生成AIを導入する企業が増えてきたが、使用目的がはっきりしないまま動き出しているところも多い。何のために生成AIを使うのか。日立の取り組みから改めて考える。
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2023年来、話題の生成AI。企業の関心は非常に高いが、実際、生成AIで何がしたいのかを自社の状況に合わせて明確にしないまま動き出しているところが多い。そうした問題意識を持っていたところ、日立製作所が2024年8月29日に開いた生成AIの取り組みについての記者説明会で、その問題解決につながる話を聞くことができた。今回はその内容を紹介し、何のために生成AIを使うのかについて改めて考えたい。
「当社が生成AIに取り組むのは、今や社会課題として深刻化している人手不足の問題をこの技術によって解決したいからだ」
日立製作所の吉田順氏(デジタルエンジニアリングビジネスユニットData&Design本部長 兼 Generative AIセンター センター長)は、記者説明会でこう切り出した。
「生成AIで人手不足をカバーしたい」という話はこれまでも企業の導入動機の一つとして耳にしてきたが、日立が生成AIに取り組む最大の理由として「人手不足の解消」を挙げたのは、人手不足に悩む立場としてITベンダーだけではない製造業者の本音を聞いたようで印象的だった。今回はこの発言を聞いて、本稿で取り上げたいと思った次第だ。
日立における生成AIの取り組みは図1に示すように、社内において全事業領域で活用を進め、日立グループの全従業員27万人が使うことによって生成AIのやり取りによるナレッジの蓄積を図るというものだ。
とりわけ、オフィスワーカーやフロントラインワーカーの人手不足を解消できるように注力する構えだ。そして、蓄積したナレッジをはじめとした生成AIの活用ノウハウを顧客向けにサービスとして提供する形で、現在順次ビジネスを展開している。
生成AI活用の方向性としては図2に示すように、日立グループの幅広い事業領域で蓄積してきた制御・運用(OT:オペレーショナルテクノロジー)、AIやビッグデータ収集・分析などの情報技術(IT)、製品・設備(プロダクト)から得られるデータやナレッジを集約して生かす仕組みを作り上げる構えだ。LLM(大規模言語モデル)については、日立として今のところ独自開発を行わず、汎用のものと個別カスマイズで対応していくという。
この図2の構図は、日立が強みとする「IT×OT×プロダクト」によって顧客ごとに最適なソリューションを提供するDX(デジタルトランスフォーメーション)支援ビジネスモデル「Lumada」と同じだ。つまり、日立にとって生成AIはLumadaの中核技術になる存在だと見ていいだろう。
図3が、日立の生成AIの取り組みにおける全体像だ。吉田氏によると、「ここ1年ほどに発信したニュースリリースの内容をプロットしたもの」とのことだ。図の見方としては、左側に記された従来の取り組みを基に、下段から見て、パートナリングと独自技術を組み合わせた生成AIを、CoE(Center of Excellence)の役割を担うGenerative AIセンターによって活用推進する。それとともに、社内のユースケースを一元的に管理し、その上位のプラットフォームやツール・ソリューション、サービスといった社外に向けたビジネスに生かすというものだ。
図3の構図は、生成AIのユーザーでベンダーでもある日立の取り組みの概要を示している。同様に、今後はどの企業も生成AIの活用で両方の顔を持つ可能性がある。その際にはCoEの存在がキーになる。その意味で、日立の取り組みは参考になるだろう。
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