日立はなぜ「Lumada」事業に注力するのか――投資家向けイベントから探るWeekly Memo(1/2 ページ)

日立製作所はなぜ「Lumada」事業に注力しているのか。今、どんな取り組みを行っているのか。これからどう進めていくのか。同社が開いた投資家向けイベントでの最新情報から探ってみたい。

» 2023年06月26日 10時00分 公開
[松岡功ITmedia]

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 「Lumada」(ルマーダ)事業によっていち早くDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んできた日立製作所。同社はなぜ、この事業に注力しているのか。今、どんな取り組みを実施し、これからどう進めていくのか。2023年6月13日に同社が投資家向けに開いた「Hitachi Investor Day 2023」から、その理由と意味について考察したい。

Lumada事業を柱に「構造改革からサステナブルな成長へ」

 説明役には、日立製作所の代表執行役 執行役社長 兼 CEO(最高経営責任者)の小島啓二氏、代表執行役 執行役副社長 デジタルシステム&サービス(DSS)統括本部長の徳永俊昭氏、同グリーンエナジー&モビリティ(GEM)戦略企画本部長のアリステア・ドーマー氏、同コネクティブインダストリーズ(CI)事業統括本部長の青木優和氏、同CFO(最高財務責任者)の河村芳彦氏が登壇した。

左から、ドーマー氏(オンライン)、徳永氏、小島氏、青木氏、河村氏

 「日立はこれまで10年ほど進めてきた構造改革から、これからはサステナブルな成長へと経営のかじを切っていく」

 小島氏はこう切り出し、それを実現していくためには「ガバナンスの進化」「ポートフォリオの継続的な強化」「テクノロジーとビジネスモデルの革新」「企業価値の向上」の4つの取り組みが重要になると説明した。本稿ではこのうち、Lumada事業が中軸となるテクノロジーとビジネスモデルの革新に向けた取り組みに注目したい。

 Lumadaとは、日立グループの幅広い事業領域で蓄積してきた制御・運用技術(OT:オペレーショナルテクノロジー)と、AI(人工知能)やビッグデータ収集・分析などの情報技術(IT)を組み合わせ、ユーザーにとって最適なソリューションを提供する製品・サービス群のことだ。日立は当初、Lumadaを「IoT(モノのインターネット)プラットフォーム」と呼んでいたが、今では「DXプラットフォーム」と位置付けている。

 小島氏はテクノロジーとビジネスモデルの革新について、「どうすれば他社にない社会イノベーション事業の強みを創ることができるか。私たちは今、これを懸命に追求している」とし、同社の取り組みとして次の3つを挙げた。

 1つ目は、「Lumadaによる顧客協創とセクター共通戦略機能」だ。「日立の社会イノベーション事業のビジネスコンセプトは顧客との協創だ。当社の多様なITやOT、プロダクトを組み合わせて他社より魅力的なソリューションを生み出す。そのためのLumadaによる顧客協創のフレームワークとそれを支える仕掛けが非常に重要となる。

 図1が、Lumadaによる顧客協創のフレームワークだ。このフレームワークは、顧客の課題を理解することから始まり、IT、OT、プロダクトで解決方法を創出し、それを実装し、運用、保守するというサイクルを、データとデジタル技術を活用して回す。そこから得られたソリューションを再利用していくというものだ。

図1 Lumadaによる顧客協創のフレームワーク(出典:「Hitachi Investor Day 2023」説明資料)

 そして、このフレームワークを支える仕掛けが、セクター共通戦略機能による「One Hitachi」の取り組みだ。図2の左側に記されたビジネスセクターに共通する戦略機能を上部に記された組織が提供し、それを右下に記されたグローバルのマーケットに展開していくという構図となっている。

図2 セクター共通戦略機能による「One Hitachi」の取り組み(出典:「Hitachi Investor Day 2023」説明資料)

 2つ目は、次のLumadaソリューションを仕込むバックキャスト型コーポレートR&Dだ。バックキャストとは、未来の目標を起点としてそこから逆算して解決策を見いだす思考方法を指す。この取り組みについて、小島氏は次のように説明した。

 「他社と差別化を図るためには、顧客の課題を先取りすることも重要だ。次の社会がどう変化し、そこではどんな顧客との協創が考えられ、顧客はどんな市場での事業展開を狙い、その顧客に日立はどんなLumadaソリューションを提供できるのか。そんなバックキャスト型のシナリオに基づいた技術開発に、先進的な研究機関と連携して取り組んでいる」(図3)

図3 次のLumadaソリューションを仕込むバックキャスト型コーポレートR&D(出典:「Hitachi Investor Day 2023」説明資料)

 3つ目は、「成長マインドを刺激するスタートアップ投資」だ。小島氏はこれについて「スタートアップの探索と投資、さらに投資先のスタートアップとの協業などによって、先端技術あるいは新しいビジネスモデルに対して感度を上げて次のLumadaソリューションに生かしたい」との狙いを語った。日立では2019年以降、スタートアップ向けに3億ドルを投資し、各セクターとの協業も現時点で71件を数えている。

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