生成AIを業務で活用する場合、適切なデータを活用して生成AIを最適化することがカギとなる。しかし、どのように実現すればいいのか。多くの企業が悩むこの問題に日立とAWSが提示する解決策とは。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
生成AIを業務でいかに活用するか。多くの企業が生成AIの活用に取り組む中で、課題となっているのが自社データの活用だ。
日立ヴァンタラの武田貴彦氏(主管技師長)は、日立製作所(以下、日立)が開催したイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2024」(開催期間2024年9月4〜5日)のセッション「生成AIはデータが全て! 社内やクラウドのデータがもつ価値を引き出す方法」の中で、「生成AIを業務で活用するためには、データが重要なカギとなる」と語った。
自社データを活用する意義はどこにあるのか。同氏は日立における実践について以下のように紹介した。
「日立はさまざまな製品やサービスを提供している。その開発を通じて設計書やソースコード、検査項目リストなどが数多く存在する。プラットフォームからフロント業務に至るまで共通して存在している。製品やサービスの元となる研究開発や提供後の品質管理などのデータも存在する。データの多くは、人やモノが作り出しており、長年蓄積されているだけでなく新しく生み出されている。
これらのデータをAIに学習させることで、独自のナレッジを持つAIを作り出せる。これらを活用することが各業務における効率化と、その先のお客さまへの価値の提供につながる」
文章要約などの汎用的な用途だけでなく、専門性の高い業務で生成AIを使うためには、自社で蓄積してきたデータの価値を生かすことが欠かせない。このために企業は何をすべきか。AWSと日立が提案する解決策とは。
本稿は、日立が開催したイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2024」(開催期間2024年9月4〜5日)のセッション「生成AIはデータが全て! 社内やクラウドのデータがもつ価値を引き出す方法」の内容を編集部が再構成したものです。
データ活用でまず問題になるのが、多くの企業でデータの格納場所が一元化されていないことだ。
武田氏は、「さまざまな環境に分散しているデータを活用するためには、ハイブリッドクラウドによる柔軟なデータ配置が可能なデータプラットフォームが必要だ」と指摘する。
同セッションにはアマゾン ウェブ サービス ジャパンの鈴木健吾氏(技術統括本部 エンタープライズ技術本部 ストラテジック製造グループ 製造第一ソリューション部 部長 /シニアソリューションアーキテクト)も登壇し、日立とAWSの共創について話した。
まず、鈴木氏は「AWS(アマゾン ウェブ サービス)は、Amazon.comのイノベーションを支えているグローバルインフラ」と自社を紹介し、クラウドの普遍的な価値について「高い信頼性やセキュリティ、コストパフォーマンス、俊敏性、拡張性、柔軟性を提供している」と話した。
AWSと日立の協創については次のように語った。「顧客企業のシステムモダナイゼーションとクラウド移行の推進を目的としたハイブリッドクラウド向けソリューション『EverFlex from Hitachi』を提供している。日立のミッションクリティカルシステムにおける経験と、AWSのクラウドにおける経験の組み合わせにより、ハイブリッドクラウドソリューションの価値創出に取り組んでいる」(鈴木氏)
日立ヴァンタラは、日立のITプロダクツ部門とストレージをはじめとするデータインフラをグローバルに展開してきた米国Hitachi Vantara LLCとの運営により、2024年4月に事業をスタートした。データストレージやインフラストラクチャ、クラウド管理など、デジタルの専門知識を生かし、企業の持続的なビジネス成長の基盤を構築することでイノベーションを支援するとしている。
日立ヴァンタラは、会社設立に先立ち2023年10月にデータストレージにおけるハイブリッドクラウドアプローチとして「Hitachi Virtual Storage Platform One(VSP One)」を発表した。VSP Oneは、パブリッククラウドとオンプレミスの両方のストレージに共通する技術を適用することでシームレスに連携し、データを一元的に管理し、利用できるとしている。
AWSとの協創によるクラウドストレージについて、武田氏は「日立のストレージの高信頼化、仮想化技術をソフトウェア化してAWSに実装し、ハイブリッドクラウド環境を実現する。データのバックアップやディザスタリカバリー(DR)対策、データの二次利用などのユースケースに適用できる。学習、推論用のデータを柔軟に配置する。生成AIの業務での活用を促進する」と語った。
日立ヴァンタラは、AIソリューション「Hitachi iQ」を提供している。Hitachi iQは、NVIDIAのAI機能と日立の次世代ストレージを組み合わせたAIインフラソリューションだ。NVIDIAと日立の戦略的パートナーシップに基づいて相互のケイパビリティーを融合する。NVIDIAのGPUサーバやInfiniBandスイッチ、日立の分散ファイルシステム、オブジェクトストレージから構成される。
Hitachi iQのコンセプトは、スムーズな導入と標準化されたシステムと、大量のデータを迅速に学習させるシステムの2つだ。
Hitachi iQをディープラーニングに適用した事例について武田氏は、「ある米国自動車メーカーでは、ディープラーニングのためのデータ加工や学習、検証に約80時間かかっていたが、Hitachi iQでテストを実施した結果、高速処理に特化した分散ファイルシステムであるHCSFによって、わずか4時間に短縮できた。HCSFにより高性能なI/O処理を実現することでファイル処理性能が向上し、大幅な時間短縮が期待できる」と話す。
NVIDIA DGX BasePOD認証の取得によって標準化されたサーバやネットワーク、ストレージ、ソフトウェア、導入・サポートで構成されるシステムをスムーズに導入し、生成AIを迅速に業務で活用できるようにするとしている。「高速InfiniBandからダイレクトにアクセスできるボトルネックのないスケールアウト型アーキテクチャのストレージを利用することで、大量のデータを学習させるためのシステムを提供する」(武田氏)。
なお、大量データを高速に処理する分散ファイルシステム「Hitachi Content Software for File(HCSF)」の特徴は次の2つだ。
日立との協創による生成AIの適用事例について鈴木氏は、「日立では、『Amazon Bedrock』の『Claude 3 Haiku』によって、システム障害の初期対応に必要な高い回復精度と高速なレスポンスを実現し、ITシステム障害における初動の判断時間を3分の2に短縮した。日立のGenerative AIセンターは、『Amazon Kendra』やAmazon Bedrockを活用することでITシステム障害の対処、OT現場の保守、ITサービスデスクなどの業務運用保守業務の高度化を実現した」と話した。
武田氏は、最後に次のように話し、セッションを締めくくった。
「ハイブリッドクラウドによる柔軟なデータ配置が可能なデータプラットフォームを利用することで、学習・推論の実施に当たってオンプレミスとパブリッククラウドが選択できるようになる。AWSと日立ヴァンタラは、それぞれの強みを生かした共創でハイブリッドクラウドソリューションを提供する」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.