Oracle NetSuiteの旗艦イベント「SuiteConnect Tokyo 2024」が東京で開催され、アジア初開催となった。同社創業者のエバン・ゴールドバーグ氏をはじめとしたOracle本社の幹部が来日、NetSuiteの最新機能と日本企業の活用事例を紹介した。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
「Oracle NetSuite」(以下、NetSuite)の旗艦イベント「SuiteConnect Tokyo 2024」が2024年7月17日に東京で開催され、同社創業者のエバン・ゴールドバーグ氏をはじめとしたOracle本社の幹部が来日、NetSuiteの最新機能と日本企業の活用事例を紹介した。
今回がアジア初開催となった本イベントの基調講演は、2023年に日本オラクルの渋谷由貴氏(バイスプレジデント NetSuite事業統括 日本代表 カントリーマネジャー)がホスト役を務めて進行した。
最初に登壇したのは、Oracleの日本アジア地区でゼネラルマネジャーを務めるギャレット・イルグ氏(エグゼクティブバイスプレジデント)だ。同氏はNetSuiteの強みを説明した。
Oracleは今後10年間で日本のデータセンター強化などに80億ドル以上の投資をすると明言している。それを踏まえ、イルグ氏はNetSuiteが日本においてサードパーティーのクラウドベンダーに依存することなく、Oracleが運営するクラウド基盤である「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)上で動くメリットを解説した。
「NetSuiteは、東京・大阪の2カ所で稼働するOCIが提供するセキュアなクラウドの上で稼働している。AIなどOracleの最新のテクノロジーを、安全かつ低コストで利用できる点が大きな強みだ。またNetSuiteとして、日本語のサポートもさらに充実させる。そうした施策で日本のNetSuiteの顧客がビジネスをより俊敏に進める手助けをする。NetSuiteは今後も、オラクルとの連携で中堅企業の成長を支えるビジネスアプリケーションを提供していく」(イルグ氏)
代わって、NetSuite創業者であるエバン・ゴールドバーグ氏(オラクルエグゼクティブ バイスプレジデント)が登壇し、NetSuiteのクラウドERPとしての歴史と、最新の機能を紹介した。
ゴールドバーグ氏はまず、「25年前にラリー・エリソンと私が始めたNetSuiteのビジネスは、クラウドの成長と共にこれまで数多くのイノベーションを遂げてきた。現在、世界中のNetSuiteユーザー企業は、オラクルの第2世代のクラウド基盤の上で、同じバージョンの製品を利用している」と、クラウドERPとしての実績を説明する。日本でも2006年からビジネスを開始しており18年を数える。
「NetSuiteはグローバルな共通基盤を持ちながら、ローカルに根付くことを目指している。この取り組みは日本市場への適用からから始まった。今では、NetSuiteのOne Worldソリューションとして27言語、190通貨をサポートしている」(ゴールドバーグ氏)
One Worldソリューションによって、海外に拠点を展開する日本企業は、現地の通貨や税法に対応し、俊敏に事業を開始できる環境を得られる。そして事業展開後は、国内外も一つのダッシュボードで、リアルタイムな財務の管理と事業の可視化を実現する。
「あらゆる業界のグローバル企業が、世界の市場でコンプライアンスを守ってビジネスを進めるための環境を提供する。すでにNetSuiteのユーザー企業は世界3万8000社を数え、それらの企業は219の国や地域で、32万4000の子会社を管理している」と、ゴールドバーグ氏はグローバルビジネスのためのERPとしてのNetSuiteの優位性を説明する。
日本市場に特化した機能追加も進められている。ゴールドバーグ氏は、日本の法令や商慣習に合わせて、手形や試算表の作成、消費税の適格請求書の保存などの機能を新たに加えたことを紹介した。
続いて、ポケトークの松田憲幸氏(代表取締役会長兼CEO)が登壇し、ゴールドバーグ氏と対談した。松田氏はソースネクストの創業者、現会長であり、子会社であるポケトークのCEOを務めている。
松田氏は、米国シリコンバレーで新たなサービスを探す中でポケトークに出会う。これは必ずヒットすると確信し、米国に移住して市場導入を進めた。2017年に発売を開始したデジタル翻訳機のポケトークはバージョンアップを重ね、日本と米国の市場で成長を続けている。ポケトークは2022年には別会社として独立。創業以来、基幹システムにNetSuiteを利用している。
