綿密なプロジェクト計画が求められる。本稿では、ERPのアップグレードを成功させるため8つのヒントを紹介する。

ERPをアップグレードすべき理由

 企業は、ERPを導入してから5〜10年が経過し、パフォーマンスや信頼性に問題が生じ始めたときにアップグレードをする傾向がある。アップグレードをDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むタイミングに合わせたり、ERPベンダーが顧客にアップグレード期限を設定したりしている場合もある。

 ERPコンサルタントは、アップグレードすべき理由は他にもあると述べた。

より近代的なERPへのアクセス

 テクノロジーはリリース後すぐに時代遅れになる。米国フロリダ州立大学ジャクソンビル校のビジネススクールの教授でサプライチェーンの専門家でもあるジャスティン・バテ氏は「システムがレガシーなテクノロジーで動いていると、企業は競争力を維持するのに役立つデータやインサイトを見逃す可能性がある」と言う。

従業員の再教育を最小限にする

 アップグレードであれば、別のERPに移行した場合と比べてユーザートレーニングが少なくなる。

ベンダーのサポート

 Third Stage Consulting Groupの創設者兼最高経営責任者(CEO)のエリック・キンバーリング氏は、「ソフトウェアベンダーは、ある時点で古いERPのサポートや研究開発への投資を停止するため、アップグレードが大幅に遅れることは望ましくない」と述べた。

アップグレードとリプレースの比較

 ERPの投資収益率や所有コストに不満がある場合、ゼロから作り直すことを検討した方がよいかもしれない。キンバーリング氏は、「最新バージョンへのアップグレードがオンプレミスからクラウドへの移行を伴う場合は作り直すべきだ」と言う。

 「多くの場合、この種のアップグレードはソフトウェアの完全な書き換えであり、現在使用しているERPとは全く異なるものになる。ほぼ作り直すことと同義で、たまたま同じベンダーのERPを利用しているようなものだ」(キンバーリング氏)

 一般的に、オンプレミスのERPから同じベンダーのクラウドのERPに移行する場合、同じERPベンダーのサービスを利用する幾つかの利点を失うとキンバーリング氏は言う。

 「SaaS ERPのような新しいクラウドプラットフォームを使いこなせず、リプレースを検討するかもしれない。新しいソフトウェアには欠陥があり、使いこなせない可能性がある」(キンバーリング氏)

ERPアップグレード成功のための8つのヒント

 ERPのようなミッション・クリティカルなシステムのアップグレードは、相当な準備とノウハウを必要とする。専門家は目標を達成するための8つのヒントを提示した。

1.経営幹部の賛同を得る

 CEOやCFOなどの経営幹部は、ERPをアップグレードすることによる価値を理解し、支持する必要がある。また一般的に、経営幹部は契約締結の最終決定権を持つため説得が必要だ。

2.ペインポイントの特定とベンチマークの設定

 アップグレードを決定する前に、企業はERPのボトルネックやその他のトラブルスポットを判断する必要がある。具体的には「決算」や「データ統合の不備」「ユーザー導入率の低さ」などだ。このプロセスでは通常、問題を定量化するためにベンチマークデータを収集する必要がある。

3.実務部門のユーザーを巻き込む

 「ERPのアップグレードを計画するための最も重要なアドバイスは、初日から実務部門のユーザーをプロセスに参加させることだ」とバテ氏は語る。

 多くの場合、企業は新システムを導入することで、長年のビジネスプロセスや慣行が自動で新システムに適応することを期待する。しかし、それはうまくいかない可能性が高い。

 また、ERPのアップグレードによって影響を受けるプロセスを特定して理解し、文書化する必要がある。従業員が作成する日々のレポートなどだ。

 「日々の些細なタスクも考慮すべきで、これは全レベルの従業員を巻き込むことによって把握できる」(バテ氏)

4.ギャップを特定する

 キンバーリング氏によれば、どのようなシステムにも不完全な部分が存在する。

 「解決策は、サードパーティーのシステムでその部分に対応するか、ニーズに合わせてソフトウェアをカスタマイズするか、ソフトウェアに合わせて無理に業務を変更するかになる」(キンバーリング氏)

 解決策が何であれ、事前にギャップを特定し、対応にかかる時間やコストなどを把握する必要がある。

5.現実的な導入計画を立てる

 「ERPアップグレードプロジェクトの本質を理解し、ITインフラのアップグレードプロジェクトほど単純ではないことを知っておく必要がある」とキンバーリング氏は言う。

 現実的な導入計画を立てるため、ソフトウェアベンダーの提案を整理する必要がある。「現実がどのようなものであるのか仮説を立て、ERPがニーズを最も満たすものになるように計画を調整する必要がある」(キンバーリング氏)

6.データマッピングを期待する

 「一般的にデータマッピングは、ベンダーやシステムインテグレーターよりも導入企業の負担が大きい」とキンバーリング氏は言う。

 「多くの場合、ベンダーは『新しいシステムのテーブルは次のとおりです。古いデータをどのようにマッピングするのかを考える必要がある』『新しいシステムへのマッピングは手伝うが、古いデータのクリーンアップは手伝わない』と言う。ベンダーは旧システムのデータではなく、新システムのデータに重点を置いているためだ」(キンバーリング氏)

7.スコープクリープの管理

 バテ氏によると、スコープクリープ(要件の追加)によって、開発、実装中にビジネス要件が変更された場合、100万ドルのコストが簡単に200万ドルに達する可能性がある。

 要件の合意に問題がないことを確認し、変更リクエストを許可する数や、誰が変更できるのか、変更リクエストがプロジェクトの実装コストや納期にどのような影響を与えるのかなど、変更リクエストを処理するための計画を立てる必要がある。

 「スコープクリープが発生し、ERPの導入が数カ月から数年遅れ、未完成のままになってしまうことはよくある」(バテ氏)

8.ユーザーの教育と訓練

 「ユーザーの教育はトレーニングとは異なる」とLMA Consulting Groupの社長リサ・アンダーソン氏は言う。

 アンダーソン氏は、「特定の機能の使用方法について従業員をトレーニングすることはもちろん必要だ。それより重要なのは、なぜ新しいERPを利用する必要があるのかについて教育することだ」と述べた。

 ERPをアップグレードする背景と、それがパフォーマンスやビジネス目標の達成にどう影響するのかを、従業員が理解できるよう支援することが重要だとアンダーソン氏は語った。

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