ついに「COBOL」からIT部門が“解放”される? アクセンチュアの報告書を読み解くCIO Dive

保守的なイメージの強い金融業界だが、アクセンチュアによると、実は銀行はAIの活用に向けて他業界よりも早く体制を整えているという。中でも、レガシーシステムに使われている「COBOL」の“解読”に向けた期待が高まっている。

» 2024年02月01日 08時00分 公開
[Matt AshareCIO Dive]

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CIO Dive

 Accentureによると、リスク回避志向の高さで知られる銀行業界は今やAI(人工知能)によるイノベーションの宝庫になっている。2024年は他のどの業界よりもAIの恩恵を享受する準備が整っているという(注1)(注2)。

生成AIは「基幹システムの保守」にも革命を起こす?

 Accentureが19業種、900職種、約2万の業務を分析した結果、銀行業務の4分の3近くが自動化に適していることが明らかになった。

 同社の報告書によると、銀行業界にはビジネスチャンスがあふれている。契約書作成やソフトウェア開発、リスクコンプライアンス管理などの各業務でテクノロジーによる改善が進むとAccentureは予想している。

 企業の役員が取締役会の熱意を拡張性のあるビジネスアプリケーションに反映させようと努力する中、その成果はツールをタスクに整合させられるかどうかにかかっている。ビジネスで重視されるROI(投資利益率)は、IT部門が導入の準備をどれだけ整えられるかだけでなく、LLM(大規模言語モデル)が既存のワークフローにシームレスに統合されるかどうかに大きく左右される。

 Accentureは、資産に関するアドバイスや商取引、コンタクトセンターでのやりとりを含む顧客サービス機能に限っても、AIが強化されることによって今後3年間で6%以上の収益増加をもたらすと予想している。

 同社のマイケル・アボット氏(シニア・マネージング・ディレクター兼グローバル・バンキング・リード)は、CIO Diveに対し、「AIは銀行のあらゆる部分に影響を与えるだろう。法務や人事、エンタープライズアプリケーション、バックオフィス、フロントエンドのユーザー体験、マーケティングなど、銀行業務のあらゆる側面を変えることになる」と話す。

 自動化とML(機械学習)を含むAIの統合に関する銀行業界の傾向は、既に定着している(注3)。Bank of America(BofA)は2018年にAIバーチャルアシスタント「Erica」を立ち上げた。Wells Fargo & Companyは「Google Cloud」で「Fargo chatbot」を作成し、2022年に展開を開始した。

 Infosys Consultingのライアン・マーティン氏(パートナー、AIやオートメーション、データ、アナリティクスの業務責任者)は、「銀行は(AIをいかにうまく使うかという)“ゲーム”の先を行っている」と「CIO Dive」に語った。「彼らはオピニオンリーダーであり、テクノロジーを全く恐れていない」(マーティン氏)

 金融サービス企業もまたモデリングと予測分析の最前線にいる。「特に人間が関与しないブラックボックスに機密データを入力するのをためらうのは当然だ。新しいサービスに大きな関心が集まっているが、誰もモルモットや最初の失敗者にはなりたくない」(マーティン氏)

生成AIで40%のコードを記述できる

 銀行業務において、人間の監視なくAIを導入することはできない。

 Accentureによると、近い将来、価値の高いユースケースでは、AIは人間を代替することではなく補完することに重点が置かれ、訓練を受けた専門家の監視の下で実施されるようになる。

 「AIは、3年前には解決できなかった全く新しい問題を別の方法で解決できるようになった」(アボット氏)

 銀行システムの中核にある「COBOL」で記述されたレガシーコードの“解読”は、変革的でスケーラブルなソリューションの一つだ。IBMは2023年夏、COBOLを「Java」に変換するLLM「watsonx Code Assistant for Z」を発表した。こうしたコード生成の支援は、企業のITツールで比較的普及している追加機能の一つだ(注4)(注5)。

 「IT人材が不足する中、メインフレームの専門家やCOBOLを扱うプログラマーは枯渇している」とアボット氏は言う。Accentureの試算では、レガシーコードが最も蓄積されている銀行は、保険会社に次いでAIによるコード生成の支援によって多くの利益を得られると期待されている。

 基幹システムを保守する負担がAIによって軽減されることで、エンジニアはメンテナンスではなく付加価値を高めるプロジェクトに目を向けられる。

 「技術的負債の処理や要件のテスト、デバッグ、基本的な運営や機能を維持することなどに費やしていた時間が短縮できれば、IT部門はより多くの時間を製品やソリューションの設計に費やせるだろう」(アボット氏)

 Goldman Sachsは生成AIを活用して、場合によってはコードの40%を記述できるアシスタントの試験運用を開始した(注6)。

 Accentureは、「ChatGPT」の有料版LLM「GPT-4」とベクトルデータベース(注7)を活用して、COBOLの技術文書と機能文書を開発者に提供し、モダナイゼーションを加速させる同様のツールを開発した。このソリューションは、エンジニアのためにレガシーコードをリバースエンジニアリングし、エンジニアはチェック結果を使用して同じ仕様でアプリケーションを再構成できる。

 生成AIツールによって基幹システムが時代遅れのコードから解放されることで、IT部門はメンテナンスではなく、収益を上げるための銀行商品やサービスの開発に注力できる。

 「この仕事は機械に任せた方が良いだろう。銀行は依然として有能なエンジニアを必要としているが、そうしたエンジニアはもはやCOBOLで記述されたコードの開発や保守などにかかる時間やプロセスに縛られることはない」(アボット氏)

(注1)US government weighs in on cloud adoption in banking(CIO Dive)
(注2)Bank of America to spend $3.8B on innovation next year(CIO Dive)
(注3)Bank of America to spend $3.8B on innovation next year(CIO Dive)
(注4)IBM trains its LLM to read, rewrite COBOL apps(CIO Dive)
(注5)Salesforce, SAP aim for developer efficiency in generative AI updates(CIO Dive)
(注6)Goldman Sachs is using ChatGPT-style A.I. in house to assist developers with writing code(CNBC)

(注7)情報を数学的表現で保存するデータベースのこと。生成AI が扱う非構造化データの格納や管理に適していることから、機械学習(ML)を含むAIで利用される。

(初出)Cracking COBOL: Banks to deploy AI to retool legacy apps

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