2024年末からブームが始まりつつある「AIエージェント」とはどんなものか。本稿ではAIエージェントの「レベル」と現状について解説します。
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AIやデータ分析の分野では、毎日のように新しい技術やサービスが登場している。その中にはビジネスに役立つものも、根底をひっくり返すほどのものも存在する。本連載では、ITサービス企業・日本TCSの「AIラボ」で所長を務める三澤瑠花氏が、データ分析や生成AIの分野で注目されている最新論文や企業発表をビジネス視点から紹介する。
顧客対応の量が増えれば増えるほど、より多くのサポートスタッフが必要になる。これはこれまでのカスタマーサービスの常識でした。しかし、Harvard Business Reviewの分析によれば、AIエージェントの導入でサポートリーダーは需要に応じてチーム規模を拡大する必要がなくなるとのこと。AIによってより良く、より速く、より経済的なカスタマーサービスを提供できるようになります。
MIT(米マサチューセッツ工科大学)研究員のデイビッド・バーバー氏は、AIエージェントと従来のチャットbotの決定的な違いを指摘しています。チャットbotが「次に来そうな単語を予測する」レベルにとどまっているのに対し、AIエージェントは自然言語による指示を理解し、監督なしで複雑なタスクを処理できます。
具体例として旅行予約システムのケースを考えてみましょう。「パスポートの更新が遅れているため水曜日に延期される可能性があるが、火曜日の朝にサーフィンの予約をしつつキャンセル保険を手配できるか」といった複雑な問い合わせには、従来の定型的なワークフローでは対応が困難です。このような場合、天気予報APIやGoogle Maps API、スタッフのスケジュール管理システム、ナレッジベースなどを連携させたマルチステップのAIエージェントが効果的です。
Googleの新プロジェクト「Astra」(アストラ)は、次世代AIエージェントの可能性を示しています。例えば、ユーザーはスマートフォンのカメラを通じて視覚情報を入力し、音声や文字でエージェントとコミュニケーションを取ることができます。これは、実世界のタスクにおけるAIエージェントの適用範囲を大きく広げる可能性を秘めています。
以下はAIエージェントの段階について中国の精華大学らの研究チームがまとめたものです。私たちの日々の生活ではL2からL3の技術の間にいます。
AIエージェントの種類(「Personal LLM Agents: Insights and Survey about the Capability, Efficiency and Security」より)Microsoftは、AIエージェントの実装において包括的なアプローチを提供しています。特筆すべきは、新しく導入された「Employee Self-Service Agent」です。このエージェントは、ノートPCの問題解決や福利厚生の利用限度の確認など、人事やITヘルプデスク関連のタスクを簡素化します。さらに「Copilot Studio」を通じて企業のシステムと連携させ、カスタマイズすることも可能です。
「Microsoft Teams」の「Interpreter」は、会議中にリアルタイムで音声から音声への翻訳を提供し、自分の声をシミュレートさせることも選択可能です。ビジネス用ソーシャルメディアの「LinkedIn」でも、リクルーターの採用活動を支援する初のエージェントが導入されています。
NVIDIAのジム・ファン上級研究員のチームは「Minecraft」での実験を通じて、AIエージェントの現状の限界を明らかにしています。ハルシネーションや指示への不完全な従順性など、まだ多くの課題が存在します。特にコンテキストウィンドウ(入力文字数)の制限は重要な課題です。ファン氏は「『ChatGPT』にコーディングはできますが、数百行のコードを含むGitHubリポジトリ全体を人間の開発者のように理解することは困難です」と指摘しています。
Microsoft AI Frontiers Labのエジェ・カマール氏は、2005年からAIエージェントの研究を進めてきました。彼女は「これまで私たちには、バックエンドでの一般的な問題解決能力が不足していましたが、大規模言語モデルがその欠けていた要素をついに提供してくれました」と述べています。
Microsoftの「責任あるAI製品最高責任者」(Chief Prodduct Officer)のサラ・バード氏は、「精度を確保するためにはテストとモデレーションに注力する必要がある。また、各組織が自分たちのニーズに合った適切な出発点を選ぶことが重要である」と指摘しています。
AIエージェントは、過去60年以上の研究の積み重ねが、現代の技術革新により実用化段階に入ってきた技術です。現時点で導入を急ぐ必要はありませんが、今後2、3年の間に本格的な展開が予想されます。企業は、この変革の波を見据えつつ、データ管理体制の整備やセキュリティ強化など、基盤となる環境の整備を段階的に進めることが求められます。
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