「システムが古いなら、人を増やせばいい」? 企業の3分の2がレガシーシステムを抱える背景に迫るCIO Dive

ある調査によると、3分の2の企業がレガシーな基幹システムを抱えている。「単なる重荷ではなく、グローバル企業の未来を脅かす時限爆弾」とも言われる技術的負債を抱え込む企業がなぜこんなに多いのか。その背景に迫る。

» 2025年06月16日 14時25分 公開
[Matt AshareCIO Dive]
CIO Dive

 ITコンサルティング企業であるPublicis Sapientによると、企業はモダナイゼーションを推進して技術的負債を解消するために生成AIツールに注目している。同社は、調査企業であるHFS Researchに依頼して、600人以上のITおよびビジネスリーダーを対象に調査を実施し、その結果を2025年5月8日(現地時間、以下同)に報告書として発表した(注1)。

「システムが古いなら、人を増やせばいい」?

 同報告書によると、回答者の5人に4人は「生成AIのコーディングアシスタントがレガシーアプリケーションのドキュメント作成」や「古いコードの書き換え」「ソフトウェアテストの自動化」を通じて、時代遅れのシステムを管理する負担から解放されると期待している。

 一方で、同調査では基幹システムをモダナイゼーションした企業の割合が少ないことも判明した。なぜ多くの企業がシステムをアップデートせず、レガシーシステムを維持することに貴重なIT予算を割くのか。その背景に迫る。

 HFS Researchによると、技術的負債は高く付く“頭痛の種”だ。米経済雑誌『Forbes』が毎年発表する「Forbes Global 2000」に選定された企業全体で1.5兆〜2兆ドルもの支出の原因になっているのが技術的負債だという。

 HFS Researchのフィル・ファーシュト氏(CEO兼チーフアナリスト)は報告書で、「技術的負債は単なる重荷ではなく、グローバル企業の未来を脅かす時限爆弾だ」と述べた。

 投資対効果が見込める生成AIのユースケースの中で、最も注目を集めているのがコーディングアシスタントだ。各ベンダーは数十年前のアプリケーションを解析、および再構築できるように訓練されたツールの展開に動き出した。

 IBMは、生成AI「Watsonx」に100以上のプログラミング言語を学習させ(注2)、COBOLで作られたアプリケーションをJavaに変換できるようオープンモデルを訓練した(注3)。Amazon Web Services(AWS)は、自社のAIアシスタント「Amazon Q Developer」にアプリケーションの構築能力を習得させ、2024年にはこのツールをメインフレームのモダナイゼーションに本格投入した(注4)。

 コンサルティング会社のAccentureによると(注5)、クラウドベンダーやソフトウェアベンダーが生成AIツールを次々と展開する中で、銀行業界が「実証の場」になっている。

 Goldman Sachsのマルコ・アルジェンティ氏(CIO《最高情報責任者》)が2025年4月に「CIO Dive」に語ったところによると、同社では、1万2000人の開発者が所属するチームが「GitHub Copilot」を活用し、約20%効率が向上した(注6)。大手銀行であるBank of AmericaとCitigroupもAIに対する投資から同様のリターンを得ている(注7)(注8)。

 Publicis Sapientのシェルドン・モンテイロ氏(エグゼクティブバイスプレジデント兼最高プロダクト責任者)によると、あらゆる業界の企業が生成AIを活用することで、モダナイゼーションの取り組みにかかる年単位の時間を短縮できるという。

 モンテイロ氏はインタビューで次のように語った。「AIは凄まじい。CIOはこの技術が大変な変革を起こすと認識すべきだ」

 Publicis Sapientは、AIを活用したモダナイゼーションツールを構築するため、2025年3月にAWSと5年間のパートナーシップ契約を結んだ(注9)。この提携では、ハイパースケーラーであるAWSのクラウドサービスを活用するだけでなく、ソフトウェア開発プラットフォーム「Sapient Slingshot」の展開および拡大も目指している。

技術的負債を維持するサービスで発展したIT業界

 HFS Researchによると、モダナイゼーションの機会は膨大だ。同社の推計では、市場規模が今や1.5兆ドルに拡大したIT業界は、技術的負債を解消するのではなく、技術的負債を維持および管理するサービスを中心に発展してきた。

 報告書によると、企業は平均してIT予算の約30%をレガシー技術の維持や管理に費やしている。それにもかかわらず、「基幹システムをモダナイゼーションした」と回答した割合は約3分の1にとどまった。

 モンテイロ氏は「ITサービスの購入方法や、ITサービス業界のインセンティブの仕組みに何か問題がある」と述べ、技術的負債を軽減する手段として担当者の増員に頼る傾向があることを指摘した。

 さらに、モンテイロ氏は「モダナイゼーションに10年もかかるのであれば、自分の任期中にそれを完了させられると思えるCIOが一体どれだけいるのか」と付け加えた。

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