企業におけるAI活用戦略において、機微な情報を含むデータ基盤どう実現するか、エネルギーコストを含む投資の振り向け方をどう判断するかは欠かせない議論だ。ITインフラのアーキテクチャを抜本から見直す時期が迫る中、基盤を担うITベンダーがどのような提案を示すのだろうか。Dellの場合を見ていく。
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企業が本格的に生成AIをはじめとするAIの導入に乗り出す中、ITインフラを担う企業がデファクトを狙ってさまざまな提案を進めている。Dell Technologies(以降、Dellと表記)はどんなアプローチで「AI時代の覇権」を狙っているのだろうか。本稿は、2024年10月3日に開催された「Dell Technologies Forum 2024 - Japan AI Edition」(主催:Dell日本法人であるデル・テクノロジーズ〈以降、デルと表記〉)から、その全貌を探る。
基調講演には、デルの大塚俊彦氏(代表取締役社長)が登壇し「AIを活用してイノベーションを加速」をテーマに、デルがAIにどのように取り組んでいるのかを解説した。
基調講演に先立ち、Dellの創業者マイケル・デル氏はビデオメッセージで「次の一歩」がどんなものであるかを示した。
ビデオメッセージで、デル氏は「Dell AI Factory」というエコシステムを軸に、変革に向けたソリューションを提供できるのがDellだと訴えた。
AIの時代に入った現在は世界の歴史の中でも非常に興味深い時期を迎えています。組織を刷新し、このハイパーインテリジェンスを活用できるようお客さまを支援することが私たちの使命です。
当社にはイノベーションに満ちた素晴らしいオープンエコシステムがありそれをお客さまのための「Dell AI Factory」として組み込んでいます。
このような迅速で新しいシステムは、データをインサイトや競争力に変えるAIファーストの考え方に基づいて設計されています。
AIがもたらすメリットは使う人次第。改革は簡単ではなく、リスクや恐れを感じることもあります。しかし改革しなければ、より大きなリスクに見舞われます。私は今後のチャンスについて本当に楽しみです。Dellは今まさに次の一歩を踏み出しているのです。
これを受けて登壇した大塚氏は「これからのAI時代を歩んでいくための3つのポイント」を示した。
1つ目は「AIはビジネスチャンスであり、イノベーションを加速する」だ。
Dellの調査によると「AIと生成AIが業界を大きく変革する」との回答はグローバルで80%、国内で70%だった。一方「生成AIの変化のスビードに追いつくことに苦労している」との回答もグローバルで57%、国内で65%に達した。この結果から「企業は苦労しながらも生成AIに大きな期待を寄せ導入を進めている状況」と、多くの企業がAIに高い期待を寄せていることを示し、このトレンドに追従することが重要だとした。
2つ目は「People-Firstアプローチ」だ。同じ調査では「AIの利用で飛躍的に生産性を向上できる」との回答はグローバルで79%、日本は62%に達した。
「将来にわたって生産性を飛躍的に向上するために重要なのは、新しいことを学び続ける意欲を持つこと、AIの活用力を磨くこと、クリエイティブな発想力を養うことです」(大塚氏)
3つ目は「データはAI効果を最大化する差別化要因」だ。AIの活用においてデータは「原料」と呼べるものだ。ただ調査では「データをリアルタイムのインサイトに変えられる」との回答はグローバルで33%、国内で28%にとどまっている。
「データの活用、管理ではさまざまな課題があります。それを乗り越えていく必要があります。Dellでは、データのあるところにAIを持っていくというアプローチを提唱しています」(大塚氏)
DellのAIに対する考え方やアプローチ、ソリューションについては、CTO&CAIO(最高テクノロジー責任者 兼 最高AI責任者)のジョンローズ氏が解説した。ローズ氏はまずAIが企業にもらたすインパクトについて「AIは、人が考えて実行するような仕事を、人から機械に移行するテクノロジー」だと説明した。ソフトウェアやコンテンツを自動的に作成したり、バーチャルアシスタントがあらゆる日常業務をこなしたりといった人間の作業をAIにオフロードすることを意味する。
ローズ氏は「今後AIは、業界や社会の中心的な存在になる」とした上で「判断や思考、創造性を機械に頼むことになるため、これまでとは異なる考え方が必要」だと指摘する。ただし、「Dellは40年間さまざまな創造的破壊に取り組んできましたが、その中でもAIは最も大きな創造的破壊」だという。特に注意すべきなのが、進化のスピードの違いだ。
