ML(機械学習)プラットフォームを他社に先駆けて導入するなど、AI活用に積極的なアフラックはなぜ生成AIに対して慎重な姿勢を取るのか。
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「ChatGPT」が2022年に登場してから(注2)、多くの企業やITベンダーが生成AIを業務フローに急いで組み込もうとする中、大手生命保険会社のAflacは異なるアプローチを採用した。
Aflacのシェリア・アンダーソン氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼最高情報責任者)は、「生成AIは業界に変革をもたらすと感じた。しかし、技術が成熟に向かうサイクルを考慮したとき、登場したばかりの技術は最も未熟な状態にある」と「CIO Dive」の主催イベントで語った(注3)
Aflacは生成AIの導入を急がず、現在でもこうした姿勢を変えていない。ただしAflacはAIの活用を躊躇(ちゅうちょ)しているわけではない。むしろ同社は5年前にML(機械学習)のプラットフォームを導入するなど、他社に先駆けてAI活用に取り組んできた。
なぜ、そのAflacが生成AIに対して慎重な姿勢をとるのか。その結果、同社の生成AIの取り組みで何を得たのか。
ChatGPTが一般公開されてから2年以上経った現在においても(注4)、同社はビジネスへの影響や戦略的な優先事項との整合性を慎重に見極めつつ、生成AIの導入を進めている。
「われわれにとって『なぜこれを行うのか』という問いから始めることが最も重要だ。つまり、ビジネスの機会が何かを明確にすることだ。現在においても、われわれはビジネス戦略との整合性を何よりも重視し、投資に見合うリターンを求めている」(アンダーソン氏)
Aflacは保険会社として規制の順守とデータセキュリティに重点を置いている。同時にコスト意識を持つことも重要だ。アンダーソン氏は「この2つの目標を達成するためには、生成AIの技術をハイブリッドアーキテクチャで運用する必要がある」と述べた。
「クラウド環境とオンプレミス環境のどちらを選ぶかを考えたとき、データの安全性やセキュリティを確実に確保するにはオンプレミスが望ましいと考えがちだ。だが、そのための価格設定を考えると、慎重に選択する必要がある。要するにバランスが重要だ」(アンダーソン氏)
Aflacが望ましい環境で生成AI機能を実行できるのは、同社のクラウド戦略によるものだ。アンダーソン氏は大手保険会社のLiberty Mutualや、軍人を対象とした金融サービス企業のUSAAで部門のCIO(最高情報責任者)を経験した後、2022年にAflacに入社した。同氏はAflacのクラウド移行計画のペースを意図的に落とした。
「私は組織が新しい技術に対応できるようにツールやスキルを再整備し、その能力を十分に理解するための時間を設けたかった。われわれはどの機能をクラウドネイティブで展開すべきか、最重要なアプリケーションや基幹アプリケーションにどう投資するか、分散モデルのまま残してもよいものは何かなどについて評価を進めた」(アンダーソン氏)
生成AIのパイロットプロジェクトがビジネス目標の達成に貢献し、期待する成果を生み出すためには部門間の連携も重要だ。適切なスキルを持つ複数分野のメンバーで構成されたチームが、パイロットプロジェクトを正しい軌道に乗せる役割を果たしている。
アンダーソン氏は「特に生成AIを扱う場合、多くの異なるデータソースを活用することになる。組織をまたいだ課題を解決する場面も頻繁にある」と語った。各チームはPoC(概念実証)における投資対効果を検討し、それが十分な価値を持つと判断すれば、どのように導入を進めていくかを決定する。
Aflacが生成AIの活用を進めている分野の一つに加入手続きのデジタル化がある。これまで同社は、販売代理店などの販売パートナーが利用している、さまざまなシステムや登録プロセスの調整に苦労してきた。Aflacは原則的にシステムを自社開発せずに、他社が開発したシステムを購入したり、システム開発会社を買収したりしてきた。今回もスタートアップ企業を選び、加入登録手続きのデジタル化に関連する機能の検証を進めている。
「現在、多くのパイロットプロジェクトが進行中だが、完全に本番稼働しているものはない」(アンダーソン氏)
約5年前、Aflacは機械学習(ML)プラットフォーム「Code Based Processing」を導入してAI活用をスタートさせた。その主な目的は、品質およびビジネス価値の向上、顧客体験の改善だった。
生成AIが登場する以前からの取り組みにより、Aflacはデータ管理やAIモデルの導入、利用ガイドラインに関するガバナンスプロセスの整備をいち早く進められた。
Aflacはセキュリティ対策の強化と集中を図るため、エンジニアリングおよびアーキテクチャ、セキュリティ分野における米国と日本のリーダーで構成されるグローバルなワーキンググループを立ち上げた。
「当社は規制が厳しい業界に所属しているため、常に規制を意識している。真っ先に規制について考えなければならない場面もある」(アンダーソン氏)
このワーキンググループは、Aflacのデータプライバシーに関するガイドラインやプライバシー保護の実施状況、コンプライアンス要件を見直した。
アンダーソン氏によると、ガバナンスにおいて教育は重要な要素だという。Aflacは、取締役会も対象とする全社的な教育機会を整備している。
Aflacのイノベーションラボは、ガバナンスとユースケースに関する優先順位付けといった目標もサポートしている。
「最初から規模の拡大や本番導入を前提に取り組むのではなく、迅速にテストを実施して学ぶ機会を得られるのが、この取り組みの利点だ」(アンダーソン氏)
原注:本稿は「CIO Dive」が2025年3月に開催したオンラインイベント「DIVE LIVE」で得られた知見を基に執筆された。各セッションは同社の公式Webサイトで公開されている(注1)。
(注1)Generative AI Where Are We Now?(CIO Dive)
(注2)The rise of generative AI: A timeline of triumphs, hiccups and hype(CIO Dive)
(注3)Generative AI Where Are We Now?(CIO Dive)
(注4)2 years after ChatGPT’s release, CIOs are more skeptical of generative AI(CIO Dive)
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