2024年末からブームが始まりつつある「AIエージェント」とはどんなものか。その歴史と今になって注目されている理由、AIエージェントを構成する3要素について解説する。
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AIやデータ分析の分野では、毎日のように新しい技術やサービスが登場している。その中にはビジネスに役立つものも、根底をひっくり返すほどのものも存在する。本連載では、ITサービス企業・日本TCSの「AIラボ」で所長を務める三澤瑠花氏が、データ分析や生成AIの分野で注目されている最新論文や企業発表をビジネス視点から紹介する。
AIエージェントという概念は、1960年代後半にMIT(米マサチューセッツ工科大学)の研究者たちが哲学の文脈から人工知能の領域に持ち込みました。「エージェント」という言葉はラテン語の「agere(アゲレ:行動する)」に由来し、他者に代わってタスクを実行する存在を意味します。人工知能の文脈では、「環境を認識し、目標を達成するために自律的に行動し、学習や知識の獲得によってパフォーマンスを向上させることができるシステム」と定義されています。
2022年後半の「ChatGPT」の登場以降、生成AIの活用は急速に進化してきました。Microsoft AI Frontiers Labのマネージングディレクター、エジェ・カマール氏は「これまで私たちには、バックエンドでの一般的な問題解決能力が不足していたが、大規模言語モデル(LLM)がその欠けていた要素をついに提供してくれた」と述べています。
LLMの進化により、人間とコンピュータの自然なコミュニケーションが可能になり、より複雑な業務プロセス全体を自律的に実行できる環境が整ってきました。これは単なるチャットbotの枠を超えた、新たな可能性を示唆しています。
AIエージェントと似た概念としてコパイロットがありますが、両者には明確な違いがあります。Microsoftの事例を見てみましょう。四半期ごとに大きな目標を達成しなければならない営業担当者を考えます。「Microsoft 365 Copilot」は電子メールの作成や欠席した会議の要約作成、営業プレゼンテーションの作成を支援します。一方、営業リード開発に特化したAIエージェントは、バックグラウンドで自律的に新規見込み客を発掘し、営業担当者が後でフォローアップできるよう準備を整えます。
プリンストン大学の最新の研究論文によると、AIエージェントは「複雑な環境での目標追求」「自然言語による指示理解と自律的な行動」「ツールの使用と計画立案」という3つの重要な特性を持つことが示されています。これらの特性により、AIエージェントは単なる応答生成システムを超えて、より複雑なタスクを自律的に実行できる存在となっています。
AIエージェントは企業の事業運営と顧客体験を大きく向上させる可能性を秘めています。例えば、生産性の向上において、AIエージェントは人間の介入なしに特定のタスクを実行する自律型システムとして機能します。これにより、ビジネスチームは反復的なタスクから解放され、ミッションクリティカルな活動やクリエイティブな活動に注力できるようになります。
また、情報に基づく意思決定の面では、高度なAIエージェントが機械学習を活用して大量のリアルタイムデータを処理し、的確な予測を可能にします。例えば、広告キャンペーンを実施する際に、AIエージェントを使用してさまざまな市場セグメントの製品需要を分析することができます。
AIエージェントは、1960年代から存在する概念が生成AIという技術革新により実用化の段階に入った技術です。現時点では発展途上ですが、数年後には企業の業務プロセスに不可欠な存在となることが予想されます。この技術の特性と可能性を理解した上で、自社における活用の方向性を検討する必要があります。
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