「HUE」がMicrosoft Copilotと連携 “現場の負荷を軽減する”新機能の全貌を聞いた

ワークスアプリケーションズは2024年7月8日、同社が提供しているERP「HUE」とMicrosoftが提供しているAIアシスタント「Microsoft Copilot」の連携による新機能を、同年7月に開始したと発表した。

» 2024年07月10日 07時00分 公開
[大島広嵩ITmedia]

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 ワークスアプリケーションズは2024年7月8日、同社が提供しているERP「HUE」とMicrosoftが提供しているAIアシスタント「Microsoft Copilot」(以下、Copilot)の連携による新機能を、同年7月に開始したと発表した。

ワークスアプリケーションズ 外村卓也氏

 ワークスアプリケーションズは「AIは経営者の意思決定を助ける」といった視点よりも、「現場に密着した生成AIの提供」を重視しているという。同社の外村卓也氏(プロダクトマネジメント本部 本部長)への取材から、新機能の詳細や設計思想、今後の展望が分かる。

国内初、国産ERPとCopilotの連携

 最初に外村氏は、「弊社の調査によれば、国産ERPとCopilotの連携は他に例がなく、また、外資系ERPでも会計領域におけるAIアシスタントの連携は珍しいことです。今回の発表は先駆的な取り組みだと言えます」と連携における特徴を語った。

 ワークスアプリケーションズは2017年、徳島県に「徳島人工知能NLP研究所」を設立し、日本語に特化したNLP(自然言語処理)の研究を続けてきた。英語は単語ごとにスペースが入るため、単語の切れ目が分かりやすい。しかし、日本語はどこで単語が切れるかが分からず、切れ目によって文章の意味が変わるため、機械が正しく意味を理解するのが難しい。そこで同社は、日本語のNLPの独自研究を続けてきた。

 外村氏は「LLM(大規模言語モデル)の登場によってNLPの研究が無駄になったわけではなく、NLPとLLMを組み合わせて処理することで、機械がより精度高く人間の言葉を理解できるようになった」と語り、NLPの研究が今回のCopilotとの連携につながったとしている。

2つの新機能は業務をどう変える

 本発表では2つの連携機能が公開された。1つ目は「『HUE』×『Microsoft Copilot for Microsoft 365』」で、2つ目は「『HUE』×『Microsoft Copilot Studio』」だ。

「HUE」×「Microsoft Copilot for Microsoft 365」

 「HUE」×「Microsoft Copilot for Microsoft 365」は、Microsoft 365 CopilotからHUEに自然言語でアクセスするための機能だ。HUEとMicrosoft 365 Copilotの両方を導入していれば、特別な設定をせずに利用できる。

 「ユーザーは例えば、『支払い依頼日が今月のものを検索して、結果をテーブル形式で表示してください。テーブルの列は支払い期日の近い順に並べ替えて、アダプティブカードのリンクも表示してください』といった細かい指示をできます。これによって、CopilotはHUEのデータを基にリストを作成します」(外村氏)

 詳細情報を確認したい場合は、アダプティブカードを使ってHUEの情報を表示し、その場でHUEの画面を開くことも可能だ。外村氏は「わざわざHUEにアクセスする手間が省ける」と語る。

 新しい機能によってHUEの画面が新しくなるわけではない。Copilotや「Microsoft Teams」(以下、Teams)、「Microsoft Outlook」などのMicrosoft 365のアプリケーションから直接連携する形になる。

Teamsで支払依頼書を表形式にまとめる事例と操作例(出典:ワークスアプリケーションズのプレスリリース)

「HUE」×「Microsoft Copilot Studio」

 もう1つは「HUE」×「Microsoft Copilot Studio」だ。ユーザーは「Microsoft Copilot Studio」(以下、Copilot Studio)を通じてHUEのデータにアクセスできるようになる。

 「Copilot Studioは、お客さまが独自にCopilotをチューニングしたり、作成したりできる製品です。これによって、ERPのデータを活用してカスタマイズされた回答を生成できます」(外村氏)

