生成AIは金融企業を破たんさせる? データ分析の専業ベンダーが示す2024年の変化とは

SASは2024年の金融サービス業界のテクノロジーとトレンド予測を発表した。銀行破綻の増加、生成AIによる詐欺の洗練、気候変動による保険業界の危機、AIを利用したリスク管理の強化などが予測されている。

» 2024年01月24日 08時00分 公開
[後藤大地有限会社オングス]

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 2024年は金融業界にとって失敗と成功が混在する難しい年になるかもしれない。SAS Institute Japanが発表した金融サービス業界のテクノロジーとトレンド予測によると、AIの影響によって2024年は銀行破綻が増加、保険会社も倒産リスクが高まるとされる。

2024年の金融サービス業予測: 銀行破綻、生成AI、気候変動、業界変動

 SAS Institute Japanは2024年1月17日、金融サービス業界における2024年のテクノロジーおよびトレンド予測を発表した。SAS Instituteの専門家やエグゼクティブは生成AI(Generative AI)をはじめとする技術が業界を再構築することになり、金融サービス業界にとって成功と失敗、大きな可能性と潜在的脅威が混在する年になるだろうと予測している。

 SAS Instituteが予測している主な内容は次の通りだ。

リスク管理におけるAIの影響と、企業破たんのリスク

  • 世界の保険会社の上位100社中1社は、早急な生成AIの導入によって倒産する。現在保険会社は猛烈なスピードで自立型システムの導入を進めているが、その早急すぎる判断が企業崩壊につながる可能性がある
  • 2024年には今までよりも多くの銀行が破綻する。銀行はリスク管理の一貫として、取引企業が債務不履行に陥る確率がどの程度あるかを意識せざるを得なくなり、その推測のために新たなツールや技術を採用する。8割の企業がすでに自社の資産負債管理部門の改革を検討しているが、関連部門間でのデータ共有を完全に自動化できている企業は全体の3分の1以下であり、今この状況を変えるべきときが来ている
  • 生成AIやディープフェイク技術が詐欺をより洗練させており、ますます対策が難しい時代に入っている。銀行や信用組合はAIを導入することでこれに対抗しようとする
  • アンチマネーロンダリング(資金洗浄)プログラムに機械学習やネットワーク分析を導入し、誤検知率の低減や見逃し率の低減を実現し、取引モニタリングが大幅に改善される。毎年最高で2兆ドルものマネーロンダリングが行われているにもかかわらず、アラートの95%は誤検知であり、現状は憂慮すべき状況にある
  • 何十年も前から懸念されてきた気候変動が臆測上の脅威から実際の脅威として現れている。世界における自然災害による保険損失は2022年には1300億ドルを超え世界中の保険会社が苦境に立たされている。こうした危機を乗り切るために保険会社はAIの導入を進め、膨大なデータストアを活用して流動性や競争力の向上を図ることになる
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID19)インシデントにおいて、優れた銀行は迅速にリスク意思決定モデルを再構築して導入した。2024年には景気後退リスクやデフォルト率の上昇によって適切なモデルや融資方針などを採用する必要に迫られるなど、幅広い能力が試される

2024年に訪れる変化

  • 大規模言語モデル(LLM)が過大な期待という状況から特定のユースケースでの収益化という観点へ移っていく
  • 生成AIがさらに進化し保険会社や銀行をはじめさまざまな業界の企業で重要になる。組織は生成AIに業務を託すことで、従業員をより複雑なタスクやシナリオに優先的に振り分けることが可能になる
  • 中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)が一般的に広まる。金融包摂をさらに大きく促進する可能性を持つ安全なデジタル決済オプションが、政府の支援のもとで市民に提供されるようになる
  • AIや自動化の発展が生産性向上の原動力になり、資本労働比率が高まり生産性の向上に貢献する。一部の業界では不況に近い状況を経験することになるだろうが、全体としては景気後退は当面の間阻止される

 SAS Instituteの予測は2024年が金融業界にとって厳しい年になることを示しており、そこで勝ち抜けることができるかどうかのひとつのポイントがAI技術の活用や迅速な意思決定モデルの変更可否にあることが指摘されている。

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