電子メールやチャットによるコミュニケーションが中心となった現在でも、電話の方が仕事がスムーズに進む場面はやはりあります。ただし筆者によると、アップデートを怠っているために電話の「真の価値」が発揮されていない日本企業が多いとか。今どきの電話が持つ価値を考えます。
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IT業界で働くうちに、いつの間にか「常識」にとらわれるようになっていませんか?
もちろん常識は重要です。日々仕事をする中で吸収した常識は、ビジネスだけでなく日常生活を送る上でも大きな助けになるものです。
ただし、常識にとらわれて新しく登場したテクノロジーやサービスの実際の価値を見誤り、的外れなアプローチをしているとしたら、それはむしろあなたの足を引っ張っているといえるかもしれません。
この連載では、アイ・ティ・アールの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)がエンタープライズITにまつわる常識をゼロベースで見直し、ビジネスで成果を出すための秘訣(ひけつ)をお伝えします。
「甲元宏明の『目から鱗のエンタープライズIT』」のバックナンバーはこちら
日本企業の多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組み、テレワークも一般的になっていますが、いまだに旧態依然としたシステムも多く存在しています。その代表が「電話」です。企業電話に関するテクノロジーや製品、サービスは日々進化しているにも関わらず、それらを駆使する日本企業は非常に少ないのが実情です。
筆者は職業柄、多くの日本企業の方々とお付き合いしていますが、電話の使い方が下手な日本の企業人が多いと感じることは多くあります。スプレッドシートなどの企業用ソフトウェアについては、好き嫌いを別にして使わざるを得ないため、ほとんどの企業人がそれらのソフトウェアの利用効率を上げるために日々努力しています。
しかし、電話に関しては好き嫌いが二分され、企業電話の利用方法はこうした個人の嗜好に依存することが多いと感じています。それでは、海外企業では現在、電話はどう使われているのでしょうか。
筆者は海外企業との接点も多く、それらの企業のジョブディスクリプション(業務内容が記載されている文書)を読む機会もあります。驚くのは、『上司からの電話にはxx分以内に対応すること』といった文言があることです。つまり海外企業では業務中の電話使用は職務の一つなのです。
また、海外の企業人の多くは、電話とデジタルツールをうまく使い分けています。日本企業にもそのような人は多くいますが、筆者の体感では海外に比べるとかなり少ないという気がします。電話の使い方がうまい人は、迅速な意思決定が必要な時や、1on1のディスカッションなどに電話を多用する傾向にあります。電子メールや社内SNS、チャットで延々と議論する人はほとんどいません。
オンプレミス設置型のPBX(Private Branch Exchange:構内電話交換機)から脱却するために、企業電話システムの再構築を検討する日本企業は多くあります。筆者はこのような案件のコンサルティングを手掛けていますが、再構築するにもかかわらずPBX時代の仕様にこだわり、DXの視点から電話システムの要件を検討しない日本企業が非常に多いことに釈然としません。
日本企業のDXプロジェクトでは、新しいビジネスや各種業務の変革に取り組んでいますが、どのようなビジネスや業務でも顧客や取引先や自社従業員とのコンタクトは非常に重要です。その重要なコンタクト手段の一つに電話があるはずです。しかし、このような視点から企業電話の新しいシステムを検討する日本企業は少数です。
背景には、企業電話の担当部署がDXやITに直接関与する機会が少ない総務部門であることにも要因の一つだと思います。自社電話システムを再構築したり機能追加したりする際には、DX部門やIT部門と密接な連携が必須といえるでしょう。
以前より、企業電話はITシステムと連携可能でしたが、今どきの電話システムはクラウドがベースになっていたり、スマートフォンが主デバイスであったり、APIを提供してさまざまな企業システムやクラウドサービスとの連携が容易になったりしています。
企業電話の再構築や新規導入を検討している企業は、以下の3点に留意する必要があると筆者は考えます。
「UXを最高にする」とは、業務や生活において嬉しいことや気持ちのよいことをどれだけ創成できるのかということです。コミュニケーションは、自分だけの視点では決して最高にはなりません。自分が電話を好きかどうかではなく、コミュニケーション相手がいつどのような方法でコンタクトやコミュニケーションをするのがUXを最高にできるのかを考えることが重要です。企業電話はそうしたコミュニケーションにおいて必ず大きな役割を果たすはずです。
三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウドコンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手掛ける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。
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