「Migrate to AWS」では、SaaS移行計画の策定支援を挙げた(図3)。
「SaaS化ができていない企業は、ビジネス観点での検討が不十分だったり、経験者が少なく、移行計画が立案できないということがある。こうしたニーズに応えられるように移行計画の策定を支援する。AWSには数多くのパッケージ企業のSaaS移行の支援ノウハウをまとめた『SaaS Journey Framework』がある。このフレームワークを活用してSaaS移行計画の立案を支援する。最新の生成AIを取り込んだサービスを開発したいという課題も支援していく」(佐藤氏)
「Innovate with AWS」では、SaaS企業のシステムのモダナイゼーションやクラウドネイティブ化の支援を挙げた(図4)。
「例えば、コンテナ化によってスタッフ1人あたりの生産性が80%向上したり、サーバーレスアーキテクチャの採用によってインフラコストを39%低減することができるといったメリットが報告されている」(佐藤氏)
「Scale with AWS」では、 SaaS事業の拡大に向けて2つのプログラムを挙げた。
一つは、「AWS Marketplace」だ(図5)。
「AWS MarketplaceはSaaSの販売プラットフォームとして注目されている。これまで販売価格はドル建てになっていたが、個別に見積もりするプライベートオファーを利用することで、日本円での取引が可能になった。円建てでの見積りや契約が可能になったことにより、日本企業のAWS Marketplaceの利用が進んでいる。一方で、海外に販売することも可能な販路となる。国内外、どちらのGo-To-Market戦略にもAWS Marketplaceへの出品を支援する」(佐藤氏)
もう一つは、「AWS Global Passport」だ(図6)。
「AWS Global Passportによって、ソフトウェア企業の海外進出を支援していく。具体的には、このプログラムを通して海外進出支援の専門コンサルティング企業と連携して戦略立案と実行を支援する。さらに、初めて利用するAWSの海外リージョン利用料に対してクレジットを提供する。グローバルに販路を持つAWSが世界で推進しているプロジェクトによって、日本から世界への販売を支援したい」(佐藤氏)
なお、AWS SaaS 支援プログラムは、AWSジャパンによる日本独自の施策だ。会見の質疑応答で「なぜ、日本でこういう施策が必要だと考えたのか」と聞いたところ、佐藤氏は「日本ではSaaS事業の拡大とともに、これからSaaS化を進めたいというソフトウェア企業のニーズも強く感じたので、SaaSジャーニーを一気通貫で支援する施策を提供することにした」と答えた。この背景には、日本のソフトウェア企業におけるSaaS化への対応の遅れがあるようだ。
最後に、今回のAWSジャパンの新たな施策から、筆者が注目した点を3つ挙げて考察したい。
これから多くの企業がデジタル化する中で、社内でのノウハウの蓄積を基に自らSaaS事業を手掛けるケースが増えると見られている。AWSにとっては既存のソフトウェア企業よりもむしろ、そちらのニーズのほうがポテンシャルは大きいのではないかというのが筆者の見立てだ。
デジタルサービスにおける貿易収支の赤字を指す「デジタル赤字」の拡大が今、注目を集めている。その中で、今回の施策を国内だけで見れば赤字が膨らむ形になるが、AWSのプラットフォームを使って日本企業が海外でデジタルサービスを広げられれば、赤字を減らせる可能性がある。ただ、筆者はデジタル赤字がどうなるかというよりも、日本のソフトウェア企業が海外でデジタルサービスを成功させるには、AWSをはじめとするハイパースケーラーのプラットフォームを利用するしかないと考えている。その意味でも今回の新施策は興味深い。
直接的には、日本のソフトウェア企業のSaaS化支援による自社の事業拡大だが、同社の最大の狙いはそれも含めた「日本でのビジネスエコシステム」を広げていくことにあるのではないか。
ビジネスエコシステムとは、パートナー企業だけでなくユーザー企業とも密接に連携した事業体系のことだ。自らSaaS事業を手掛けていないAWSにとっては、こうした形でSaaSパートナーを広げるのが得策だろう。このビジネスエコシステムの広がりが、デジタルサービスの分野ではこれから企業価値として一層評価されるようになる可能性が高い。すなわち、今回の新施策はAWSジャパンにとって、企業価値の向上につながる可能性が高いというわけだ。
ただ、このビジネスエコシステムは決してAWSだけのものではない。ここに関わるパートナーもユーザーも全ての企業にとって利用できる集合体になるだろう。日本企業はこの集合体を大いに利用して、日本全国、さらには海外に進出すればいい。AWSのビジネスエコシステムは使い倒す価値がある、というのが筆者の見立てである。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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