「これほど早く進化するテクノロジーはこれまでありませんでした。スピード感を持ってAIを導入していくことが重要です」(ローズ氏)
ローズ氏によると、AIをスピーディーに導入するには、5つの取り組みが重要だ。
「企業向けにAIを導入する場合、これら5つの柱に加え、セキュリティやサステナビリティを検討する必要もあります。その上でAI活用の戦略を練っていきますが、そこで忘れてはならない視点は、『AIは特定分野に限られたテクノロジーではなく、現代の内燃機関(エンジン)だ』ということです。産業革命時の蒸気機関のように、新しい動力としてさまざな分野に適用でき、仕事の在り方を大きく変えていきます。また、蒸気機関が鉄道網を、電力が電力網を生んだように周辺への産業の広がりとともに発展していきます。AIの同様で、データのエコシステムとともに発展していきます。重要なことは、AIを単なる技術導入ではなく、将来への戦略を持ち、ユースケースを学びながら、エコシステムのもとで発展させていくということです」(ローズ氏)
そうしたAI展開のためにDellが提唱するのが、デル氏も言及したDell AI Factoryだ。AI FactoryはAI活用で必要な各種コンポーネントをモノ・コトの別を問わず整理した概念で、データやサービス、オープンエコシステム、インフラストラクチャ、ユースケースなどで構成される。
さまざまな要素で構成されるが、Dell AI Factoryの下で、Dellが検証済みのオファリングとしてさまざまなソリューションを提供するエコシステムの枠組みだととらえると理解しやすいだろう。
「(AIの進化に適合するには)クラウド時代とは異なる『AI時代のインフラ』を構成することが求められています。AIはITリソースを大量に消費します。インフラの設計を間違えると、コスト負担に悩まさせることになります。AIに即したワークロードをオンプレミスやプライベートクラウドに設置するなどの工夫が必要です。Dell AI Factoryに基づいてAIの環境を整備することで、どのサーバをどこに設置すれば良いかなどを考えなくてよくなります」(ローズ氏)
例えば、データについては「AIで活用しやすいデータの置き場所」を設計し、データのクレンジングや加工、さまざなAIフレームワークを使った処理などを実施しやすくしている。その一例としては、LLM(大規模言語モデル)「Meta Llama3」に最適化されたパッケージを作成・検証し、プラットフォーム「Hugging Face」で提供する取り組みも始めている。
AI FactoryにおけるAIユースケースとしては、現時点でコンテンツの作成やコード生成、デジタルアシスタント、デジタルツイン、コンピュータービジョンが挙げられている。「DellはこれまでAI活用に向けた800を超えるAIプロジェクトを実践してきた。その中から効果のあるものをユースケースとして整理し、顧客の取り組みを支援できるようにした」(ローズ氏)
ITインフラとしては、AIコンピューティングに最適な製品として「PowerScale F910」「PowerEdge XE9680」「Dell PowerSwicth」「Dell AI PC」などを提供する。さまざまなパートナーとのエコシステムにも力を入れており、NVIDIAとは「Dell AI Factory with NVIDIA」としてデータからユースケースまでをエンドツーエンドのソリューションとして提供できる体制を整えた。
Dell自身も、同社AIソリューションの「カスタマーゼロ」(第一の顧客ユーザー)として、ソフトウェア開発におけるコード生成、サポートにおけるAIアシスタント適用、セールスにおけるコンテンツ自動作成、サプライチェーン計画における量子アニーリングの適用の4分野を中心にAIに取り組んできた。
ローズ氏は「Dellはこれらの活動に併せてITインフラもAIファーストに作り変えてきました。これらDell自身が持つノウハウをお客さまやパートナーに提供していきます」と、エコシステム参加企業に対してオープンな情報提供を宣言した。
同社のAIに対するアプローチは、多様なソリューションとパートナーエコシステムを生かしつつ、Dellがあらゆる組み合わせのハブとなり、検証済みのソリューションを迅速に提供する方向にある。
ローズ氏がオープンな情報提供を宣言した背景には、同社AIエコシステムへの強い期待が現れている。企業のAI対応やAI向けのITインフラ投資については、まだ定まった「正解」があるわけではない。ハードウェアベンダーもハイパースケーラー各社もさまざまなアプローチで提案を進める過程にある。今後数年はこの状況が続くと考えられるが、誰がいちはやく「正解」にたどり着くかは注視しておきたいところだ。
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