「ポケトークは日本人向けのサービスとして開発してきたため、2020年からのコロナ禍で旅行者が激減したことによって、需要が大きく落ち込んだ。大きなピンチだったが、そのとき、このデバイスは米国市場にもニーズがあるということが分かった。米国は移民の国だが、基本的に米国人は英語という単一言語しか話さない。そのため、多言語の通訳機は必要だと思い、多言語に対応する機能強化に乗り出した。今では米国市場の収益が日本を超えている」(松田氏)
ピンチをチャンスに変えたポケトークは、2025年に株式上場を計画している。松田氏は「今後は日本、米国だけでなく欧州にも進出したいと考えている。挑戦を続け、ビジネスを成長させるには、NetSuiteのような拡張性のある業務システムが不可欠だ」と語った。
ポケトークの親会社であるソースネクストは、世界中から優れたソフトウェアやデジタルツールを発掘し、日本で販売してきた。ポケトークがNetSuiteのユーザーであることが縁で、同社の顧客向けにNetSuiteの販売代理店を務めることになった。
次に登壇したOracle NetSuiteのブライアン・チェス氏(シニアバイスプレジデント)は、NetSuiteのAI活用について説明した。チェス氏は、「AIによる進化はすさまじく、NetSuiteの全ての機能もAIによって間違いなく進化する」と語り、「AI Everyware」という考え方を掲げた。
しかしチェス氏は、NetSuiteのAIによる進化は、単にNetSuiteの全ての画面にAIチャットbotのボタンを付けるようなことではないという。
「NetSuiteの上にAIを付けるのではなく、内部の本質的な部分でAIを組み込んでいきたいと考えている。NetSuiteが提供するAIの機能は2種類ある。まず、アドバイスを提供する機能で、データを深く分析し、洞察を与える。例えば販売店の優劣をデータから比較したり、営業部員に対して顧客が特定の商品に関心を持ちそうなタイミングを予測し、示すことができる」(チェス氏)
もう一つのAI機能が、「テキストエンハンス」だ。これは2023年に北米でリリースしたビジネス文書作成を支援する機能で、日本でも2024年秋以降のリリースを予定している。「テキストエンハンスは、顧客がNetSuiteに蓄積したデータをAIが分析し、パーソナライズされ、ビジネスの文脈に合ったテキストを生成する」(チェス氏)。テキストエンハンスは、NetSuiteの200以上のフィールドに適用されるという。
チェス氏は、「AIの全ての出力は、データの学習から得られる。そのため、NetSuiteがこれまで取り組んできた、社内データの一元化が本領を発揮する。OracleがOCIに実装するAIサービスや、高性能コンピューティングのリソースを直接利用できることも、AIを活用する点で有利に働く。また、顧客が求めるAI利用におけるセキュリティについても、OCIの内部に学習結果を保持できるため、高いセキュリティを確保する」と語る。
その他、NetSuiteの機能面でもオラクルのクラウドアプリケーションとの連携が強化されることが発表された。
NetSuiteがすでに提供している予算管理機能のNSPB(NetSuite Planning and Budgeting)を機能強化する「NetSuite EPM(Enterprise Performance Management)」が2024年9月から提供開始予定だ。オラクルが提供するCloud EPMを基盤に構築され、予実管理や税務、財務数値の文章化(ナラティブレポーティング)などの機能を実現する。さらにAIによって計画との差を検知し、分析できる。
また、業界特化型のERPとして、製造業向けの「Suite Success for Manufacturing」が新たに発表された。「これは日本向けに作ったパッケージといえる。これまでNetSuiteが多くの企業を成功に導いてきたノウハウが詰まった、包括的な業務パッケージだ」(ゴールドバーグ氏)
基調講演の後半では、NetSuiteユーザーの国内ベンチャー企業3社による鼎談、経営コンサルティング企業タナベコンサルティンググループ代表取締役社長の若松孝彦氏と渋谷氏の対談も実施された。全体を通じて、NetSuiteは日本の成長企業、グローバルで成功を目指す企業をクラウドERPで支援する姿勢を示す講演内容だった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.