これまで幾度か使ってきたキーワードの「ナレッジ」に注目すると、日立はどのような業務における生成AIのやり取りをナレッジとして蓄積しているのか。それを示したのが、図4だ。
縦軸は情報、社会、制御という分類で、横軸は企画提案から保守作業まで一連の工程の流れとなっており、それらをカバーした範囲での業務内容が記されている。これらはすなわち、生成AIの適用効果が見込まれる業務であり、ナレッジ蓄積のユースケースと捉えることもできよう。
そして、生成AIに対する期待の高まりとして、これまでとこれからの違いを図5に示した。
その違いは、これまでは生成AIへの期待として「生産性の向上」「業務の効率化」が挙げられ、それに対しては「汎用知識を広く学習した汎用LLMの利用」が適切だった。しかし、これからは「人手不足の解消」「技能継承の実現」「競争力の強化」が求められるようになる。それに対して、同社は「それぞれの業務に合わせた業務特化型LLMの構築」が必要となるとしている。
人手不足の観点から、これまでも汎用LLMをベースとした生成AIモデルによって生産性の向上や業務の効率化が図れたことから解消に寄与したところもあるだろうが、これからは自社のナレッジの継承や自社データ利用で競争力の向上を図れる業務特化型LLMをベースとした生成AIモデルの方が、解消をさらに進められるとの主張とも見て取れる。
日立は今回の会見で、「業務特化型LLM構築・運用サービス」の提供を開始すると発表した。
吉田氏は最後に、生成AIの活用からDXの動きが日本企業でどのくらい進展するかについて、次のように説明した(図6)。
「生成AIは2023年に広く知られるようになり、さまざまな業務領域で先駆けとなるユースケースが見られるようになってきた。当社としては、生成AIの活用によってオフィスワーカーやフロントラインワーカーの人手不足を解消できるように注力したい。さらに今後、各業務全体に変革を進めるためには、生成AIも含めたDXを推し進める必要がある。そのために当社が用意しているのが、Lumadaによるソリューションだ」
最後はやはりLumadaをアピールして終わるのが日立らしいところだが、同時に生成AIを何のために使うのかについては一貫して人手不足の解消を前面に押し出していたのが印象的だった。改めて考えてみると、「生成AIはマンパワーと捉えるべき」とのメッセージが一番分かりやすいのではないか。そう感じた日立の会見だった。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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