人事部門はなぜ生成AI導入をためらう? 背景と導入のヒントを紹介

生成AI活用が話題になる中、導入に消極的な部門も存在する。その一つが人事部門だ。人事部門が生成AI導入をためらう背景と、活用のヒントを紹介する。

» 2024年06月10日 07時00分 公開
[Patrick ThibodeauTechTarget]

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 2024年3月11日(現地時間)の週、コンサルティング企業であるThe Hackett Groupは「生成AIが40%のコスト削減をもたらす可能性がある」という調査結果を発表した。調査の対象企業のうち半数以上が少なくとも1万人以上の従業員を抱えていた。

 生成AI活用が話題になる中、導入に消極的な部門も存在する。その一つが人事部門だ。人事部門の生成AI導入の障壁と、活用のヒントを紹介する。

人事部門が生成AI活用をためらう背景

 The Hackett Groupのトニー・ディロムアルド氏(シニアリサーチディレクター)は「生成AIによる人事業務や人材配置への影響はまだ観測されていない。人事組織の大半は、生成AIを様子見しているか、限定的に試験運用している状態だ」と述べた。

 Oracleも「一部のユーザーは生成AIの導入により積極的になる必要がある」としている。Oracleは最初の生成AIツールを2023年の第4四半期にリリースし、2024年の第1四半期にも別のセットをリリースした。

 採用担当者は履歴書の選別のためにAIを活用してきたが、Oracleはこれを一歩進め、求職者にどういった職務が合っているを把握するための支援をしている。

 「Oracle Cloud HCM」のグローバル製品戦略担当でありシニアバイスプレジデントのイベット・キャメロン氏は「私たちは求職者のより良い選択のために、職種の判断を求職者に委ねる」と述べた。同氏は、求職者が求人情報を探索する際、特定の職務に自分自身がマッチするかどうかを理解するのにAIが役立つと説明した。

 またOracleは、求職者になぜ職種が推奨されたのかを明らかにするための「AIフィードバック機能」を提供している。キャメロン氏は「私たちはAIをブラックボックス化したくない」と述べた。

 一方でキャメロン氏は、「幾つかの企業が生成AIを活用したサービスを導入しない可能性がある」と認めた。これは、何年も前からAIが利用可能であるにもかかわらず導入していない企業が存在していることと同じ現象だ。同氏は「生成AI技術の導入は、各顧客の業務の快適度や、州および連邦の法律の解釈に依存する」と強調した。実際、米国雇用機会均等委員会(EEOC)は「自動化された意思決定システムによる差別の兆候を監視している」と表明した。

人事部門で生成AI活用を進めるには

 調査企業であるNucleus Researchのエブリン・マクマレン氏(アナリスト)は、「EEOCのコンプライアンス違反や不正確な情報にユーザーが不安を抱く可能性がある」と述べ、特に外部組織や候補者とやりとりするシステムに懸念を示した。

 マクマレン氏は「ためらいを和らげ、導入を促進するためにガードレールを設置する必要がある」と提案する。例えば、候補者が採用可否の結果を雇用主に問い合わせたり、AIが使用されていることを認識した上で、自動評価に参加するかどうかを選択できたりすることだ。

 求人検索における生成AI活用以外に、応募者が会話形式で一般的な質問に対する回答を得たり、職種固有の要件を理解したりするのを支援する候補者アシスタントが存在する。また、従業員のフィードバックを迅速に得るためのアンケート作成ツールなど、マネジャー向けのツールもある。

 Oracleは2023年の第4四半期に生成AIのアプリケーションへの組み込みを開始したばかりで、生産性に与える影響を把握するには時期尚早だ。そういった中で同社は「顧客の生産性が大幅に向上すること期待している」と述べた。

 ディロムアルド氏は「生成AIによって人事組織がより少ない人員でより多くの仕事をできるというのは可能性の一つにすぎない」と述べた。同氏によると人事は、従業員や経営陣へのアドバイスや従業員のエンゲージメント、生産性、福利厚生プログラムの強化などで生成AIを拡大できるという。

 しかし、The Hackett Groupが予測したように、人事部門の仕事量が増える一方で人員と予算が減少するなら、人事部門のマネジャーは生成AIツールを試すことを諦めるかもしれない。

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