Microsoft Copilot Studio で設定した与信確認のフロー例(出典:ワークスアプリケーションズのプレスリリース)

 取引先と取引を開始する際、社内で確認するプロセスを例に挙げる。

1.新しい取引先と取引するかどうかを確認する

2.HUEのデータベースで過去に取引があったかどうかをチェックする

3.取引がなかった場合は、「Microsoft OneDrive」や「Microsoft SharePoint」に保存された外部の調査ファイルや与信情報を確認する

4.Teamsの履歴でその会社名に関するやりとりがあれば、関連する会話をチェックし、取引先に関する情報を集める

 「『HUE』×『Microsoft Copilot for Microsoft 365』は弊社が標準で提供する機能であり、『HUE』×『Microsoft Copilot Studio』は自社向けにカスタマイズされたCopilotで、ERPデータを活用するものです」(外村氏)

 実際にどのような動作をするのかといったデモンストレーションは、2024年7月18〜19日に開催を予定する同社年次イベント「WorksWay 2024」(オンライン開催)で確認できる。

経営層ではなく実務担当者のための生成AI機能

 海外製のERPなどでも生成AIを活用した機能の実装が進んでいる。国産ベンダーとして海外ベンダーとどのように差別化を進めるのかは気になるところだ。外村氏は、「外資系の製品と比べて、日本の商習慣にどれだけフィットしたCopilotを提供できるか」を特に重視していると語り、以下のように続けた。

 「まず、弊社のERP、HUEのデータは『ノーカスタマイズ』(カスタマイズなしで利用できること)をコンセプトに作られ、幅広いデータが標準化されています。HUEを利用するお客さまは、テーブルをカスタマイズせず、全てのユーザーが(どのような形式の入力であっても)同じ形でデータベースにデータを投入できる設計です。また、ERPでカバーできない業務が生じないように、幅広く業務機能を提供してきたため、多くの必要な情報をシステムに収められます」

 経営側がERPのデータを基に迅速な意思決定をするため、実作業者には正確な情報をスムーズに入力することが求められる。しかし、定型的なデータしか受け付けないERPの場合は、異なる形式のデータをインプットする負荷が上がる一方で、現場での使いやすさは重視されない傾向があった。

 「経営層にAIを活用させようと機能強化に取り組むERPベンダーが多い傾向がありますが、われわれは実作業者側にAIを配置したいと考えました。現場の方がデータを入力することで、そのデータが自分たちの業務に還元されるという仕組みです。そのため、(Microsoft 365の中でも特に多くのユーザーが利用する)Teamsで簡単にデータを取り出したり加工したりすることで、システムにデータを入力するメリットを感じられる機会を増します。Copilot Studioによって、自分の代わりに働くアシスタントを作成することも可能です」

 データ入力のモチベーションが高まれば、経営層が求めるデータがリアルタイムで集まるようになる。入力が最小限に抑えられると、経営に届く情報はリアルタイム性を欠いてしまう。

 「現場の実作業者が積極的にERPデータを活用する状況を作ることが重要です。これによって現場で起こっていることが直接経営に反映され、経営層は経営リソースをリアルタイムで把握できるようになります。現場のオペレーションにこだわることが、最終的に経営のリアルタイムな洞察につながるのです」(外村氏)

 他にも、Microsoftとの連携の価値として、Microsoftが提供するデータ管理ソリューション「Microsoft Fabric」を利用できる点が挙げられた。これによって、ERP以外のデータも統合して管理・活用できるようになり、社内のあらゆるデータが使いやすくなり、データの可視化も進むという。

 「他社が提供している『AIは経営者の意思決定を助ける』という視点よりも、現場に密着したCopilotの提供を重視しています。この方が『真の意味でAIが経営を変革する』といえると考え、Microsoftと共感し合いながら、将来のビジョンを描いています」(外村氏)

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